沖縄県知事選が8月25日に告示され、「辺野古新基地反対」を掲げるオール沖縄の後押しを受けて再選を目指す玉城デニー(現職)、自民・公明が推薦する佐喜真淳(前宜野湾市長)、元維新の下地幹郎(前衆議院議員)の3人が立候補を届け出た。9月11日の投開票日に向け、17日間の選挙戦が始まった。辺野古新基地建設阻止を貫いた故翁長雄志前知事の急逝を受け、その遺志を継ぐ玉城デニーが過去最多得票で当選した前回知事選から4年を経て、沖縄をめぐる情勢は大きく変化した。米国の対中国戦略と連動して、自衛隊は南西シフトを敷き、八重山諸島から鹿児島に至る島嶼部には軒並みミサイル基地が配備され、2月に勃発したウクライナ戦争を契機に「台湾有事」が声高に叫ばれ始めるなど、対中国の前線基地とする戦時体制づくりが急ピッチで進む。そのなかで迎える知事選の行方について記者座談会で展望した。
A 知事選の構図から見ると、今回は三つどもえになったが、事実上前回と同じく、現職の玉城デニーと自民・公明が推す佐喜真淳のたたかいだ。玉城陣営としては、「辺野古新基地反対」を軸にしてきた1期4年間の県政運営への審判を仰ぐものとなるし、選挙戦の過程では県民の声にどう向き合うかが問われるだろう。前回苦杯をなめた佐喜真陣営としては、再び自民・公明本部の丸抱えで振興予算などのアメをまきながら、「辺野古新基地反対」の県民世論を封じ込め、基地増強容認への県政転換を県民に問うものとなる。
割って入った下地幹郎に関しては、昨年中国のカジノ企業から現金を受けとっていたIR汚職で、所属していた維新を除名され、その後自民党への復党が認められないためゴネていたわけで、直前に自民党と取引して辞退するのでは? と思われていたが、立候補までゴリ押ししたということは調整が上手くいかなかったのだろう。今になって「国と決別した新しい沖縄」とか「辺野古の軟弱地盤は埋め立てない」「普天間基地の馬毛島への訓練移転」(玉城票を割ります!の意味合い)などといっているが、前回知事選、今年2月の名護市長選でも、辺野古新基地を推進する自民・公明陣営を全力で支援していたわけで、いまさら何をいっているのかと思う。基地利権で急成長した大米建設(宮古島・下地幹郎の実家企業)を含めて、最初から国策容認、基地容認であることは誰もが認めるところであり、保守票を割る可能性もあるのになぜ出馬? と不思議がられている。
B ただ玉城デニー陣営も盤石ではない。支持母体であるオール沖縄では、保守層のまとめ役だった金秀グループ(呉屋守將会長)が離脱し、県議会でも元々自民党寄りだった会派おきなわの議員連中が辺野古新基地推進側に寝返るなど、この4年で組織的には相当に瓦解が進んだ。この間、大規模公共事業ではJVから金秀を外すなど徹底的に基地反対派を締め上げており、コロナ禍で沖縄地場経済が苦境に置かれていることをむしろ好機として反転攻勢を仕掛けている。経済的にしがらみのある部分から崩していくのは国の常套手段であり、この揺さぶりに対して、玉城陣営としてはより深く県民そのものとの結びつきを強め、島ぐるみの世論に根ざして旗幟鮮明にしていくことが求められる。
C 表向き保革共闘が崩れた現在のオール沖縄を革新政党(国政野党)の寄り合い所帯のように見なす向きもあるが、組織を形作る上層部や政党の動向がどうであれ、県民にとっては「基地容認を迫る国政沖縄県民」であることは変わりなく、実際には保守・革新の枠をこえた島ぐるみの世論が突き動かしている。今回の知事選もその矛盾関係のなかでたたかわれるわけで、前回と違い佐喜真陣営が「辺野古容認」を明言しているなかにおいて、基地問題はより明確な争点となる。誰に県政を委ねるのかを選ぶのが選挙だが、同時にどのような県政をおこなわせるのかを問うものであり、下からの世論で候補者を縛り上げていかなければならない。
