山口県内では衆院山口3区を巡る河村建夫vs林芳正の公認争いで林に軍配が上がり、次なる世襲政治家同士の生き残りをかけた選挙区争奪は、4区の安倍晋三vs3区の林芳正に移行しつつあるともっぱらである。次期衆院選からは選挙区再編によって4区と3区の一部が併合されることになり、両者が相まみえる構図が避けられないからだ。
前段となった林芳正の3区への鞍替えは、4区から出て行ってくれることを歓迎した安倍晋三のおかげなのだと林派の面々は3区強奪に成功した舞台裏を語る。ひとまず河村排除では両者はウィンウィンの関係を切り結んだようなのだ。しかも念には念を入れて、河村の子息が中国ブロックから比例で出馬する道も安倍晋三及び県連会長の岸信夫の意向によって阻止し、北関東に飛ばして落選に追い込んだ。こうして、まずはイス取りゲームにおいて河村一族が脱落し、完膚なきまでにその芽を摘んだが、必然的に「お次は誰?」が始まっているのである。選挙区減にともなう世襲政治家同士の生き残りをかけたバトルは、いわばこれからが本番で「河村討伐」などプロローグに過ぎないのだった。
新3区になるであろう下関、長門を含む地域では、もともと中選挙区時代から安倍家と林家が保守同士で地盤を争い、下関では子分たちが相まみえた市長選でもほぼ互角の勝負をしてきた。小選挙区制度に移行してからというもの、衆議院議員と参議院議員で住み分けして国政選挙では「二人で一つの命じゃろうが」をやるものの、地元利権の奪い合いでは火花を散らすこともままあった。近年でも林派の中尾友昭元下関市長が気に入らないからといって、安倍晋三が秘書出身の前田晋太郎をぶつけて市長ポストをもぎ取ったり、両派には随分と感情的な軋轢があるのも特徴だ。
安倍派からすると「林が3区に出て行ってくれて4区で安泰」と思ったのも束の間、今回の衆院選では別れ際に2万4000票減のボディーブローを放たれ、随分と効いている風にも見える。あんな得票の減らし方はどう見ても組織的な力が作用していると見なすのが普通で、選挙にそっぽを向いていた林派の表情を見ればなにがしかの想像がつきそうなものだ。ポッと出の女性候補がいきなりあんなに得票を集めたのも、棄権はしたくない人々(林派を含む)の受け皿として機能したと見なすなら、むしろ自然にすら思えてくるから不思議である。
そんな再編区になるであろう新3区で何年も前から先行して地盤を固め、萩、美祢、宇部、山陽小野田と市長ポストも含めて抑えてきた林派に対して、中選挙区時代からこの四半世紀以上にわたって地盤などなく、4区にこもってきた安倍派では出遅れ感が否めず、ヨーイドンからして林派リードといっても過言でない状況だ。河村を排除するという目先だけを見ていたら、河村vs林であるが、その先の安倍vs林を見据えて3区に手を付けていたとしたら、なかなかの試合巧者といえる。しかも、河村の子息の北関東飛ばしも安倍晋三&岸信夫にやらせて、恨み骨髄の河村としては新3区で安倍応援に後援会を組織する義理もない。そもそも、3区横取りは「安倍と林の策略だ!」と激怒している河村派の後援会幹部たちをどう説得するのか? という問題もある。
山口4区における2万4000票減の意味合いは深く、凋落しつつある安倍家の姿とともに、「新3区は林派リード」が浮かび上がってくるのである。
武蔵坊五郎