米大統領選について商業メディアは「もしトラ(もしもトランプが再選したら…)」などと騒いだり心配していたが、バイデン民主党への批判がよほど強烈だったのか、トランプが再び大統領に返り咲いた。開票もいざ蓋を開けてみたら当初の「ハリス優勢」はどこへやら。あれよあれよという間にアメリカ地図は赤く染まり、共和党・トランプ圧勝であった。物価高や貧困にあえぐ混沌としたアメリカ社会の矛盾を映し出した選挙結果なのだろう。
トランプの圧勝を受けて、民主社会主義者を自認するバーニー・サンダース(2016年の民主党予備選に出馬してヒラリー・クリントンに敗れた)が、「労働者階級の人々を見捨てた米国民主党が労働者階級から見捨てられたのは、さほど驚くべきことではない。民主党指導部が現状維持を擁護する一方で、アメリカ国民は怒り変化を求めている」とのべていた。なるほど、変化を求めるアメリカ国民の思いは鬱積しているが、民主党指導部すなわちリベラルエリートはそうした要求を代弁しておらず、労働者階級から見捨てられたという評価のようである。トランプが勝ったというよりも、おそらく民主党が自滅した選挙だったのだろう。
イギリスの労働党と同じように、米国では労働者や組合寄りのいわゆるリベラルを標榜する民主党ともいわれてきたが、クリントンにせよ、オバマ、バイデンにせよ、誰が大統領になろうが金融資本やネオコン、軍産複合体の利害に尽くす政治を実行し、戦争狂いであることには変わりなかった。背後で金力や権力を持つ者の使用人にほかならないのである。一方で新自由主義の総本山でもあるアメリカでは、国内の窮乏化がかつてなく深刻なものになってきた。サブプライムローンの破綻は最たるものだったが、街には家賃高騰でマイホームを叩き出されたホームレスがこれでもかと増え、映画『ノマドランド』が映し出したように、ノマド(遊牧民の意味)と呼ばれ車で各地を転々と漂流生活している人々までいる。
大谷翔平のアメリカンドリームにかき消されて、日頃からあまり日本国内には伝えられないものの、近年ではこうした社会矛盾の激化を反映して労働運動が熱を帯び、各種産業でのストライキが過去に例を見ないほど広がっているのも特徴だ。その要求はオキュパイ運動(若者たちによるウォール街占拠運動など)での「1%vs.99%」のキャッチフレーズとも重なり、金融資本をはじめとした一握りの富裕層がつかんで離さない富を社会全体のためにはき出させ、人々が生きていけない現実をどうにか変えたいという要求に収斂(しゅうれん)されている。ウォール街に批判の矛先は向いており、社会を構成し支えている人々、すなわち人間がまっとうに生きていける社会にせよという願いが根底に流れている。
これらのストライキの大半が、これまで労働貴族として培養されてきたインチキな組合幹部を押しのけ、そのかさぶたを剥ぎとることで発展しているのも特徴だ。リベラルエリートどもが興味も関心も示さないなかで、労働者階級としてはたたかっているのである。そして、見捨てられてきた人々は同時にリベラルの仮面をかぶったインチキを見捨てたということなのだろう。労働者階級の民主党離れが進んだ結果のハリス敗北であるというのなら、それは必然といえるのかもしれない。
吉田充春