いやはや、聞いたこともないような酷い話である。「あいちトリエンナーレ2019」の展示作品(昭和天皇の写真を燃やした)を巡って、知事の対応を批判する高須クリニックの高須克弥院長が団体の代表をつとめ、河村たかし名古屋市長、さらに日本維新の会の関係者らが加勢していた大村知事リコール署名のことだ。愛知県選管が提出された43万5000人分の署名を調べたところ、8割超にあたる36万2000人分で不正が見つかり、県選管は地方自治法違反の疑いで15日に県警に刑事告発したが、翌16日に中日新聞がさらに驚愕のスクープを放ったではないか。
なんと、名古屋市の広告関連会社の下請会社が、大手人材紹介会社を通じてアルバイトを募集し、遠く離れた九州の佐賀市内の貸会議室で、数十人の男女に愛知県民の名前や住所が書かれた名簿をリコール署名簿に書き写させていたとして、男性アルバイトの証言とともに報じたのだ。昨年10月中旬から下旬にかけて、佐賀市内の貸会議室に集められたアルバイトたちは、作業中は携帯電話に触れないようポリ袋にしまった状態にされ、1人当り数時間から十数時間ほど、時給950円で働き、500円の交通費も支給されていたのだという。署名の頭数を揃えるために何者かがカネを出して、本人の了解もない愛知県民の名前や住所といったプライバシーを晒したうえで、名簿書きを外注していたのである。
運動の中心にいた高須氏は関与を否定しているものの、集まった署名の8割で不正が見つかり、なおかつ本人直筆でなければならないリコール署名が外注されていたというのが事実なら、団体の代表として事の顛末について説明責任が問われるのは当然であろう。これは明らかに犯罪行為なのだ。バイトを募集した広告会社の幹部は「リコール運動を主導した事務局の指示」と説明しており、もはやこの期に及んで「いったい誰がカネを出してやらせたのか?」などと不思議がるのも野暮な話であろう。カネを持っており、なおかつリコールに面子をかけて挑んだ者がこの大量署名偽造の主犯格と見なすのが自然なのだ。だって、その他の人間にわざわざこんな真似をする理由も動機もないのである。
リコールには86万筆が必要だったという。しかし、不正以外の有効と認められた署名は実際には7万3000筆ほどだった。つまり、この運動は有権者から「YES高須クリニック♪」(CMのキャッチコピー)ではなく、NO高須クリニックを突きつけられたに等しいといえる。そして、大胆にも水増しで36万2000筆を上積みしたり、何者かが外注までしていた事実が発覚したり、民主主義とか地方自治法など屁とも思っていない行為の数々が浮かび上がっているのである。いわゆるネトウヨ界隈の跳ね上がりが大村知事リコールに興奮していたものの、これではとんだ反社会勢力という以外に表現が見つからない。
政治信条は誰しも自由である。リコール署名運動というのは有権者に認められた権利であり、その行使について何人も制限されるものではない。しかし、やるならもっと正々堂々とやれよの一言に尽きる。カネで解決(水増し)してしまうあたりが自信のなさをあらわしているような気もして、大暴れする割にはちょっと格好悪いったらありゃしないと思うのである。 武蔵坊五郎