いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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能登半島を見殺しにするな

 元日に巨大地震に見舞われ、9カ月ものあいだまともな復興措置がとられず放置され続けてきた能登半島を、今度は台風由来の集中豪雨が襲った。前代未聞の降雨量によって河川は氾濫し、もともと地盤が緩んでいたであろう山は崩れて集落は土砂に押し流され、地震にかつがつ耐えた家屋さえものみ込んでいった。家を失い、大切な家族を失い、それでもあの地震以来能登の人々が振り絞ってきたであろう気力の糸が、プツンと切れてしまうような耐え難い状況である。個人の財産などすべて地震にもっていかれ、そこからどう立ち上がればよいのか術さえわからぬ状況をずっと耐えてきて、辛抱に辛抱を重ねてきたうえに直面した二度目の激甚災害であり、国が全面的に能登の人々の暮らしを守るために身を乗り出し、早急に個人の生活再建にいたるまで大胆にバックアップする支援策を打ち出さなければどうしようもない局面である。


 同じく大水害に見舞われたイタリアでは首相がG7会議をキャンセルしてまで現場に足を運んで復興の陣頭指揮に当たり、あの北の将軍だって水害の現地視察をしているというのに、この国の首相ときたら数日前に輪島にやってきて「頑張りましょう」などと筆をしたためて、あとは退陣前の米国詣で(卒業旅行)に勤しんでいる始末である。それが政治的なパフォーマンスであれ、国民の生命や安全が脅かされているというゆるがせにできない場面で、能登に駆けつけるのではなくアメリカに向かい、次なる首相候補どもも総裁選への政治利用のためにチョロッとのぞき見にやってきただけである。それでなにもしないなら、「被災地を心配するオレ」プロモーションをしているだけであり、より悪質である。


 この自民党政権のもとで元旦の地震以後にやられたことといえば、復興などなんら手つかずで倒壊家屋はそのままの状態を強いられ、上下水道もまともに復旧できず、住む家を失った数万人が右往左往している状態もそのまま。基礎自治体の行政機能が麻痺している状況にあって、公的支援も次第にしれっと打ち切られ、実質的に中央政府から放置されてきたといっても過言ではない。それが証拠に9カ月も経ちながら被災地はそのままなのである。大都会あたりの偽善者がやれ「アフリカの難民キャンプが可哀想…」「愛は地球を救う」などといっている傍らで、能登半島ではどうすることもできずビニールテント暮らしを強いられている人々が存在し、それに対して紛れもない棄民政治がやられているのである。国による予算措置とて、東日本大震災や熊本地震と比較しても対応が遅く金額として脆弱で、まるで「田舎を復興しても仕方がない」というブレーキでもかかっているような調子である。こうした愛もなにもあったものではない冷酷な仕打ちに能登の人々はじっと耐えてきた――。しかし、今回の集中豪雨まできて、その温厚でお上に対して何一つ文句もいわず辛抱してきた人々の感情も限界を迎えている。疫病神が「頑張りましょう」などと、まるで他人事のように揮毫(きごう)していったことと併せて――。


 いかなる地方であれ、そこに人々の暮らしがあり、国民の生命と安全が脅かされているという局面で、その生命と安全を守る責務を果たさなければならないのは政府である。地震や洪水といった災害に見舞われた地域がいつも見捨てられ、自力でどうすることもできない絶望的な状況に追い込まれた個人が「関連死」しなければならないというのは、それは「生命と安全が守られている」とはいえない。


 こうした事態に際して、政治なり政府が機敏に対応して、誰一人とり残すことなく「心配するな! 国がついている」と生活再建のための支援をおこない、突っ伏して起き上がれなくなっている被災者がいればそっと抱きかかえ、安心して暮らしを取り戻せるように全力で援助していくことがもっとも身近でありがたい安全保障であり、それはミサイルの撃ち合いを妄想して「国民の生命と安全を守る」と叫ぶ以上に、はるかに現実的で差し迫った課題である。

 

 防衛費として8兆5000億円も米軍産複合体に貢いでドブに捨てるくらいなら、能登復興にその半分でも注ぎ込んだ方がはるかに有効な使い道といえる。「ここまでやってくれるのか」と恩を石に刻むくらいのことをしてはじめて、被災地としては「あぁ、この国に生まれてよかった」と思えるはずなわけで、政府なり政権与党というものがそうした努力もせずに棄民しておいて、一方で「誇りある国」「美しい国」などと調子の良いことを口走るから虫ずが走るのである。

 

武蔵坊五郎        

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