いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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あゝ無情

 人口減少が著しい山口県は、もうじき解散しておこなわれるであろう次期衆議院選挙から3選挙区に再編され、代議士ポスト(選挙区選出)は4つから3つへと減ることになった。「保守王国」なんていわれながら、そのために代議士どもはイス取りゲームに汲々として、誰を排除していくかを巡って熾烈な争いをくり広げてきた。

 

 まずターゲットになったのが萩市、美祢市、山陽小野田市、宇部市を地盤にしていた旧3区の河村建夫で、それはもう自民党山口県連のはぐれ者として扱われ、見事なまでに排除された。安倍派と旧3区鞍替えを画策する林派、その他が徒党をなして河村潰しに動き、河村本人にとって3区公認断念の交換条件だった息子の比例中国ブロックからの出馬についても、杉田水脈を中国ブロック上位に押し上げるために安倍晋三が圧力をかけてよそに飛ばすほどの徹底ぶりだった。いわば利害が一致した安倍&林の結託によって成し遂げた選挙区剥奪でもあった。その後は県議会でも安倍派の子飼い県議たちが萩市長の田中文夫(河村実弟)をなじったり、河村一族は自民党山口県連のなかでものけ者である。山口県政に関係する者なら、この何年かのそんな空気はみんなが知っているのである。

 

 さて、そんな安倍&林が、衆院山口新3区を巡ってはイス取りゲームのファイナルともいえる争いをくり広げ、この公認争いは林に軍配が上がった。周知のように安倍派といっても安倍晋三は鬼籍に入っており、抗っているのは元下関市議の吉田真次と旧安倍派の残党である。自民党本部と自民党山口県連の中枢との間では、早くから林芳正公認で話がついているといわれ、林派がたかをくくっていたのに対して、清和会側も負けてなるものかと動きを強め、旧4区最後の補選で4月に当選した吉田真次と安倍昭恵が自民党本部に新3区の候補者として吉田を公認するよう要望したり、はたまた清和会トップが岸田文雄に直々に申し入れしたり、昭恵&吉田が麻生太郎に泣きついたり、なんだか懸命な動きも見せていた。しかし、新山口3区は林芳正に決定しており、どのようにあがいたところで裏で「話はついていた」のである。

 

 地元では何が動いているか? 今後、林派の天下が到来することを察知した人々による安倍派からの逃亡である。1人、また1人、2人と安倍派から離脱する者がおり、それはまるで沈没しかかった泥船から逃げるように、仁義など何もない逃亡劇が始まっている。「政治から距離を置く」ならまだしも、酷いのになると未来を想像して林派に媚びていく者までおり、自民党員ではない第三者から見ても「ホント、コイツらクソだな…」と思うものがある。それが企業経営者であれば政治に投機するのが術であるとはいえ、節操がないよね…と思うのである。安倍派と道連れで干されたくない…、林派が牛耳っていくピラミッドの構造にコミットしなきゃ…等々、思いはさまざまなのだろう。あれだけ「安倍先生!安倍先生!」と囃し立て、「昭恵さん! 昭恵さん!」と持ち上げていたところからのてのひら返しったら、安倍派の残党たちが可哀想に思えてくるほどドライなのである。

 

 安倍派ならぬ吉田派に身を寄せる面々たち、こうなったら無所属で吉田を林にぶつけ、安倍派のメンツをかけて最終戦に挑むとたいそう息巻いているそうである。これについては、比例上位及びその後のポジションを巡ってゴネているという見方もあるものの、机の下でひねりあいっこみたいなことばかりやってきて、いい加減、本気で殴りあえよ! と思っている第三者としては、ぜひとも見てみたいファイナルである。しかし、その場合、「安倍派のメンツ」は最終的に汚されることについて、果たして当事者たちがどれだけ先を読んでいるのかは不明である。

 

 既に萩、美祢、山陽小野田については先手を打って旧3区に乗り出した林が抑えており、吉田が選挙に無所属で挑んだところで足場などない。しかも、自民党に弓を引いた反党分子という烙印を押されることにもなる。それら覚悟で逆賊の道を進むというのなら、沈み行く泥船とともに心中する訳だから、ある意味潔いのかもしれない。11日には吉田事務所(旧安倍事務所)にて後援会の幹事会が開催されるという。80人ほどいるメンバーのうち、はたして何人が集まるというのか見物である。かつての秘書軍団も散り散りバラバラとなり、筆頭秘書なんて安岡の中小企業に再就職が決まり、ナンバー2、会計担当はじめとした面々もいなくなり、残っているのは受付にいたお姉ちゃんとお爺ちゃん私設秘書だけ、新規に雇い入れた私設秘書は“難あり”という事務所の体制で新3区を戦えるというなら、それはそれでやってみればよいのだ。

 

 比例単独は2期に限るのが自民党の規定で、選挙区を持たぬ候補者は必然的に淘汰される。安倍晋三の後ろ盾を失った杉田水脈がまさにそれであり、吉田真次も後を追う運命なのだろう。というか、「比例中国ブロックの上位」なんて自民党山口県連は本部にお願いしたけれど、水面下では「えっと…、実はどうでもいいッス」がメッセージなのだとしたら、ファイナルは既に決しているともいえる。政治の世界とは無情である。

 

武蔵坊五郎     

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