80歳はゆうにこえているご婦人Aさんの自宅を訪ねた時のこと、50㍍ほど離れた自宅前の道路脇をAさんが重そうな荷物を抱えながら、ゆっくりとした足どりで自宅に戻って来るのが見えた。足を悪くしてしまい、その一歩一歩はとても大変そうだ。何を抱えているんだろう? 手伝いに行かなきゃと思った次の瞬間、Aさんとちょうど対面ですれ違った帰宅途中であろう小学生の男の子がなにやら話かけ、スッとAさんの重そうな荷物を抱えると、一緒にこちらに向かってくるではないか。男の子にとってはUターンだ。そこへどこから見ていたのか、いつもエサをもらって既にAさん家の自宅前警備員と化している野良の白猫もあらわれて、「おかえりなさ~い」「ごはんくださ~い」といっているかのようにニャーニャーいいながら、くねくねとした愉快な動きで先導し始めた。そうして、猫一匹と男の子が、Aさんのゆっくりとした足どりに合わせてエスコートしているのだった。
近寄って行って荷物持ちをかわり、男の子に「君、優しいね」と声をかけると、気恥ずかしそうに「いや、別に…」といって言葉を濁すような感じだ。Aさんも嬉しかったようで、ほんの僅かの荷物持ちではあったのだけど、「お婆ちゃんがお駄賃をあげる」「その気持ちが嬉しいの」といってカバンの中から財布をとり出し、男の子に握らせようとするのだけれど、「それはいいです」「もらっときなさい」「いや、いいんです」の押したり引っ込めたりがしばし続いた。最終的にはAさんが折れて「ほんとうにありがとう。ボクはその優しい気持ちのまま立派な大人になってね」の言葉でおさまったのだった。
学年を聞くと6年生というけど、名前を名乗るわけでもない。男の子からすると、目の前から歩いてくるお婆さんが重そうな荷物を抱えているのを見かねてほんのお手伝いをしただけなのに、こんなことでおカネを頂いたり、名を名乗るほどのものでもないといった、できた対応だ。とってもいい子だなと関心することしきりであった。名前は知らないけれど、生野小学校6年男子のそこの君は、大人になったらきっと内面的にも素敵なナイスガイになるよ! と思ったのだった。