B 過去の知事選から直近の参院選までの票の推移【図①参照】を見ても、その差はジワジワと縮まっており、玉城陣営としては油断した瞬間に足元をすくわれる局面だ。襟を正すべきところは正しながら、これまでオール沖縄を支えてきた県民世論との結びつきをより強固なものにしていく努力が必要だろう。
同時に24市町村議会選 宜野湾はトリプル選
A 今回の知事選は、同日に県内24市町村で市町村議会選がおこなわれるほか、宜野湾市、大宜味村、伊是名村の3市村は首長選挙も重なり、史上初の「トリプル選挙」となる【図②参照】。本部町では町長選、那覇市・南部島嶼部では県議補選とのダブル選となる。10月には注目される那覇市長選、豊見城市長選や渡嘉敷村長選も控えており、未曾有の選挙ラッシュとなっている。
普天間基地を抱える宜野湾市長選は前回と同じ顔ぶれで、佐喜真前市長の後継で現職の松川正則(自民、公明推薦)とオール沖縄が推す新人の仲西春雅(共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわ推薦)の一騎討ちの公算だ。同市議選では、れいわ新選組(山本太郎代表)が公認候補者として「プリティ宮城ちえ」(新人・元教師)を擁立し、初めて沖縄県内の地方議会選に参入することも注目される。
C 辺野古新基地の地元名護市では1月、「国と県の係争を注視する」とお茶を濁しながら自民・公明が推す渡具知武豊が再選を果たしたが、ここでも与野党勢力が拮抗する市議選が知事選と同日におこなわれる。
知事選後におこなわれる県都・那覇市長選(10月23日投開票)をめぐっては、翁長知事時代(翁長市長の後継)からオール沖縄とともにやってきた城間幹子市長(2期)が引退表明し、オール沖縄は故翁長前知事の次男・翁長雄治(県議)に出馬を要請。本人が県議を辞職して立候補を表明した。対するは、現那覇市副市長の知念覚が「オール沖縄は変質した」と反旗を翻し、自民党(選考委員長・国場幸之助)からの出馬要請に応じている。
翁長県議の辞職にともなう県議補選(知事選と同日)では、オール沖縄からは沖縄社会大衆党の上原快佐那覇市議が立候補を表明。自民党候補は決まっていないが、かつて金秀グループとともにオール沖縄に参画していた県内ホテル大手「かりゆしグループ」オーナーの平良朝敬が「玉城県政野党」の立場で立候補を検討していることがとり沙汰されている。いずれも元オール沖縄の顔ぶれが反旗を翻した格好で、自民党サイドからすれば上から切り崩すことによって「オール沖縄は崩れた!」を印象づけ、諦めの空気を煽りつつオセロゲームのように一気に持って行きたいという配置だ。
だが先述したように、オール沖縄は上からの号令でつくられたものではなく、県民一人一人の総意が下から結集して、当時自民党だった翁長雄志を担いで島ぐるみで動かしていった運動体であり、もともと政治家や政党支援団体という性質のものではない。組織としてはその原点を貫くことが求められるし、県民の命運を握る重要局面でこそその力は発揮されるものだ。国策との対決である以上、厳しいたたかいだが、この攻防が県内一斉選挙でどのようにあらわれるのか注目される。
アメとムチで県民愚弄 統一教会の影も
A 基地建設を円滑に進めるために知事ポストを奪いたい自民党の戦略は、一貫して「アメとムチ」だ。知事選告示を前にして、岸田政府は24日、2023年度の沖縄振興予算(概算要求)を閣議決定したが、前年度比200億円減の2798億円で、2年連続で3000億円を下回るという露骨なものとなった。「いい正月が迎えられる」といって辺野古埋め立て容認に寝返った仲井眞元知事に2021年度まで毎年3000億円規模を約束して辺野古基地を容認させ、2014年度には3500億円をつけたが、激怒した県民に仲井眞が叩き落とされ、辺野古新基地反対を掲げる翁長県政になると減額傾向となり、21年度には前年度から330億円減と大ナタを振るった。
