山口3区の河村建夫と林芳正の自民党公認争いは林芳正に軍配が上がり、河村建夫が無念なのか織り込み済みなのか引退に追い込まれた。自民党山口県連の関係者たちのなかでは「もう3区は林芳正で決まっているのに、なぜか河村がごねてるんだよ…」「息子を国会議員にしたくて、その確約が欲しいがために粘っている」なんて囁かれていた今回の公認争い。二階幹事長の降板もあって形勢逆転となったのか、直前になって保守分裂選挙は回避する運びとなった。自民党本部は河村の長男を比例区から出馬させることを提案したようで、ある意味、河村の“ごね得(ごねて得する)”を見せられたような気がしないでもない。ゴールポストははじめからそこだったんでしょ? とも思ってしまうのである。
「それにしても息子の評判が…」等々、自民党界隈にもさまざまな思いが交錯しているようで、自民党のお家騒動も大変ですね--と他人事ながら思う。近い将来の選挙区再編も動くなか、自民党山口県連のなかでもどこか浮いていた河村が排除されるにあたり、最後っ屁で息子を比例候補としてねじ込んだ、そんな光景なのだ。一度振りあげた拳を下げるさいの条件闘争や顔つき、所作などを見ていて、「78歳、粘りましたなぁ…」と評する人がいる一方で、河村が地盤を引き継いだ田中龍夫元代議士は世襲を嫌って河村に譲ったのに、自分は世襲なんかい! というツッコミだってある。恐らく国会議員とは、一度やったら辞められない止まらないカッパえびせんのようなものなのだろう。山口県選出の国会議員ときたら、どいつもこいつも筋金入りの世襲ばかりなのである。
地盤、看板、カバンがなければ国会議員にはなれないといわれ、代議士ポストが世襲によって特定の一族に私物化される問題については、随分以前から批判がある。ところが、ポッと出の新人が選挙区で10万票を獲得するとなるとハードルは高く、その地域で代議士ポストを頂点にして長年月かけて出来上がった地縁血縁、自治体の首長や県議、市議といった大勢を占めるしがらみ、あるいは取引先の企業の系列など、ピラミッド型のシステムをぶち破っていくのは至難の業だ。
たとえば山口4区で見ても、東京生まれ東京育ちのいわば“よそ者”にすぎない安倍晋三が選挙区で当選できるのも、一方でそんな地元も東京界隈における岸信介から連なる政界での権力に投機し、その力によってなにがしかの良い思いができるのではないか? 企業であれば省庁に口を利いてもらったり、秘書を可愛がっておけば利権に食い込めるのではないか? とか思惑はさまざま。相互依存の関係で「安倍先生!」と叫んでいる者だって少なくないのだ。それが桜を見る会なんかに呼ばれた日にはもう、お上りさんになって舞い上がっちゃって、「次の選挙も頑張る!」なんてことになるのだから困ったものだ。
ところで、河村排除によって山口3区は林芳正が晴れて選挙区乗っ取りに成功したとはいえ、人口減少の著しい山口県では近い将来の選挙区再編が待ち構えている。1~4区だったのが1~3区へと代議士ポストが減らされ、選挙区調整がおこなわれるという。そうなると安倍、林、高村、岸の4人のうち誰か1人が犠牲になり、誰かと誰かが激突することも避けられない。さながら世襲たちによるおしくら饅頭といおうか、イス取りゲームの幕開けである。郷土の衰退について、これらの世襲たちがどこに目をつけて何を見ていたのかわからないが、疲弊しまくったおかげでみずからの足場も失うのである。その場合、「安倍家は兄弟2人で欲張らず他に譲れ」という世論が自民党山口県連のなかでも起こるだろうし、なんなら安倍vs林だってあり得るのだろう。
吉田充春