南沙諸島の岩礁に中国が造成している人工島から12カイリ(約22㌔)以内に米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」が27日に進入して哨戒活動を実施し、これに対して中国海軍もミサイル駆逐艦と巡視艦を派遣して追尾、監視、警告をおこなうなど、軍事的緊張が高まっている。「チキンレース」「米艦のピンポンダッシュ」等等で片付けられないのは、いたずら小僧が玄関のピンポンを押して走って逃げ去っていくのとは訳が違うからである。南シナ海の警戒活動すなわち挑発行為を自衛隊に押しつけようとしてきたのがアメリカであり、鉄砲玉「ラッセン」の役割を今後は自衛隊がやらされる可能性が大だからだ。
社会主義体制をとりつつ中国が帝国主義的な覇権主義をやり始めているのも事実で、中央アジアやアフリカなど世界各国に影響力を広げてきた。そして、アジア開発資金を担当するAIIB(銀行)設立を巡っても、この経済圏のなかでアメリカの力が弱まっていることを露呈してきた。台頭するロシア、さらにアメリカとも矛盾がありながら西側陣営を形勢してきた欧州も含めて、帝国主義各国による覇権争奪は熾烈になり、冷戦時代やその後20年近く続いてきたアメリカ1極支配の時代とは異なった力関係の変化が起こっている。ウクライナ問題、中東・シリア問題などもすべてその反映にほかならない。
中国が岩礁を造成して基地建設をする。これに対して米国が脅しをかけ、双方の覇権を争っている。米艦「ラッセン」は神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地を拠点とする第七艦隊所属のイージス艦で、巡航ミサイルのトマホークや対艦ミサイルなどを搭載している。それ自身が相当の攻撃能力を誇っているが、最前線の「ラッセン」が挑発した背後で互いにミサイル巡洋艦や原子力潜水艦などがにらめっこをくり広げ、まさかの事態にもなりかねない。その場合、第七艦隊の母港である横須賀や沖縄、岩国が軍事拠点として叩かれる危険性も心配しなければならず、日本列島は決して無関係ではおれない関係だ。
米国と中国の覇権争いの間に分け入って、日本がしゃしゃり出る必要などない。ところが「ラッセン」に続いて海上自衛隊の護衛艦と米空母部隊が南シナ海で共同訓練を実施することが発表され、中国を牽制するのだといっている。将来的には自衛隊の南シナ海での警戒監視活動を念頭に置いた訓練といわれ、バトンを引き継ぐ意図を丸出しにしている。
さらに、同じ時期に安倍晋三が得意のばらまき外交をして回っていたのが中央アジア諸国で、中国が進めるシルクロード構想「一帯一路」の陸上ルートに位置している国国を次次と外遊し、中国を批判したり、カネで手なずけようと奔走した。中国包囲網に一役買っている僕を見て! というものだ。
第2次大戦後、日中友好は政治家だけでなく国民的な努力によって築き上げられてきた歴史がある。現在でも貿易相手国としては米国をしのぐほど経済的にも依存関係にある。近隣諸国として友好的な関係を切り結ぶことを否定して、肉弾戦ばかり思考する愚か者が火に油を注いだのでは、惨憺たる結末になりかねない。そもそも南沙諸島は日本の領海ではない。その領海争いを押しつける米国に対して「こっち見るな」といってのける度胸が為政者にないのが悲劇的である。身代わりで国民を肉弾にさらすようなことになるなら、悲劇というだけでは済まない。
吉田充春