衆院山口3区をめぐる林芳正河村建夫の争いは、もはや両者ともに引っ込みがつかないほど激化し、選挙区内のいたるところでバトルをくり広げているではないか。
大票田となる宇部市では、今月に入って久保田市長が体調不良を理由に辞任を表明し、急遽11月22日投開票の市長選が実施されることになった。その選挙に河村代議士とも近い二木県議(65歳、自民党県連副会長)が出馬の動きを見せたと思ったら、篠﨑県議(39歳、林芳正の秘書出身)も追うように出馬の意向を固め、さらに市政策広報室長の望月知子氏(49歳)も名乗りを上げるなど、三つ巴になるかと見られていた。林vs河村の激闘の隙間に元厚生労働省の役人だった望月氏が割り込む形で、さあ誰がこの短期決戦を勝ち抜けるか--むしろ久保田後継の望月もあなどれぬ存在という声がもっぱらだった。するとどうだろう、自民党県連も関わった一本化調整の末、21日になってベテラン県議である二木の側が断腸の思いで出馬断念を表明し、その挑戦の座を不戦敗の形で林派県議に譲る運びとなったのである。先輩県議としての面子もあろうに、相当な力学が働いたのだろう。
一方で同じ3区内で実施される来年3月の萩市長選はどうなっているかというと、河村実弟の田中文夫県議が出馬することから、推薦を出した自民党萩支部の支部長職を辞職したはいいが、「ならば次の支部長は県議である自分がやるべき」と主張した新谷県議(林派に接近)を排除して新支部長を決定したとかで、こちらも自民党同士がなんだか揉めている。田中としては長年県議選でライバルでもあった新谷の票田もとり込みたいが機嫌を損ね、林派が支援する現職の藤道市長の応援に新谷が回るのではないかと戦々恐々のようなのである。
既に美祢市では今春の市長選で、林派の秘書が応援に入った篠田市長が河村派の現職だった西岡前市長を破って当選。林派に軍配が上がっていたが、宇部、萩の代理戦争まで林派が勝利をおさめるとなると、選挙区の自治体のほぼ全てで市長ポストを総なめすることにもなる。何年も前から3区鞍替えのために食い込み、既に林派優勢といってもおかしくないほど、河村の牙城が崩されつつあるのである。
自民党県連の関係者たちのなかでは「3区は林になる」と公然と語られる状況で、二階幹事長が「視察」したのか「恫喝」したのか分からない宇部興産も、河村を切り捨てて林支援に回ると誰もが見なしている。宇部市琴芝にある林事務所といったら、宇部興産創業者として知られる俵田一族(林芳正の母親が出身)の大豪邸なわけで、河村を抱える義理はないといっているように見えて仕方がない。3区の前哨戦になると見られていた興産城下町の宇部市長選において、影響力のある地元トップ企業にとっては二木も昔からの腐れ縁があるわけで、むげにはできない存在なはずだ。しかし、その二木が断腸の思いで市長ポストをあきらめ、林派のホープを保守勢力としては担ぎ出す格好となった。三区鞍替えの行方ともかかわって、選挙前から興味深い力関係が動いたのだった。
4区で安倍晋三と敵対することを避けて3区横取りに挑む林芳正。それは生まれ育った街を捨てた選挙区からの逃亡である。そして、そんなヤドカリ林芳正からケンカを売られ、日頃往生が祟ったのか、選挙区すなわち宿である貝殻を奪われつつある河村建夫--。ヤドカリのケンカのようなもので、両者ともに見ていて情けない光景でもある。 吉田充春