他人の金メダルを本人の了解もないのに、なんのためらいもなく噛む――。衝撃の光景をニュースで見て、デリカシーのなさに唖然呆然とし、汚れたものを見たようで胸くそが悪くなった人も多いのだろう。職場でいっしょにニュースを見ていた周囲の女性たちも一様に「気持ち悪っ!」を連発していた。カチッと音まで鳴らして、なおかつ口のなかにもろにストラップをくわえているではないか。
70歳過ぎて思い上がった政治家が、自分の唾液及び歯形で他人のメダルを汚すことに躊躇がなく、相手に対する敬意などまるでなく、やって許されることと許されないことの判別がついていないのである。世間的には誰から見ても非常識な振る舞いなのに、名古屋市長の河村たかしのなかでは五輪に便乗して目立つためなのか、テレビうけするパフォーマンスだけに前のめりになって、あのような行動に及ぶのである。唾液をつけられた選手からするとたまったものではないし、炎上するのも無理はない。
反省のない謝罪会見たるや、誰が書いたものなのか文章を読みながら噛み噛みで、この男はいろんな意味で噛み癖でもあるのだろうかと思うものだった。まずはメダルの持ち主である後藤選手に誠心誠意「ごめんなさい」であろうし、自分の言葉ではないが故に噛んでしまうような心ない文章を読み上げて、いったい何が謝罪といえるのだろうか。飛び上がってトヨタに詫びを入れに行くあたりがまた打算的に見えて、自己保身で汲々としている姿を印象付けたのだった。
不憫でならないのは後藤選手である。コロナ禍で開催そのものに賛否両論あるなかでの競技とはいえ、アスリートとしては苦労や努力の賜であろう大切な金メダルである。世界に一つしかない自分の金メダルを、事もあろうかデリカシーのない河村たかしの歯形付きにされて、しかもストラップまでくわえられて、「河村たかしの唾液がついたメダル」にされてしまったのではたまらないだろう。本人が気色悪いと感じて交換を求める場合は、IOCはじめとした関係組織は交換してあげるくらいの配慮をしてほしいものだ。あの場で若き女性アスリートが笑ってやりすごすしかなかった心情を思うといかばかりかと思うし、人によっては拳骨食らわすくらいブチ切れたっておかしくない場面だと思うのである。
河村たかしの噛み癖というと、「あいちトリエンナーレ2019」の展示作品(昭和天皇の写真を燃やした)を巡って、知事の対応を批判して彼らが取り組んだ大村知事のリコール署名も「噛みつき」の類であろう。高須クリニックの高須克弥院長が団体の代表をつとめ、河村たかしや日本維新の会の関係者らが加勢していたこのリコール署名は、結局のところアルバイトを大量に雇ってほとんどが偽装署名だったことが暴露されたが、そうした地方自治法を冒涜する前代未聞の組織的犯罪について、主犯が曖昧なまま今日に至っている。「噛みつく」ばかりで自らはなんら落とし前をつけないというのでは、金メダルにせよ、リコール署名にせよ、社会にとって有害なただのお騒がせ者ではないかと思うのである。 吉田充春
名古屋市の選挙民として、とても恥ずかしい。
政治への無関心であった自分を含めて、
このような政令指定都市の首長を選んだ結果が
招いたことだと強く感じます。