いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「心の鬼」なのか? 「心が鬼」なのか?

 首相お膝元の下関市では今年2月に市議会議員選挙がおこなわれ、国民民主党や連合(労働組合)傘下組織の推薦を受けた40代の女性が初当選を果たした。「心の鬼」の絵を描く作家とのことで、地元ローカルテレビに出ていた知名度に目を付けた政党側が話を持ちかけたようなのだ。国民民主党としては旧民主党の流れを汲む元県議・加藤寿彦が引退して県議会には元市議の酒本哲也が鞍替えし、その後釜ということで加藤・酒本後援会あげて名簿を駆使した選挙戦を展開し、相当に力を入れた選挙だったという。そうして彼女は、市議会では同じく自治労や全逓など連合傘下組織の支援を受けた者たちが所属する会派・市民連合に席を置き、一年生議員ながら総務委員会の副委員長ポストにもつき、華華しく市議デビューを果たしたばかりだった。

 

 ところが年末まできて、どうも様子がおかしい。国民民主党界隈がゴタゴタともめている様子が市議会や下関の政治関係者たちのなかでは大話題となり、「○○(女性議員)が電話一本で離党した」「国民民主党から離党して自民党会派(安倍派・みらい下関)に入るのだ」等等と大騒ぎになっているではないか。これでは下関で唯一の民主党県議だった上田中町の「かとちゃん」こと加藤寿彦の面子も丸つぶれで、国民民主党としても格好がつかない。そればかりか、市議会会派の市民連合も1人抜けると会派の構成要件である3人に満たないため、捨てられた2人の男たちが解散の憂き目にあってしまう。一方で一本釣りを成し遂げた場合、みらい下関は名実ともに議長が所属する最大会派となり、同じく安倍派の会派である創世下関よりも1人多く所属議員を増やすこととなる。

 

 あまりのあっけなさに、国民民主党を支持しているわけでもない当方としても、支持者や選挙で期待を寄せた有権者の方方を哀れに思い、口がポカンとしてしまう。仮に自民党入りした場合、それは俗にいう転向というやつである。はじめから無所属で出馬していたならまだしも、連合の支援を受けて当選する、つまり一定の団体や組織を踏み台にして市議となり、1年も経たないうちに離党して他党に身を移すというのは、いかなる理由があれ、政治的な節操のなさという点で唖然とする話ではある。これでは「心の鬼」というより、「心が鬼」ではないか--と私は思う。そして、国民民主党下関支部は利用したはずが利用され、捨てられた男たちのように見えてしまい、なんだか格好悪いというか、直視して見てはいけないもののような印象すら抱いてしまう。「なにやってんだ?」と率直に思うのである。

 

 一連の顛末を有権者や支持者がどう受け止め、次の選挙で反応するのかは3年後に委ねるほかない。晴れて転向が認められ、安倍派所属議員として井川典子(元市長の娘の市議)みたく組織票を割り振ってもらえる可能性だってないわけではないだろうし、それこそ2月の市議選のように他のベテラン自民党市議から700~800票引っこ抜いて引き上げる…みたいなことだって起こるのが下関である。あとは、本当に連合改め自民所属になった場合、その身のこなしを世間がどう見なすかだろう。

 

 不思議なのは、この問題をふと下関の政治風景と重ねて冷静に考えてみると、彼女はある意味正直だったのではないか? と思えてくることだ。失礼ながら、市民連合など元元のルーツからして労働組合出身のダラ幹連合みたいなもので、安倍・林支配のもとでこれとうまいこと結託してポジションを確立し、昔は議長を輩出する市政与党の最大会派でもあった。連合安倍派、連合林派みたいなのが、三菱労組出身、JR西日本出身、鉄鋼労連出身、サンデン交通出身、神戸製鋼所出身等等、企業の組織票をバックにして議会に入り込み、たまに批判めいたこともいいながら実質的な与党として与してきたのだ。そのくせ、メーデーで労働者の代表みたいなことをのべているから笑っちゃうのである。長いこと市議会議長として君臨していた小浜某とて、サンデン第二組合出身で、労働運動破壊への功績が認められて安倍派市長体制と折り合う林派所属の議長として存在したのだ。

 

 労働者や一般市民を裏切って出世し、欺瞞するくらいなら、いっそのこと正直に自民党そのものになってしまおう--と彼女が考えたのか否かは、本人以外には知りようがない。それほど政治的な感覚など乏しい人物に国民民主党が声をかけたのがそもそもの間違いなのかも知れないし、一方は「欺された!」と思っているのかも知れない。しかし、少なくとも自民党にぶら下がった補完勢力ではなく、正真正銘の自民党になってしまった方がすっきりしてわかりやすいと思う。「ある意味、正直」と思うのはそのような理由からである。

 

 かくして、下関では連合会派が消滅の危機に立たされている。野党もいろいろで、たたかわずに馴れ合っている、テーブルの下で手を握っているというようなことを続けてきた結果、有権者から見透かされ、勝手に消滅していく時代が到来したのだろう。自民党もしかり、野党もしかり、55年体制のなれの果てまできて、これらが姿を変え、形を変え、紆余曲折を経ながらも瓦解している。政党政治の窒息状態や有権者から乖離(かいり)した状態は国会も地方議会も同じで、新しい政治勢力を生み出さなければどうにもならないことを教えているように思えてならない。 吉田充春

 

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