(2024年11月18日付掲載)
今年の企業倒産が、各産業で過去最多を更新し続けている。『東京商工リサーチ』の調査で、10月の企業倒産(負債額1000万円以上)は909件と昨年比で14・6%増加している。10月単月で900件台に達するのは2013年以来11年ぶりだ。上半期(1~6月)の段階で2014年以降で最多を記録していたが、その後も止まる気配はなく、10月までの累計で8323件、年間で1万件をこえる様相となっている。販売不振や赤字の累積、売掛金の回収難などを要因とする「不況型倒産」が約8割を占めており、なかでも中小零細企業の倒産が増加しているのが特徴だ。こうした状況のなかでも政府はなんら手を打たず、むしろ淘汰を促進する意図が透けて見える対応に終始している。
中小企業淘汰の意図も
ある男性は、40代の知人が経営していた会社が倒産し、ホームレスになったと話す。知人は運送関係の事業者で、個人事業主20~30人と契約し、大手から仕事を請けるような形態だったようだ。個人事業主の多くは免税事業者で、知人は課税事業者。インボイス制度が始まったが、免税事業者である個人事業主がいなければ仕事が回らないため、消費税分をかぶっていたという。1人分は少額でも20人、30人分×1年分になると膨らむ。その他の負担増も加わって、この1年で数千万円あった貯蓄が消え、破産に至ったという。知人は自宅も手放し、仕事も住む場所も失った。
印刷業界では、9月末に九州界隈の印刷・製本業界では知られた存在だった会社が自己破産したことが業界関係者のなかで話題となった。同社は07年ごろに他社に先駆けて八色印刷機を導入していたが、競争激化で収入が減少し、設備投資が重荷になって10年ほど前に公的機関や銀行の支援を受けていた。その後、地元の自治体や企業を顧客として営業していたが、コロナ禍の需要減で売上減少をよぎなくされて赤字が続き、事業継続を断念するに至った。負債は約2億3000万円だという。
コロナ禍をゼロゼロ融資などで何とか乗り切ってきた中小零細企業が、景気が回復しないまま物価高に襲われ、そこにゼロゼロ融資の返済や増税、「働き方改革」の影響までのしかかって資金繰りに窮する状況が広がっている。10月の企業倒産(負債額1000万円以上)909件のうち、負債額1億円未満が701件と全体の8割近く、従業員10人未満が9割を占めていることは、倒産が中小零細企業に集中していることをあらわしている。この割合はどちらも今年最高だ。そして、それが起業したばかりの企業ではなく、「業歴30年以上」の企業がもっとも多いという事実も、厳しい現状を示している。
中小零細企業からは「コロナよりも厳しい状況だ」と語られており、数値はその実態を反映したものといえる。
経費は上昇、客は来ず 飲食店の実情
顕著なのが、コロナ禍の影響が真っ先に直撃し、テイクアウトなど営業方法の工夫や国の支援策で乗り切ってきた飲食店の倒産だ。2024年1~10月の飲食業の倒産(負債1000万円以上)は820件と前年同期と比べて12・7%増、2020年1~10月の730件を抜いて過去最多を更新した。このままのペースで推移すれば、年間で初めて1000件をこえる可能性がある。コロナ禍で激減した需要がその後も戻らず、物価高が追い打ちをかけている。
ラーメン屋や焼き肉屋などの「専門料理店」が202件で前年同期比17・4%増。「酒場、ビヤホール」が156件で同13・8%増と、どちらも1~10月の累計で最多を記録した。焼き肉屋はコロナ禍で需要が高まり、出店があいついだ業種だ。店舗数の増加で競争が激化すると同時に、円安などでアメリカ産やオーストラリア産など輸入牛肉も高騰し、安価だったはずの豚肉も価格が高騰、光熱費や人件費も上昇するなかで、夏ごろから倒産の増加が表面化していた。
また、飲食業の倒産で増加率が大きいのは「バー、キャバレー、ナイトクラブ」(前年同期比84・6%増)や「そば・うどん店」(同50・0%増)などだ。コロナ禍の収束で直接的な関連倒産は減少傾向にある一方で、物価高倒産が増加(49件、前年同期比4・2%増)し、最多を更新している。
下関市内でも「10月が厳しく、お客さんがまったく来なくて大赤字だった。これほど少ないのはコロナ禍でもなかったことで、初めて。年の暮れまで踏ん張るが、どうなるだろうか」(居酒屋)など、飲食店からは、コロナ禍以上に夜の客が減少している実感が語られている。人通りがないだけでなく、予約も入らないという飲食店は少なくない。
その一方で経費は上昇している。「肉、魚、野菜、油など原材料がすべて値上がりして、なかには倍になったものもあるが、それを価格に転嫁できない。大きいところは別ルートで安く原材料を仕入れて価格を抑えることができるのだろうが、私たちがメニューの価格を上げればお客が逃げてしまう」(飲食店)、「電気・ガスも高騰している。11月支払い分(10月使用分)までは少し補助があったが、12月支払い分からなくなる。来年1月使用分から補助を再開するという話も出ているが、まだ決まっていないし、その間を乗り切れるだろうか…」(同)などと語られている。原材料費の高騰で、同じ売上であったとしても利幅は薄い。人手不足に対応して時給を上げようにも上げることができない中小零細企業は多い。