その中でも県の裁量が大きい一括交付金を減らし、市町村の事業費を増やすなど、県政を飛び越えて市町村を一本釣りする政治的な予算づけに終始している。首長の辺野古基地に対するスタンスによって交付額を増減させること自体、「カネがほしければ知事をすげ替えろ」というメッセージであり、有権者や地方自治を踏みにじる税金を使った選挙買収にほかならない。
C これを露骨にやったのが安倍、菅だが、司法機関のコントロール権まで握って公私の区別もなくなり、タガが外れた選挙買収が常態化し、2019年参院選広島選挙区では100人に現金をバラ撒くという前代未聞の買収事件にまで発展したことは記憶に新しい。おごり高ぶった中央政府が地方選挙に介入して選挙や有権者を弄んだあげく、それが明るみに出れば躊躇なくトカゲの尻尾切りをする。このため岸田が地盤とする広島では、自民党所属の首長から県議、市議に至るまで政治家40人が現金を受けとっていたことが発覚し、起訴される事態にまでなったわけだが、なんら反省はないようだ。
沖縄に対してはいつも公然買収で、先の名護市長選でも、辺野古に反対した稲嶺前市政には凍結していた再編交付金(毎年約15億円)を再開して給食費や保育料の無償化をやらせ、その引きかえに有事のさいにはミサイルの標的になる米軍基地の新設を進めさせるというものだった。知事選も「地獄の沙汰もカネ次第」で臨むということだろう。
A 今回の知事選でも、佐喜真陣営が強調するのは「政府との信頼回復」によって交付金を3000億円規模に復活させるとか、国とのパイプで1000億円規模の観光業支援とかの経済対策だ。ただ、辺野古新基地建設については「容認」を明言しているのが前回との違いで、コロナ不況で苦しんでいる県内事業者の足元を見て、アメをちらつかせることで辺野古新基地問題にも決着を付けようという魂胆がにじんでいる。
コロナ禍では、行動制限も検査もしない米軍基地由来でウイルスの市中感染が広がり、とくに観光業の比重が大きい沖縄では経済的打撃が大きかったが、国はなんらの支援もせず放置を決め込んできたし、その県民の苦しみをわかったうえで予算減額という大ナタを振るった。みずから首を絞めておいて、アメをぶら下げて知事選に揺さぶりを掛けるという露骨なやり方だ。
B だが、想定外だったのが安倍元首相銃撃事件を契機に統一教会の政界汚染が暴露されたことだろう。沖縄政界も例外ではなく、佐喜真淳も前回知事選で落選した後の2019年9月に台湾で開催された統一教会の「祝福式」(既婚者による儀式)に来賓として出席し、挨拶までしていたり、2020年には韓国でおこなわれた統一教会主催の国際会議にも参加し、それらを含めて8回も関連団体行事に参加するほどの深い関係だったことが明らかになっている。統一教会の幹部から「玉城知事にもっと噛みつくべきだ」「中国との関係をどうするのか」と指示されていたり、その他の自民党那覇市議が教団とつきあっていたことも明るみに出るなどして、釈明に追われている。
自民党と統一教会の蜜月関係から見れば、自民党本部が死力を尽くして介入する沖縄県知事選に統一教会が関与していないとは誰も考えない。二階元幹事長は先日、「支援者が誰であろうと応援してくださいというのは合言葉だ」「自民党はびくともしない!」と開き直っていたが、霊感商法で名を馳せるカルトが跋扈(ばっこ)する陣営であることを自己暴露しているようなもので、それを有権者がどう判断するかだろう。
