自民党総裁選がようやく終わり、安倍・麻生といったキングメーカーたちの目論み通りに岸田文雄が新総裁の座に就き、総選挙直前の衣替えが完了した。メディアは噛ませ犬としての河野太郎人気なんて煽っていたものの、最後は永田町に生息する国会議員たちが派閥の力関係や利害を読み、勝ち馬と見なして全乗っかりするというオチであった。
安倍、菅が放り投げた後のコロナ禍の政権運営とは、すなわち尻拭いにほかならないが、この尻拭い争いに権力に目がない2軍たちがわらわらと色気を見せるのがいまの自民党なのだろう。岸田とて、首相になるためにはあっちにご機嫌伺い、こっちにご機嫌伺いの連続で、後出しジャンケンのように主張をずらしてにじり寄って行く様は、どう見てもキングメーカーたちの傀儡を思わせるものだった。彼らに恭順の意を示し、このてのひらの上で泳ぎ回ることを余儀なくされた新総裁、次期首相というわけである。かつて自民党のなかでも主流派といわれた宏池会とは、小商人(こあきんど)集団にでも成り下がったのだろうか? と思うほど、なんだかせこいというか、「いまならボクも首相になれる」的な、みみっちい印象を受けるのはそのためなのだろう。河井案里の買収選挙で地盤の広島に手を突っ込まれてなお、総理・総裁になるためには安倍晋三ににじり寄るという様について、自民党広島県連のみならず、広島県民の皆さんはどんな印象を抱いているのだろうか? とも思う。林芳正が同じ派閥所属とあって、山口県民から見るといつもおこぼれ狙いな感じがそっくりな気もしてしまうのである。
この総裁選、もとはといえばコロナ第5波に見舞われて菅内閣の支持率が急落し、直後に控える解散総選挙で「菅義偉の顔ではたたかえない」ことを理由にしたものだった。こと顔つきだけとって「不景気な印象…」「疫病神みたい…」などと評されると菅義偉が多少不憫にも思えるが、自民党としては一年前に尻拭いを押しつけた菅をあっけなく引きずり降ろし、総選挙での惨敗に脅えた挙げ句の衣替えであり、それ以上でも以下でもない。安倍8年、菅1年の私物化にケジメがなく国民を置き去りにした聞く耳のない自民党政治のイメージを払拭するために、宏池会所属の岸田を次なる「顔」にして看板を塗り替え、中身はそのままにイメチェンをはかっているのである。それは自民党内の権力闘争による実権の変化をともなっておらず、世間へのたぶらかしといえる。なにせ、好き放題の限りを尽くして幾つもの疑惑を抱え、国難ともいえる疫病禍に直面すると政権を放り投げた者が恥も外聞もなくキングメーカーを気取っているのが自民党で、何も変わっちゃいないのである。
傍から見て誰の顔でも同じだろうとは思うものの、永田町の自民党国会議員たちは「岸田なら総選挙に勝てる」という判断を下した。
菅義偉はいまごろ、鏡の前でどんな心境なのだろうか?
吉田充春