全国的にはインバウンドの再開などで飲食店の売上は回復傾向にあるとされている。政府によればコメ不足も「外国人がたくさん食べた」ことが一因であり、首都圏や有名どころの観光地ではオーバーツーリズムの問題が再び浮上している。にもかかわらず飲食店の倒産が増大しているのは、内需の衰退、つまり国内の圧倒的多数の人が財布の紐を締めているからにほかならない。スーパー関係者によると、売り出しをしてもそこそこ売れる程度の一方で、総菜が半額になる時間には人が殺到するし、以前はなかった見切り品コーナーに人だかりができる光景が日常になりつつあるという。
大手が零細事業所駆逐 介護業界
過去最多はその他の業界でも広がっている。
介護事業所の倒産は1~10月で145件発生し、これまで最多だった2022年の143件を10月にして更新した。このうち訪問介護事業者が72件と半分以上を占め、昨年(年間67件)を上回る勢いで進行していることが、介護事業所の倒産増加の大きな要因だ。
ホームヘルパーは在宅で生活する高齢者の命綱だ。しかし、ヘルパーの多くが非正規雇用、賃金は全産業平均より月6万円低いともいわれるなかで、長年人手不足に悩まされており、ここ5、6年の有効求人倍率は10倍をこえる。介護保険制度の創設期から現場を担ってきたベテランヘルパーたちが高齢になって引退していくなかで人手不足がより深刻化し、加えて電気代や燃料費の高騰などで経費が増加しているという状況に追い打ちをかけるように、「他の介護事業より利益が出ている」ことを理由に今年度より基本報酬が減額されたことが倒産を増加させている。
デイサービスなどの通所・短期入所事業所も、連鎖倒産が発生した2022年を下回っているものの、それを除くと実質的に過去最多のペースで推移している。
介護業界でも、資本金1000万円未満、従業員10人未満といった小規模・零細事業所が八割以上を占めている。東京商工リサーチの分析では、大手事業者との競争激化で脱落した事業者が多いという。大手事業者は制度を駆使し、効率的な経営を展開して利益を上げつつ、地域住民に密着して介護サービスを提供してきた小規模な事業者を駆逐しており、政府の介護報酬改定がそれを後押ししている。すでに農村部など大手が参入しない地域で介護難民が発生しているが、今後淘汰が加速する可能性が高いなか、このまま放置すれば介護難民の増大は必至だ。
また、新聞販売店も1~10月までに40件の倒産が発生しており、6月以降も年間最多を更新し続けている。一番の要因は2000年に約5370万部あった発行部数が、約2859万部(2023年10月時点)とほぼ半減していることだ。資源価格の高騰を背景にした新聞用紙代の値上げも一因となっており、各紙ともに新聞代の値上げ改定をくり返して購読者の減少に直面している。
朝刊・夕刊のセット配達になると減少はさらに顕著で、2000年に1818万部だったのが2023年には445万部と4分の1以下になっており、夕刊廃止の動きも広がっている。新聞販売店は、こうした部数減が経営に直結するうえ、折り込み広告収入も落ち込んでおり、店舗の統合で乗り切りを図っているが、厳しい状況から脱却する見通しは見えていないと語られている。
この動きと関連しては、各紙の印刷所も印刷物の急減に直面していることが指摘されている。夕刊の廃止などにともなって、大手紙が地方紙に委託していた印刷を自社工場に引き揚げ、地方紙の印刷工場で印刷量が急減し、希望退職を募る事例も出ている。
建設業も10月単月で201件(帝国データバンク調べ)発生し、2013年10月以来の200件超えを記録している。10月までで1566件にのぼっており、8年ぶりに高水準となった前年をさらに上回る急増ペースで推移。年間では過去10年で最多を更新すると見込まれている。
コロナ禍、ウクライナ戦争、円安などで建築資材価格は値上げがあいついできたうえに職人不足で人件費も高騰しており、中小企業は苦境に置かれてきた。それに加えて4月から残業時間の上限規制が導入されたために人手不足がさらに深刻化しており、「人手がいないから元請が受注する件数が減り、下請に回ってくる仕事がなくなっているような状態だ」と語られている。「働き方改革」で工期が延長したり、日程が後に回るといった悪循環のなかで、経費の高騰に耐えられなくなった中小企業が行き詰まっているといわれる。地元業者の減少は、災害復旧工事など、急がれる公共工事の入札不調の増加という現象も引き起こしている。
