宇都宮での電車内における高校生暴行事件は、なんとも痛ましいと思うと同時に、周囲に助けてあげることのできる大人は一人もいなかったのだろうか…という感情がわいてどうしようもない。高校生が電車内でタバコを吸っていた28歳を注意し、逆上され、土下座させられたうえに踏みつけられ、顎の骨を折るなどの大けがを負わされたあの事件のことだ。28歳の兄ちゃんがどれだけの暴れん坊なのかは知らないけれど、あまりにもあんまりな未成年相手の一方的な暴行である。その場に武道経験者なり腕力のあるストロンガーがいなかったにしても、見かねて「やめろ!」と制止する大人が5~6人でもいれば、初動対応如何でなんとかなったのではないかと思うのだ。
とはいえ、いざそのような現場に居合わせたとして、誰しもできることなら関わり合いたくない…と思うのもまた自然なのかもしれない。世の中では猟奇的な無差別殺人事件などが頻発しているし、相手はナイフを持っているかもしれない等等、考え始めたらキリがないほど止めに入る際のリスクも山盛りである。ただ、咄嗟に事情はわからないにしても、いたいけな高校生がイキった男に延々やられっぱなしになっているというのは明らかに異常であるし、見て見ぬ振りをして通り過ぎる男にだけはなりたくない…と思う。
それは女性には無理で危険といったらフェミ界隈の人たちから「女性差別だ!」といって抗議されるかもしれない。しかし、やはり目の前で起こっている暴力沙汰を仲裁することに限っては、女性や子ども、あるいは老人ではなく、社会的に見て大人の男たちの役割ではないかと思う。この場合、還暦過ぎた男たちは「兵役免除」が許されるとしても、20~50歳の男たちは頑張らないといけない場面なのではないか? とも思うのだ。もちろん自分自身を含めての話である。
しかし、やはり一人や二人の勇気だけではどうにもならないのも現実で、こうした場面にいざ出くわした際にどう動くことがベストなのだろうか。合気道経験者なら一人でもいけるかもしれないし、ラグビー部みたいな屈強なガタイの持ち主も一人でいけるかもしれない。ゴリラ並のパワーを持っているトレーニーもしかり。しかし、そうでない並の成人男性でも5~6人が「やめろ!」と制止すれば、警察が来るまでフルボッコみたいなことにはならないように思う。かりに3~4人であっても、その3人なり4人の本気の制止にはかなわないだろうし、暴れている側についてもそれ以上事態を悪化させて罪を重くするよりも、「あんたもそれ以上はやめとけ」くらいの冷静さを求めて仲裁できないものかと思う。今回のケースは論外であるが、仮に当事者同士が登り詰め、互いの面子もあって挙げた拳を降ろすきっかけを失っている場合などは、第三者の仲裁で鉾を収めるきっかけくらいにはなるのではないかと。最も現実的な選択としては、自分だけで行こうとするのではなく、周囲の見も知らぬ男性たちに「皆さんも力貸して」くらい呼び掛けて、集団で仲裁するなり止めに行くのがベストなのだろう。
世の中相当に荒んでいるし、暴力沙汰も多い。草食系男子などと呼ばれる男子も多い昨今ではあるけれど、極限状況に遭遇して自らの勇気や正義感が問われた場面で、ビビッて「この、意気地なし!」と呼ばれるのもまた、男が廃るというものである。いわんや止めるでもなく周囲でスマホ動画撮影に興じているなど、最低だと思うのである。 吉田充春