中国電力が15日、埋め立て工事妨害といって祝島の漁民と外来のシーカヤック隊4人にたいして、損害賠償金として4800万円を支払えという裁判を起こした。だが埋め立て工事がすすまないのは、祝島の抗議行動がはじまる前からである。「原発はできる」というので、原発工事利権に群がってドッと押し寄せていた外部企業が、夏頃にはみな引きあげていった。工事がすすむメドがないからである。
工事がすすまない最大要因は、祝島が補償金の受け取りを拒否し、祝島の漁業権が消滅していないからである。埋め立て予定地の田ノ浦は四代の地先漁業権だが、隣接する旧一〇七共同漁業権の海域は、七漁協の漁業権放棄の契約は成立していても、祝島の漁業権は生きている。埋め立て工事による汚染によっても、またタイなどの産卵地をつぶす関係としても、祝島の漁業に影響が出る。この影響補償の問題を放ったらかして工事強行をすれば漁業権侵害となる。
「実力による阻止行動」という格好だが、かつての成田の例を見るまでもなく、国の中枢が本気のときには、裁判なんかせずに海上保安庁も警察機動隊も出てくる。今回そこまでしなかったのは、祝島の漁業権が未解決であり、合法的条件がないからである。
多額の賠償請求の裁判だが、これは抗議行動を止めさせることより、祝島に脅しと欺瞞で補償金を受け取らせるのが最大の意図である。「金を取られるのなら補償金をもらった方がよい」という脅し、「抗議行動で工事は止まるので補償金をもらって反対はできる」という欺瞞である。いずれにしろ今頃裁判を起こすのは、判決が出るまで工事延期する理由付けにする気なのだろうと思われる。
最高裁の「管理委員会の契約は有効であり、それに祝島は拘束される」という判決で祝島の漁業権は消滅したような気になって、二井知事は埋め立て許可を出し、中電は漁業補償金の残る半金を支払ってしまった。祝島の漁業権を変更できるのは祝島の漁協総会だけであり、最高裁といえども人の財産を消滅させる権限はない。工事妨害の損害賠償は、勝手に突っ走った二井知事と中電自身に請求しなければならない。
県水産部が20年来信漁連問題などの大がかりな仕かけを施してすすめてきた漁業権放棄の策動は、祝島の補償金受け取り拒否によって大破たんを来すところに来ている。ここで受け取りを拒否するなら、中電が原発推進の立て直しをするのは不可能になる。
那須三八郎