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幻想が失せた資本主義

 イギリスやフランスで、大衆運動に揺さぶられながら政権交代や新人民戦線の躍進といった現象が起こっている【本紙既報】。鎖国状態とでもいうのか、あるいは都合の悪い情報はシャットアウトなのか、日本国内に伝えられる情報としてはきわめて限定的で、商業メディアも何もなかったようにスルーしているものの、新自由主義に犯されてきた先進資本主義国では、各国の特異性もあり決して単純ではないとはいえ、既存の政治構造を震撼させるべく広範な大衆的基盤を伴った政治闘争の機運が高まっており、貧困や戦争、強烈な搾取を強いる現在の資本主義体制のもとではもはや生きていけないという叫びが木霊しているかのようである。アメリカにせよ、日本にせよ、情報が隔絶された状況のもとでも人々の置かれた境遇はまるで同じであり、1周回った資本主義への幻想なんて、今時は大方の者が持ち合わせていないのが現実だろう。みずからが生きている環境を見渡してみて、「あぁ、とっても豊かな世の中だなぁ」なんて、先進資本主義国とやらに生きている人間のいったいどれだけが思っているというのだろうか。

 

 団塊世代の年配者曰く、戦後の相対的安定期には「資本主義の成長」に伴って豊かな未来があるかのような錯覚もあったという。しかし、数十年経ってみてどうだろうか。団塊ジュニア世代になるとロストジェネレーション世代といわれ、第二のベビーブームも起こらずに急激な少子高齢化社会へと向かった。孫たちの世代になると全国に雨後の竹の子の如く設立された「子ども食堂」に胃袋をかつがつ満たされているような世の中でもある。

 

 「貯蓄ゼロ世帯」なる統計も出てきて、とりわけ40代はすっからかんであるとか、現役世代は大学進学に伴う奨学金と称した学資ローンで金融奴隷にされて、結婚・子育てすらままならないとか、豊かな未来を思い描くにはほど遠い現実がこれでもかと横たわっているではないか。失われた30年を経てたどり着いた現在地は強烈な搾取社会であり、資本主義が行き詰まってより凶暴に進化を遂げた新自由主義が猛威を振るう世の中だった。

 

 トランプとバイデンがなんとも知れない大統領選をくり広げているアメリカとて、あるいは欧州とて、資本主義国として先んじて歩みを進めてきた国々でこそ、この新自由主義との矛盾が激突しており、個別の経済要求の中身の違いこそあれ、「みなが生きていける世の中」を求めた大衆行動が熱気を帯びている。かたや1%にも満たない富裕層とか金融資本が莫大な富を抱え込み、なんならタックスヘイブン(租税回避地)に隠匿したりして本当に品位の欠片もなにもあったものではないが、誰かにいわせると「血をしたたらせ」ているような強欲なむき出しの資本主義のもとで1周を経て、そのほかの圧倒的多数の人間に貧困を強いるような歪んだ社会をどうにかせよ! の力が働くのは当然である。

 

 物事の道程には当然にも紆余曲折があり、誰もが豊かに生きていける社会にたどり着くまでに、いったいあとどれだけの労力と年月を要するのかは未知である。イギリスやフランスの変化を見るまでもなく、過程では、支配の枠の中で飼い慣らされた既存政党の欺瞞や裏切りに直面する局面もあるのだろう。しかし、幻滅を乗り越えて、そうした壁をぶち破っていく勢力が台頭していく等々、様々な段階を経てたどり着くものであり、未来はそのようにして変化を恐れずに、その時代を生きている人間が作っていくものなのだと確信させる。

 

武蔵坊五郎              

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