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老朽化するインフラ

 埼玉県八潮市の道路陥没事故は、改めてインフラ整備の大切さを考えさせるものとなった。橋やトンネル、道路、河川、上下水道やガスの配管、都市の地下に走っている雨水管等々、見えるものや地中に埋められて見えないものも含めて、この維持管理がいかに大切かを突きつけている。いわゆる箱物に傾斜しがちな自治体も多いなかで、こうした目立たないインフラのメンテナンスや更新こそが重要性を増しており、今回のように大規模陥没して人命まで奪われてからでは遅い。

 

 都市開発がたけなわとなった高度成長の時期に整備したものといっても、それからゆうに50年近くを迎えており、当然劣化が進んでいる。国土交通省の調べでは、2030年までに50年をこえる社会資本の割合は、橋(73万橋)で55%、トンネル(1万2000)で35%、水道管(総延長74万㎞)で21%、下水道管(総延長49万㎞)で16%になるという。地球一周がおよそ4万㎞といわれているので、水道管や下水道管の総延長を考えると、いかに細かく全国津々浦々に張り巡らされているかがわかる。水道管だけで地球の19周分、下水道管で12周分にもなるのだから、車1~2台乗りつぶしてもたどりつけない途方もない規模である。しかし、そうした社会インフラがわたしたちの当たり前の日常を支えているのだ。

 

 2000年代からこの20年近くは、こうした社会資本の老朽化問題が幾度も取り上げられ、国土交通省が音頭をとる形で更新もそれ以前よりは積極的におこなわれてきた。しかし、とてもではないが費用も労力も膨大で追いついていないのが現状だ。

 

 社会インフラの老朽化は日本のみならず、とくに先進国で共通の問題にもなっている。イギリスやアメリカも同様に深刻で、新自由主義政策によって行財政の効率化をやりまくってきた国々で弊害が出ているのも特徴だ。すべてを市場原理にゆだね、水道はじめとした公共サービスを民営化し、企業は利潤追求のために極限まで老朽インフラに手を付けない。社会全体をどう維持するかといった観点が抜け落ち、営利追求の具にされた結果でもある。

 

 日本国内でも笹子トンネルの崩落事故があったが、老朽化しているにもかかわらず手を付けなかったことで幾人もの犠牲者が出た。高速道路の運営会社からすると、トンネル改修には膨大な費用を伴うことから、企業経営にとっては重荷である。しかし、怠って安心安全に人やモノを移動させるという社会的使命が抜け落ちたのでは本末転倒である。福知山脱線事故とて同じである。

 

 橋やトンネル、上下水道など暮らしを支える社会インフラの整備は国や自治体が責任を持っておこなうべきもので、優先課題としては大きい。そのために国家予算を投じて、全国津々浦々で土木建築業者をフル動員して事にあたるなら内需も生まれ、都市や地方を問わず経済の活性化にもなりえる。公共投資による財政出動である。

 

 今どき防衛費に8~9兆円も注ぎ込んで米軍需産業に貢ぐくらいなら、そのカネを全額社会インフラの整備に突っ込んだ方がはるかに国民の暮らしの防衛に資するに違いない。まさに防衛費である。あるいは何の役にもたっていない子ども家庭庁とやらに7兆円もの予算をつけるぐらいなら、それも回せばよい。地方自治体がもっと積極的に社会インフラの整備をおこなえるよう、国の補助率を引き上げるなど、政策誘導していくことも不可欠である。

 

吉田充春             

 

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