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「入院勧告に従わなければ―― 」

 新型コロナウイルスに感染しても病床が不足しているために入院できず、自宅療養を余儀なくされている患者が全国で3万人以上にものぼっている。日々感染が拡大しているなかで、今後ますますこうした医療難民は増えることが予想され、事態への対応が迫られている。脆弱な医療体制の崩壊やトリアージの行き着いた先は、治療すら満足に受けられぬ患者の放置であり、なかには容体が急変して死亡する患者まで出ているのである。


 しかし、一方で政府・厚生労働省が何をしているかというと、入院勧告に従わない感染者について「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰(感染症法改正案)を検討し、国会がこれを真顔で審議しようとしているではないか。いやはや、頭の構造はどうなっているのだろうか?と思うほど、現実から乖離したちぐはぐさである。入院しようにもできない状況を解決するために、まずは病床を確保することが政府及びこの国の医療・感染症対策に全面的責任を負う厚生労働省の仕事であるはずなのに、入院できる病床すら用意していない張本人たちが受け皿がないことは棚に上げて「入院勧告に従わなければ――」などといっているのである。天と地がひっくり返っているとでもいおうか、まずは入院できるようにしてからいってくれと思うし、むしろ事ここまできたら「病床を確保しない為政者は」に書き換えて刑事罰を検討した方がよいのではないかと真面目に思う。自宅療養させられている3万人超の人からしたら、症状にもよるだろうが、入院できない時点で自分は何の罰を受けさせられているのかと思うような局面なのだ。


 治療にあたってきた医師たち曰く、確かにすべての患者が入院する必要はなく、無症候や軽症者ならば自宅療養あるいはホテル療養・隔離でも十分に対応できるという。しかしその場合も、コロナウイルスは急激に容体悪化することもあるため、指の先につける機器で血中の酸素濃度を細やかに観察し、一定の水準を下回ればすぐに病院に収容し、人工呼吸器を装着したり治療に当たれば危機的状況は乗りこえられるという。つまり、単純に今すぐに3万床が絶対不可欠というものでもないが、症状によって隔離方法は臨機応変に対応し、無症候者も含めて社会全体のなかで感染源を絶つことが必要なのだという。PCR検査もせず、無症候者がどれだけいるのかもわからないような現状では、当然感染拡大は収まりようがないし、このまま重症患者が増えれば、当然のようにICU(集中治療室)に受け入れられる人数も限界を迎え、自宅療養のなかで死亡するという最悪の事態も増えるのである。


 いずれにせよ「入院勧告に従わない者は――」の厳罰については、入院できる病床を確保してからはじめて口にできることで、今のところなにをかいわんやなのである。


武蔵坊五郎       

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この記事へのコメント

  1. 夏原 想 says:

    入院勧告に従わない者に「刑事罰を科す」とは、行政としてどの部門が実際に「科す」に至るかと言えば、警察以外にあり得ない。刑事責任を問う捜査ということになる。暴力行為などとは異なるカテゴリーに、警察権力を医療の領域まで侵入させるのは、まさに「警察国家」を目指している、と批判されるべきだ。

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