東京では緊急事態宣言が明けた直後の6月半ばを境に、連日の感染者数が前週を上回り始めた。6月30日には1日の感染者数が700人をこえ、3回目の緊急事態宣言を経てなお封じ込めには至らなかったことを示した。これは第五波の入口などではなく、徹底的な抑え込みに失敗してウイルスが市中にくすぶり続け、ぶり返しているだけなのである。今後、感染力の強いデルタ株(インド型)に置き換わっていくと考えれば、7月にはさらに感染拡大が進行すると見られ、4回目の緊急事態宣言発出も十分に考えられる局面である。しかし、一方では東京五輪だけは開催に向けてまっしぐらという支離滅裂な状態を突き進んでいるのが日本政府である。
PCR検査もろくにやらず、各国のようなロックダウン&生活補償もせず、ただ「自粛しましょう」の呼び掛けに終始する日本方式をバカの一つ覚えのようにくり返し、延々と自粛生活を強いられてきた国民としては辛抱もそろそろ限界である。「たいへんだ~! たいへんだ~!」と鐘を乱打されて当初は身構えもしたが、オオカミ少年よろしくそのうち慣れてくるといおうか、まともな防疫対策を施さない以上、この国に暮らす人間は感染リスクに晒される訳で、残る選択肢としてはワクチンを打つしかないが、そのワクチンも64歳以下になるといつ打てるのやらわからないという状態のなかで、もうなるようにしかならないのかな…という心境に陥るのも無理はない。辛抱すれば封じ込める、生活も補償してもらえるという確証があるならまだしも、実質的には飲食に酒類の提供や時間の制限をかける以上のことは何もしていないのである。ウイルスは夜行性でもないのに――。
今後増えるであろうデルタ株について専門家曰く、日本人の6~7割にとっては遺伝子や免疫の構造上、相性が悪いことが研究室段階ではわかっているとのことで、それはインド人の3~4割、欧米人の1~2割にとっての相性の悪さを上回るものなのだという。重症化リスク等についても感染が拡大してみなければ分からないといい、ある種の恐さがある。既に首都圏ではこのデルタ株の感染が拡大しており、五輪開催と爆発的感染拡大が同時進行となることは避けられないと見られている。
ところが一方では、東京五輪のために各国の選手団や関係者が続々と入国し始め、ウガンダの選手団みたいにユルユルの水際対策でデルタ株感染者を招き入れる事態にもなっている。ペルーをはじめとした南米地域で猛威を振るっているラムダ株はじめ、何種類もの変異株がいつどこから入ってくるかもわからず、まさに変異株の祭典と化すこと、各国株の一大中継ポイント(各国から持ち寄るだけでなく持ち帰る)としてこの五輪がハブ機能を果たすことが危惧されている。コパ・アメリカやユーロ2020といったサッカーの国際大会でも集団感染が起こっており、その比ではない大規模開催となる東京五輪が、何事もなく終わるようにはとても思えない。
現状では万歳突撃、一億火の玉でコロナウイルスのなかをマスクだけして丸裸で突っ込んでいるような愚かな状態である。感染爆発がわかっていながら五輪を強行し、挙げ句の果てには治療すら受けられない自宅待機の医療難民が出たり、救急車すらたらい回しにされるような第三波と同じ悲劇をくり返すというのは、国民の生命や安全に対してあまりにも無責任といわなければならない。それは犠牲を生み出して憚らないという態度にほかならない。そして、東京五輪を経由して各国に変異株を持ち帰るようなことにでもなれば、日本政府の責任は重大である。選手村でコンドームを配り散らして濃厚接触を促すというのだから、その危険性は十二分にあるのである。
五輪のために感染対策がないがしろにされるのではなく、感染対策のために五輪が規制(中止)されるべきだろう。飛んだり跳ねたりなんて、コロナが収まった世界でいくらでもできるのである。
武蔵坊五郎