ここに萩生田光一や高市早苗、山際大志郎など統一教会とズブズブの党幹部が応援に乗り込むなら、さながらカルト選対で、これまでのように「北朝鮮の脅威が…」「我が国をとり巻く国際情勢が…」と説教したところで、「オマエがいうな!」のブーメランが飛んできかねないものがある。米国防総省の報告では、2014年にも統一教会から北朝鮮に4500億円もの資金が送金されているというのだから。もう無茶苦茶だ。
「台湾有事」煽り、前線基地化 沖縄は「捨て石」か
C 沖縄をめぐる状況は、幾度となく示されてきた県民の民意にもかかわらず、「日米安保」のもとで、辺野古だけでなく県内全域で軍事基地の整備が強行され、近隣国との軍事的緊張の前線基地化が進められてきた。「復帰50年」といいながら、その実態は米占領期となんら変わっていないし、辺野古新基地や先島への自衛隊ミサイル部隊の配備など、米軍に隷属した日本政府の下で地方自治を無視した「力による現状変更」がおこなわれてきたのが沖縄だ。
ウクライナ戦争で顕在化したのは、冷戦後から続く「米国(NATO)vsロシア」の矛盾のなかで、その一方に肩入れした軍備強化は隣国との緊張を激化させ、あげくの果てには代理戦争に発展することであり、背後から焚きつけて代理戦争をやらせる側(米国)は後方から武器を送るだけで矢面には立たず、和解や停戦交渉にも動かない。独自に対話のチャンネルを持たなければ緩衝国の国民は延々と戦火に巻き込まれるという現実だ。
軍事侵攻して一般人を巻き込んでいるロシアの行為も許されるものではないが、半年たっても一向に停戦に動かず、武器支援を受けて戦争を継続し、民間人の犠牲を膨らませることが安全保障といえるのか? だ。西側メディアは民間人の犠牲者の悲劇をとりあげてロシアへの憎悪を煽るだけだが、戦争を止めるには双方の為政者なり、背後でけしかけている大国にも責任を問わなければならない。ウクライナの人々に同情するなら、武器を送るのではなく、一刻も早く戦争を止めるための国際的な動きを強めなければ話にならないのだ。
A 日本をとり巻く現状に置き換えれば、中国艦船の動向が逐一問題としてとりあげられるが、沖縄県民をはじめ日本国の頭上では傍若無人な米軍の実戦訓練が日常的におこなわれている。「沖縄戦をくり返すな!」「沖縄に基地はいらない!」「海兵隊は撤退せよ!」と幾度となく県民が反対の意志を示してきた辺野古新基地建設も、南西諸島へのミサイル基地配備も、それこそ民意を無視した「力による現状変更」そのものだ。「日米安保」とは単なる「米国安保」であり、紛争の火種を燻らせ、同盟国に鉄砲玉を担わせるものであることがはっきりしている。
B 先日のペロシ下院議長の電撃訪台のように米国は中国を刺激し続けている。そのうえ日本の国内法を超越した米軍が、頭上で中国との挑発合戦をやるわけで、その結果、武力衝突に発展した場合、その報復攻撃を日本が一身に受け止めなければならず、沖縄はその最前線で「捨て石」にされる位置にある。有事のさいにはミサイルの弾よけになる関係であり、自民党政府がぶら下げる「豊かさ」とは、生命と引き替えの豊かさにほかならない。これは沖縄だけの問題ではなく、日本全体の命運とかかわる問題であり、全国とも呼応した力の結集が求められる。
A メディアが煽るような「保守vs革新」「基地か生活か」といった小さな枠組みで語れる話ではなく、島ぐるみの県民の力に依拠し、沖縄を再び核戦争の戦禍に巻き込むという現実的な脅威に対して、それを阻止する力を幅広く束ねていくことが必要だ。この力を見くびって党利党略の具にしたり、それを裏切るものについてはシビアに審判が下されるのも事実で、いわゆるオール沖縄や玉城陣営としても、全県民の利益に立って、県民とともに沖縄を戦場にする策動と対決していく姿勢を鮮明にしてたたかうことが不可欠といえる。いくら目先をごまかしても、知事選の構図は、米軍支配容認を迫る東京司令部vs沖縄県民の対決なのだ。
(8月26日付)