「大阪万博や首都圏などの再開発事業など、大規模案件が集中していることも資材高騰や地方に仕事が回らない一因になっている」という声もあり、関連する製造業では、「もともと仕事が少ない4、5月までは楽観視する空気が強かったが、その後から毎月売上が半減するなど急激な冷え込みに直面している」との実情が語られている。
大企業が内部留保を溜め込む裏で、足場である中小企業の弱体化が進み、不況の局面のなかで一気に淘汰が進んでいるような様相だ。
コロナ融資返済が足かせ 税金滞納倒産も増
こうした急激な売上減少のなかで、経営の重しになっているのがコロナ禍のゼロゼロ融資の返済だ。今年4月に民間金融機関によるゼロゼロ融資の返済開始がピークを迎えるなか、6月まで「コロナ借換支援」などの資金繰り支援が実施されていた。だが、7月以降は「経営改善・再生支援に重点を置く」として、「経営力強化保証制度」に移行している。10月のゼロゼロ融資利用後の倒産は前年同月から11件減となっており、ここ数カ月は前年を下回る水準になっている。だが、飲食店や医療機関など、コロナ禍から売上が回復していない業界も多いなかで経営の足枷になっている企業は少なくない。
そして、国の支援策の対象が絞り込まれるなかで、金融機関もリスク回避のためか、対応が厳しくなっていることが語られており、貸しはがしと思われる案件も発生している。なんとか資金を回してきた中小零細企業の倒産増加は、金融機関の動きと無関係ではないといえる。
さらに看過できないのが、税金が倒産の引き金になるケースの増加だ。1~10月の「税金滞納(社会保険料含む)」が一因となった倒産は155件に達し、前年同期の2・2倍へと急増している。年間で最多だった2018年(105件)を7月で上回り、最多記録の更新を続けているところだ。日本年金機構の「令和五年度業務実績報告書」によると、2023年度の滞納事業所数は14万2119事業所で、適用事業所の5・1%を占める。
今年10月から社会保険適用対象の事業所が拡大され、51人以上100人未満の中小企業も、週20時間以上、月8・8万円以上の労働者は社会保険に加入しなければならなくなった。ということは、保険料の半分を負担する企業の経費も増大する。コロナ禍のあいだおこなわれていた社会保険料や国税の納付猶予も終了し、猶予分は免除されずにその後に上乗せされており、すでに負担は重い。
中小零細企業ほど「税金の前に取引先に支払いをしないと事業が継続できない」という事情があるが、金融機関や取引先に取引照会を送付される小・零細企業が増えているという。税金滞納が知れ渡れば事業継続が困難になる。「経営を維持しながら、納付を進める寄り添った支援が求められる」(東京商工リサーチ)のは当然だが、税金のために企業が倒産していくことが異常であり、これだけ厳しいなかで減税が早急に検討しなければならない課題であることは明らかだ。
ある製造業関係者は、「同じ業界のなかで大手が中小を潰し、中小同士も潰しあいになっている。そして、人手不足で高齢者が駆り出されることによって、教育や福祉、医療分野にもしわ寄せが回り、今まで地域社会で担っていた部分も成り立たなくなっている。同業者同士でも、分野同士でも、みんなで潰しあっている感が強い。どこか一つを解決しようとすれば、別のところに歪みがいく。どうしたら日本はよくなるのか? という状況にまでなっている」と話した。
また別の関係者は、「製造業はほとんどが倒産ではなく廃業で、後継者不足も多い。ウクライナの戦争で一時期、物が入って来なくなり、工期が伸びて本当に大変だった。少し落ち着いてきたが、これまで長引いてきたのが業界全体の疲弊につながり、後継者もいないから廃業しようという流れにもなっている。103万円の壁などといっているが、問題はそこではない。中小企業の滞納は消費税と社会保険料がほとんどだ。最低賃金を上げると社会保険料の支払いも大きくなる。コロナも一つのきっかけになっているが、それ以前からずっと苦しめられてきた結果だ」と指摘した。
苦境のなかで持ちこたえてきた企業を「ゾンビ企業」などと呼び、その淘汰が生産性を上げるのだと主張する人々もいる。そんななかで、不況なのにM&A市場は活況を呈しており、中小企業と買い手をつなぐ「M&Aコンサル」などと名乗る仲介業者も増加中だ。後継者のいない中小企業に買収を持ちかけ、資産を奪い取って放置するといった悪質な企業買収も散見されるようになっている。いわゆる「吸血型」といわれるM&Aだ。むしろ何の生産性もない企業が増加して、地域の介護施設や、技術を持った企業、地域住民の拠り所となっていた店舗が廃業に追い込まれるケースも出るなど本末転倒な状況でもある。
これから年末を迎えるが、状況が好転する要素はなく、企業倒産は増加する趨勢にある。介護業界や建設業界が象徴的だが、今踏ん張っている中小零細企業を支えなければ、社会を維持できないところまで来ている。問題は「103万の壁」どころではないというのが中小零細企業の現場の実感となっている。