下関市役所の役人が下関港に水揚げされるアサリの輸入額は日本一!なんて自慢していたけれど、なんのことはない。そのほとんどが国内に流通する過程で熊本産アサリや他の産地の国産アサリへと衣替えし、さながら偽装食品を受け入れる海の玄関口みたく扱われているではないか。実に輸入アサリの9割が下関港に水揚げされ、そのうちの8割は熊本での畜養を経ることもなく、全国のアサリ産地や流通業者のもとに運ばれ、どの段階でどう化けていくのかは霧に包まれているものの、「国産」として店頭に並んでいるというのである。それを「美味しい」といって消費者は長らく口にしていたのだ。
かねてよりアサリやシジミについては、「相当にアウトローな流通経路を経ている」と下関の水産関係者のなかではヒソヒソと話題にされてきた。昨今の報道では中国産及び韓国産アサリが熊本産アサリに化けているという扱いであるが、「中国産」というのもまた事実と異なり、本当の産地は「北朝鮮だよ」と、水産関係者の誰もが口には出さずとも思っているのである。中国の大連を出航した船舶が洋上で北朝鮮の船舶と落ち合い、瀬取りといって洋上にて荷移しをおこない、そこから下関港を目指してやってくるのだと――。
博多港でもなく、あるいは東京などの大都市圏に近い港にダイレクトに水揚げされるのでもなく、本州の最西端である下関港にすべて運ばれてくるのは朝鮮半島に近いためで、地図を見ればわかるように大連から出航すれば北朝鮮沖の洋上も航行することになる。そこで、瀬取りしようと思えばいくらでもできるのだろう。ただ、その実態を解明するといっても、日本の巡視船の手が届く範囲ではなく、下関港に入ってきた段階では「中国産」として通関を突破するようなのだ。
では、どうして、そのように手の込んだことをするのか? それもこれも北朝鮮と国交がなく、2009年以降は日本政府の独自制裁によって表向きは「貿易実績なし」になっていることが関係しているようである。公明正大に取引できないもとで、かといって国内のアサリ需要はあるわけで、北朝鮮産から中国産へと国籍がかわり、さらに消費者が国産アサリでなければ購入しないという風潮のもとで熊本産アサリに変わり、二重国籍ならぬ三重国籍のアサリに生まれ変わっているのである。シジミなんてほとんどが北朝鮮産といわれ、貝類の大好きな日本人の食卓は、何の皮肉なのか北朝鮮に支えられているようなのである。
「中国産」「韓国産」への拒否反応を理由に、北朝鮮から持ち込まれた大量のアサリたちは「熊本産」と命名されて売り場に並べられる。まるで現代版というか、貝版の創氏改名かよとも思う。これを「北朝鮮産」として店頭に出したら、さらに拒否反応が高まるのであろう。とはいえ、北朝鮮は海洋汚染や沿岸開発が進んでいない分、豊かな漁場でアサリやシジミが豊富に獲れるとかで、それは収穫量が激減している日本国内の産地とはまるで対照的にも思える。日本の産地でかつて大量に水揚げできたように、手つかずの自然環境が残っているからこそ、海の向こうではたくさん収穫できているのだ。
日本の消費者としては国産を求めるのに、国内の産地は沿岸開発や汽水域の川砂採取等等の影響で年々収穫量が細り、足りない分の穴埋めを輸入に依存している。ところが、外国産表記にするとたちまち拒否反応が生じてしまう。「国産は安心」という固定観念が強く存在しており、「それなら熊本産で出荷してしまえ」になり、消費者としても「熊本産は美味しいね」の図式が構築されてきたのだろう。
今回の一件について考えたとき、「熊本産と思って購入してきたのに、けしからん!」と激怒して、偽装に手を貸した業者を吊し上げたところで、果たして何が解決するのだろうか? とも思う。「アウトローな流通経路」というが、おかげで国内におけるアサリの供給は維持してきた側面もあるわけで、諸事情により「アウトロー」扱いされている状況をどうにかして、公明正大に「インハイ」な流通経路にすれば何らの問題もないはずだ。そして、これまで「熊本産は美味しいね」といって食べ続けてきたのだから、いまさら「中国産」「北朝鮮産」と表記が変わったところでアサリはアサリであり、偏見を排除すれば同じ味のアサリなのである。最も大切だと思うのは、食料が輸入依存になっている、国産不足だからこそ生じる需要と供給のミスマッチを背景にした偽装表示であり、国産が食べたければ産地を守り、沿岸を守るためのとりくみを具体化するほかないのである。
なお、アサリ、シジミの他にハマグリも大量に輸入されているけれど、「アイツら絶対に畜養なんて無理だよ」と関係者はいう。“蛤3里”といって、一夜にして約12㎞移動するほど行動的であるため、大概が漁場から逃げていくのだそうだ。 吉田充春