いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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選挙区再編前のジャブ

 山口県の副知事が先の衆院選に際して、部下に林芳正後援会への入会依頼をしていたことから公選法違反で略式起訴される事態に発展している。幾人かの県職員に聞いたところ一様に「なぜ今?」と驚きが隠せないようで、「林芳正に限らず他の政治家の後援会でもやられてきた」「綿屋(元副知事)とか弘中(元副知事)はもっとゴリゴリだった」といい、役所組織のなかでは県選出国会議員におべんちゃらをするのは慣例みたくなっていたことを暴露していた。それ自体、公選法違反であって当たり前ではないが、気になるのは「なぜ今?」という部分なのだろう。これまでは県庁の真横にいながら大目に見ていた山口県警が、なぜ今になって林芳正をターゲットにして動いたのか? 背後でどのような力が働いているのか? に関心が集まっているのである。

 

 山口県庁に限らず、役所幹部が選挙に関与する事例は枚挙に暇がない。そのほとんどが摘発されず、今回のように略式起訴されるわけでもない。そんなことは警察組織が一番よくわかっていることだろう。役所トップを決める市長選になれば、勝者を見定めて期間中や期間前から選挙応援に加担することで論功行賞を狙いに行ったり、自民党陣営の出陣式に自治労関係者が押し寄せて“協力してます”アピールに精を出していたり、それはもう選挙後の我が身とかかわった一大事なのである。政治家に選挙で協力している姿を見せつけて役人としての恩を売り、見返りとして自身の出世や立場の安泰を求める。その場合、後援会員を何人集めたかはいわば成績表であり、貢献度の数値化でもあるのだろう。

 

 斯くして役所幹部の選挙関与や自民党政治家とのズブズブの関係について珍しくないといったら「公選法違反を正当化するのか?」と批難もされるのだろうが、それは大目に見てなに一つ摘発してこなかった捜査機関の怠慢なりさじ加減を批難するべきだろうと思う。だって、役所幹部が選挙に関与している事例は山ほどあるのだから――。そして、摘発するなら数え切れないくらい摘発できるのに、どうして小松副知事だけがセンセーショナルに摘発されたのか? 誰の何のメッセージなのか? が気になるのである。

 

 山口県庁といえば、先々代の二井関成元知事が名実ともに林派であり、その娘も林一族に嫁いでいるほどの関係だ。この度の衆院選では県議会の自民党議員たちも河村排除、林支持で積極的に動き、恐らくそんな県議会に追随する形で副知事の動きもあったのだろう。県議会においてなぜか萩市政(河村建夫の弟が市長になった)を罵倒するのはいつも安倍派も含む自民党県議たちであり、県政及び自民党県連のなかで河村建夫の影響力は急速に衰えているのが現実である。否、衰えているというより嫌われすぎである。その河村を三区で蹴散らした林芳正が岸田政権で外相になり、今から登り調子かに見られたタイミングでの今回の摘発――。今、林芳正を抑えておかないとヤバイと思っている男がいるとしたら誰でしょう? が謎解きのカギになるのかもしれない。自民党県連関係者や自民党県議たちが思い浮かべているのも、恐らくビンゴで「あの男でしょ?」とは思うのである。ただ、へんに暴れたら県連内も大揺れになるだろうし、あんまり机の下でひねりあいっこみたいなことばかりすると次の衆院選(選挙区減)にも跳ね返る気もして、さあ林vs.○○の暗闘はどうなるのでしょう? と今から心躍り、おおいにつぶし合えとも思う。

 

 小松副知事の略式起訴は、選挙区再編を前にしたジャブなのだろうと勝手に想像している。

 

            吉田充春        

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