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食料自給率37%の恐怖

 世界的な原材料費の高騰と円安によって輸入物価が高騰し、食料やエネルギーなど大部分を輸入に依存している日本社会は大変な事態に直面している。酪農家は牛の餌となるトウモロコシ価格の高騰に悲鳴を上げ、小麦も昨年の約2倍に跳ね上がった。肥料も輸入依存であるため、その高騰によって農業生産者もまた生産費の償わない状況にいっそう拍車がかかっている。物流もガソリン価格の高騰によって経営が圧迫されたり、鋼材も世界的なコロナ禍の影響もあってか高騰しており、土木建築や鉄工などの企業に聞くと資材がなかなか入ってこなかったり大変な事態には変わりないようだ。街のバイク屋さんに聞くと、物流の停滞によって新車の入荷も半年以上は待ちの状態だそうで、中古市場では品薄による価格高騰がすごいことになっているのだという。どの分野でも「これまでになかった」事態があらわれ、世界の混乱が大なり小なり波及しているのだ。

 

 輸入物価の高騰で翻弄されなければならない国の現実――。自給率100%が実現できていればびくともしないのだろうが、例えば食料自給率が37%の現実を考えた時、日本人の身体は六割が輸入でできており、不測の事態で輸入がストップした場合、生きていくことすらままならない状況を迎えることになる。戦後の食料難では、学校のグラウンドでは芋を植え、都市部の生活者は着物や時計、嗜好品などを持って田舎の農家を訪ね食べ物と交換してもらっていたというが、終戦直後の1946年の食料自給率は88%だったというから、はるかに食料はあったことがわかる。それでも戦時中も戦後も芋やカボチャばかり食わされたといって、亡くなった祖母は芋とカボチャを見るとひどく拒否反応を示していたものである。そんな戦後の食料難の時期よりもさらに半分以下の食料自給率というのがいかに危ない領域であるか、想像するだに恐ろしくなる。日頃は自給率37%の現実はベールに包まれ、輸入によって出来上がった飽食の時代を謳歌している者にとって見えないものになっているが、世界的動乱等によって輸入が途絶え、あるいは価格高騰に見舞われて、ハッと気付いた時には手遅れなのである。

 

 世界はグローバルにつながり、そのもとで「なければ輸入すればいいじゃない」できたのが日本であろう。それはとくに食料戦略に如実にあらわれている。車などの工業製品の輸出を優先するがあまり、さまざまな貿易協定で農産物の「輸入自由化」を拡大し、そのことによって安い輸入物との競争を強いられた国内の生産現場は疲弊してきた。耕作放棄地が全国の津々浦々で増え続け、後継者がいないことから農業生産者も生産量も減少の一途をたどり、農業破壊の傷跡は深刻である。そんな状況下でいざ食糧難が現実のものになった場合、かつてのように着物や嗜好品を田舎の農家のところに持っていったとして、どれだけの日本人の胃袋が満たされるというのだろうか。下関を見ても耕作放棄地は増え続け、地域の自給率すら満たせないのが現実である。

 

 食料を他国に依存するとは、首根っこを押さえられるのに等しく、国民の生命を他国に委ねることを意味する。食料安保とはそのように重要な問題であり、国をしてミサイルを配備する以上に最大限力を注がなければならない分野なはずだ。昨今の円安が問題になっているのも、そもそも食料自給率100%を実現しているなら為替がどう変動しようが食料価格への影響はもっと限定的なものに抑えられたはずだ。

 

吉田充春        

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