萩市長選で林芳正が推した現職・藤道健二が落選したのを受けて、山口県内の政治にかかわっている人々のなかでは3区鞍替えをめぐる微妙な空気が流れているのと合わせて、「林芳正、相当に格好悪いな…」と持ちきりである。あれだけ身を乗り出して3区鞍替えの総仕上げとして力を入れ、「河村を叩きつぶす!」なんて豪語していた関係者もいたのに、やはり最後は「よそ者」による選挙区の強奪という悪印象が尾を引いてしまい、はねつけられたからである。「芳正本人の露出が最大の敗因」と話す関係者も少なくない。
中選挙区の時代は確かに萩も旧山口1区の選挙区内で、林派の影響力もそこそこあったといえる。しかし、既に四半世紀以上も昔の話である。3区で隠然とした力を持つ宇部興産の創業者・俵田一族から母親が林家に嫁いだとはいえ、芳正自身の地元及びルーツは先祖が貴族院議員だった頃まで遡っても、どう見ても下関であり、林派を支えてきた支持者たちがいるのも下関なのだ。なんなら、東京生まれの東京育ちで山口4区は選挙区というだけにすぎない安倍晋三よりも地元との接点は深く、文関小学校、日新中学校、下関西高等学校を卒業した根っからの地元育ちなのも林芳正なのである。夏休みに海水浴に来ていた程度の安倍晋三とは、地元への馴染みからしても訳が違うのである。
そんな林芳正が、どうして下関から住民票を宇部市に移してまで、4区を捨てて3区にこだわるのか? と下関で暮らす多くの人が不思議に感じている。なぜ4区で挑戦しないのか? どうしてそんなに安倍晋三を恐れているのか? と--。現状では、まるで親の代からくり広げてきた縄張り争いを諦めて逃げ出した野良猫が、隣の縄張りにちょっかいをかけて泥棒猫をしているのだけど、こちらも先住猫を激怒させてバトル勃発となり、さらにそのバックには幹事長を司るボス猫もいたりして、なんなら20匹くらい野良猫仲間を率いて乗り込んできたりもするもんで、どうも風向きが悪いといった風情なのだ。
このまま行けば3区は二階幹事長の力技で河村に公認がおりることだってあり得る訳で、その場合に仮に無所属でも出馬するという強硬策をとるくらいなら、3区ではなく4区から無所属で出馬したらどうか? と下関の街中では随分と多くの人たちが話題にしている。保守系の人々のなかでは、「長年参議院議員として辛抱してきたのだから、今度は林芳正に4区を譲るべきだ」「もう首相を2回もやってコロナ禍で放り投げたのだから、安倍晋三が引っ込むのが筋だ」と話す人も多い。斯くして選挙のプロ集団・林派の精鋭たちとともに徹底した戦をやって安倍晋三を撃破し、「この街の国会議員は私だ!」くらいの気概を見せたらどうかというのである。林派の長年の支持者たちが失望し、幻滅しているのはその度胸のなさであって、安倍派が「兄・寛信の子息に4区を譲る」「ゴットマザー(洋子)も含めた家族会議で決まった事」なんて話をしている折、「否、4区は私だ!」と主張するくらいの林派家長としてのプライドをどうして持っていないのだろうか? 林義郎やトラさん(芳正の祖母)が生きていたら怒るんじゃないか? などと自民党の部外者ながら不思議に思うのである。
仮に林芳正が4区から無所属で出馬した場合、「おっ、腹を括ったな!」と思う人間は多いはずだ。そうなると、衆院山口4区は中選挙区時代を凌ぐ本気のバトルが展開されるだろうし、メディアもゼロ打ちなんてできない大激戦になるはずだ。やるからには、やはり微笑み合って机の下でつねりあいっこみたいなことではなく、睨み合って全力でつぶしあうべきだと思う。でないと、片隅に押し込められて愚痴をこぼしながらおしくら饅頭みたいなことをしている林派の議員とかも浮かばれないではないか。林芳正は野良猫の道を行くのではなく、飼い主のいる4区で正々堂々と戦を構えるべきであるし、そこにれいわ新選組の竹村かつしも参戦して、誰がこの街の政治家としてふさわしいのか、三つ巴で争うべきだと思う。 吉田充春