林芳正参院議員が辞職し、衆院山口3区に鞍替えすることにともなって、山口県では10月7日告示、24日投開票の日程で参議院議員の補欠選挙が実施されることになった。自民党は比例にまわっていた北村経夫(元産経新聞記者、田布施・天照皇大神宮教開祖・北村サヨの孫)に選挙区を与える形で擁立し、対する野党側は立憲民主党県連顧問の平岡秀夫元法務大臣に声をかけたものの本人が乗り気でないとかで、いまだに候補者が擁立できない状態のまま日にちだけが過ぎている。選挙には「迷惑系ユーチューバー」といわれる「へずまりゅう」が立花孝志率いる「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」(NHK党)の公認で出馬することから、実施されることだけは確実視されている。
そこで問題になっているのは、10月26日公示とも見られている総選挙への余波である。10月7日以降は参院補選に候補を擁立していない政党は、公職選挙法201条の6、7において、チラシの配布や挨拶回り、電話がけ、街頭演説、人を集めた政談演説会、宣伝告知のための自動車及び拡声器の使用ができず、政治活動はほぼ封印されることになる。つまり、総選挙直前のもっとも佳境に入る時期ともいえる10月7日~24日の2週間も足止めをくらい、24日の投開票を経た翌々日の26日には公示日を迎えるというスケジュールにもなりかねない。その間、補選への届出政党だけは政治活動が自由にできるため、自民党及びへずまりゅうの所属政党は前述したような有権者の前での露出が可能となる。
例えば山口4区で見ても安倍晋三の挨拶回りだけは最後の追い込みができ、対抗馬は本来力を入れるべき街頭演説や挨拶回りの総仕上げは打ち止めを余儀なくされることになるのである。それはまるで準備運動なしの「よーい、どん!」みたいなもので、片や助走付きというか、選挙モードに入った状態そのままに走り抜けていく政党組織と、そうでない政党組織とのハンデは歴然としている。
仮に立憲民主党がこの補選に候補者を擁立すれば、立憲民主党から衆院選に出馬する候補や陣営は選挙区で政策を訴えることができ、次なる衆院選に支持者獲得の動きをつなげていくこともできるが、擁立できなかった場合は足止めである。他の政党とてそれは同じだ。こうして、自民党だけは実質的に中一日の休みを挟んだ4週連続の選挙活動・政治活動という従来の2倍の期間を要した選挙戦を展開できるというのである。衆院選と同日選挙にすれば効率がよいものをあえて時期をずらし、このような選挙スケジュールを組んだ者の意図を感じずにはいられない。
気がかりなのは、こうした2週間のハンデについて衆院選で各選挙区に候補を擁立する野党なり陣営の側が、どれだけ深刻に捉えているのか? という点だ。選挙が始まって、その期間だけ目立ちたがり屋たちが露出して飛んだり跳ねたりすればよいというものではなく、やはり足を使い、汗を流してなんぼなのが選挙で、果たして日頃からどれほどの積み重ねをしているのか? である。有権者のなかを丹念に歩いて生活を知り、何を求めているのかをつかみ、信頼関係を強めていく地道な活動を疎かにしている者が、やれどこそこの組織票が○票などと知ったかぶりをしたり、プロモーション戦略がどうとか浮ついたことばかり口にしているのを見ると、どこの誰とまではいわないけれど、選挙で敗北の経験しかない怠け者が何をわかったようなこといってんの? とは思うのである。
自民党が強いわけでもない折り、野党の側も足腰の弱さについて、あるいは課題についてメスを入れなければ、批判票の上積み頼みだけでは消滅政党になるほかないように思う。有権者の政党離れなのか、政党の有権者離れなのかはわからないけれど、いずれにしても両者の間が遊離している感は否めないのである。
武蔵坊五郎