軽井沢で起きたスキーバス転落事故は15人が死亡し、二十数人が重軽傷を負う痛ましいものだった。事故後に明らかになったのは、ツアー企画会社が低運賃での運行を要求し、それをバス会社が法定基準で定められた最低代金をはるかに下回る金額で受注し、大型バスの運転経験が僅か数回だった契約社員の男性にハンドルを握らせていたことだった。深夜運行を任されていた2人の運転手は50代と60代。不慣れでドライバーとしてその道を歩んできたベテランではなく不安定な身分だった。年金だけでは食べていけない身だったことも伺わせた。そして乗客のほとんどが学生たちで、なけなしのカネをはたいて参加した子もいたかもしれない。格安バスツアーを利用したばっかりに命まで失ってしまった。「安かろう悪かろう」で“格安”に吸い寄せられる者ばかりが殺されてしまう社会、安全性がないがしろにされて労働者も客もみなが殺されてしまう社会の姿を、あのへしゃげたバスの残骸があらわしていた。
2012年に関越道で起きたバス事故もそうだった。その度に、格安バスツアーの危険性が指摘され、労働者が過酷な運行を強いられていることや、規制緩和によって雨後の竹の子のようにバス会社が増え、低運賃を競っている構造が問題になってきた。しわ寄せは必ず労働者に向かい、徹底的に酷使されて肉体的にも精神的にも限界をこえて凄惨な事故を引き起こすことくらい、既にわかっていたことだ。だが改まらずに何度でもくり返す。規制緩和がもたらす殺人が野放しなのである。
格安航空もしかり。トラック運送も内航船もタクシー業界も規制緩和で散散な状態になった。労働法制も規制緩和で非正規雇用が増大し、終いには資本による首切りの自由、残業代タダとかのデタラメまで竹中平蔵が叫ぶようになった。大資本が利潤を得るためには社会のあらゆる規制をとり払い、大企業天国にするというものだ。そうして工場では爆発事故が頻発し、JR尼崎線脱線事故のようなものまで起きる。高速道路ではトンネルが落下する。儲けるためには安全性など投げ捨てて、賞味期限切れでも食わせてしまえというのがCoCo壱番屋騒動であり、儲けのためには杭を誤魔化してマンションが傾く。人の生命を平然と危険に晒す社会になった。
強欲な資本の論理がまかり通って社会が劣化する。この規制緩和とたたかわなければ、労働者も社会の構成員も理不尽に殺されてしまうことを突きつけている。 吉田充春