東京五輪の非日常に酔いしれた大騒ぎがくり広げられている裏側で、案の定新型コロナウイルスの爆発的感染が広がっている。27日には東京都の1日の感染者数は第三波をも上回る2848人、翌28日には3177人を記録した。急激な患者の増大によって医療崩壊を危惧する東京都は、都内の病院に通常診療等を制限するよう通達を出す事態にもなった。やれ金メダルを獲ったとかの飛んだり跳ねたりのドンチャン騒ぎと同時進行で、実社会においてはデルタ株が猛威を振るい始め、国民の安心安全が脅かされているのである。
同じくデルタ株のまん延によって苦闘しているインドやインドネシアの例を見るなら、疫病禍に置かれた国としてはまさに地獄の釜の蓋が開いたかのような危機的な局面といえる。それなのに、この国ときたら都合の悪いことには目をそらす癖でもあるのか、はたまたあえて苦しいことや課題は考えないポジティブ派というのか、猛暑もあって本気で脳味噌が沸いているのか、たがが外れたようにメディアも何もかもが朝から晩まで「○○選手、金メダル!」「おめでとう!」一色に染まっている。それはまるで、コロナにはもう飽きたから、みんなで何も考えずにこの夏をエンジョイしようぜ! みたいなメッセージにも映る。醸し出している空気は危機感とは対局のものなのだ。そうした煽られたお祭り騒ぎの空気が感染して「人流」も抑えが効かず、デルタ株の感染力の強さとも相まって、感染者数は日々うなぎ登りの数値を叩き出しているのである。
緊急事態宣言下の首都圏におよそ200カ国から何万人もの選手や関係者を集めて五輪を開催する無謀さは、当初より医療関係者や感染症の専門家たちが指摘してきたことだ。そして結果的に、選手村での感染もさることながら、たがが外れた首都圏において、今や緊急事態宣言が出ているにもかかわらず感染拡大に歯止めがかからず、「緊急事態宣言」そのものがなんの効果もないまで飾り物になっている状況が露呈している。これまでの波では、ユルユルとはいいながらそれなりに感染者数を抑え込んでいたのに、今回は「もう、やってられるか!」の支配的な空気と共にさらに本格化しようとしている。ろくに補償もせず、検査・隔離を徹底するわけでもなし、政府にとって頼みの綱だったはずのワクチンもまともに供給されず、多くの人にとって既に辛抱も限界を迎えているからにほかならない。
デルタ株については従来株やアルファ株と比べても感染力が強く、遺伝子的な特徴から日本人は重症化しやすいといわれている。従って、これまでよりもさらに徹底した防疫対策と医療体制の強化をしなければ、インドやインドネシアの二の舞いにもなりかねない。五輪のおかげで対策が二の次、三の次になり、その間にも燎原の火の如くコロナは日本列島に燃え広がり、お祭りの後に待ち受けているのが大惨事というのでは、それは人災以外のなにものでもない。「勝った、勝った」のバカ騒ぎに踊らされるわけにはいかない。 武蔵坊五郎