いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「農業守り、誰もが安心して食を得られる社会を」 米、野菜、果樹、畜産、酪農…各生産者が実情訴え 「令和の百姓一揆」院内集会から

(2025年2月24日付掲載)

全国の農家が実情を訴えた「令和の百姓一揆」院内集会(2月18日、衆議院議員会館)

・農地復旧と所得補償が急がれる能登被災地


   石川県・能登農業協同組合 藤田 繁信

 

 私たちは能登半島で棚田の生産をしている。能登半島では昨年1月1日に地震があり、9月20、21日に奥能登豪雨があった。地震から1年2カ月、豪雨災害から4カ月を経過したところだ。追い打ちをかけるような非常に惨状の厳しい、強烈な、ショッキングな場所がそこかしこである。村が消える、街並みが消滅するような状況が能登の各地であった。

 

 「JAのと」は能登半島の奥能登地域にある。2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)にまたがるエリアで、組合員が約8000人、準組合員が約4000人の約1万2000人の組合員を擁する農協だ。水稲を中心に野菜、畜産、特用林産物など地域の特性を生かした生産をおこなっている。生産作物は水稲、穀類(能登米、能登棚田米、能登大納言)、野菜類はブロッコリー、かぼちゃ、アスパラガス、ミニトマト。畜産は能登牛、酪農などがある。最近では原木しいたけ「のとてまり」が1月9日の初競りで、ご祝儀価格として1箱(6個)35万円が出た。

 

 昨年元旦の地震は震度7だが、当農協の役職員の経験でも4回、6回など、複合的に揺れがあった。日本海側の輪島から門前の方に向かう道路が大崩落を起こしたが、その先の集落はまだ水も電気も来ていない状況だ。地震によって田んぼに亀裂ができたり、亀裂の多いところでは田んぼが2㍍以上隆起して段差が出来たり、揺れによる泥の湧き上がりなどが起きている。地震の爪痕が多く残っており、まだ水田の復旧がなされていない。当農協の施設でもコメのラック倉庫で紙袋が破裂して散乱したり、ライスセンターの昇降機やコンベアが倒壊したり、コメの倉庫内でも積み上げたコメ袋が倒壊し、破袋・散乱するといった状況が各地で見受けられた。

 

 さらに昨年9月20日から21日にかけて豪雨被害があった。総雨量は500㍉以上、例年9月の降水量の2倍超えだった。河川が氾濫し、地震で崩れた山の土砂が大量の雨によって流れ、流木が川に流れ、町に流れ、大変な状況になった。豪雨による田んぼの圃場の崩壊、収穫物の水没による腐敗、田んぼの中に山積みとなった流木群などがいまだに手つかずになっている。

 

能登半島では地震に続く豪雨で河川が氾濫し、田んぼに土砂や流木が流入した

 まずは道路や山の崩れた土砂の搬出、ライフラインである河川や護岸の復旧などをおこない、それから農地の復旧ということになっている。能登は幹線道路の本数が少ないので、幹線道路と河川の復旧は第一条件であり、どうしても農地の復旧が遅くなる状況だ。

 

 当農協の調べでは、令和5年に水稲は2800㌶の作付け面積があったが、地震によって令和6年度はその約60%の1800㌶しか作付けできなかった。不作付地が700㌶あり、水稲が植えられないので緑肥・麦・大豆などを植えたのが300㌶あった。残念ながら能登の水田は超湿田地帯なので、麦や大豆は品質があまりよくない。そして1800㌶の約10%にあたる290㌶の農地が豪雨による冠水や土砂の流入によって作付けができないのではないかという状況で、今年4月から5月にかけての田植えでは令和6年度と同じく1800㌶程度しか見込めない状況だ。

 

 ゼネコンや地元の建設業の方は、まずは道路、河川の復旧などライフラインを仕上げるのに懸命になっている。そこが完成したら農地の復旧ということで、今年できる田んぼもあるが、2年後、3年後、場合によっては5年後に復旧する場所もある。能登の河川は非常に小さいので、河川を復旧しなければ農地・田んぼの復旧にたどり着けない状況だ。そして、田んぼが復旧せず田植えをできない、畑にタネや苗を植えられない期間、農家の収入は途絶える。国にも収入の補填について要望しているが、収入保険、農業共済の仕組みでは非常に難しい。ぜひ農家の所得補償をお願いしたい。

 

 また、能登の外浦側は日本海で大和堆がある。能登半島の沖合には、七ツ島があり、さらにその沖合に舳倉(へぐら)島がある。海女さんたちの漁場であり、シベリアから飛来する野鳥の聖地でもある。だが、ここは国境だ。輪島市には航空自衛隊小松基地のレーダー基地もあり、明け方の上空には小松基地からのスクランブルの戦闘機が飛びかっている。

 

 その意味で能登半島は国境地帯でもある。農が滅びると国が滅びるという言葉もあるが、農地を復旧し、食料生産をし、食料自給率を上げて国民の食料を守るという食料安保の視点と同時に、能登半島は国境でもあり、農業は国防という点も踏まえて考えていただきたいと思う。

 

 農地については河川などもあるため、省庁の垣根をこえた復旧をお願いしたい。また、防災庁や防災省といった部署を早急に立ち上げ、能登をモデルとした復旧・復興をしていただきたい。日本は災害列島であり地震大国だ。南海トラフ地震や首都圏直下型地震も懸念されるなか、ぜひとも早く防災のプロ、災害のプロ、復興・復旧のプロを集めた省庁を立ち上げていただくことを強く強くお願いしたい。省庁の垣根をこえた能登の復興をぜひともお願いしたい。

 

 令和6年11月28日に農政局、市町、農協が集まって「奥能登営農復旧・復興センター」を開設し、令和7年度の栽培に向けて農地の復旧に努めているところだ。今後は農家、生産者のみなさんと一緒に田んぼや畑を一枚でも多く復旧し、奥能登の農業と生活の復旧・復興・再建に努力していきたいので、みなさんよろしくお願いしたい。

 

地震と豪雨による二重被害うけた能登半島では農地復旧も進んでいない(2024年10月、輪島市)

・消費者のためにも稲作農家守る施策が必要

 

  新潟県・星の谷ファーム 天明 信浩

 

 私は30年前、1995年にコメが作りたいという思いから、大学院を卒業するとすぐに新潟に移り住み、コメ農家になった。30年前には新潟のコシヒカリは、農協の買取価格で1俵2万4000円だった。米価が下がり続けて30年。安いときは1俵1万2000円になったこともあった。就農したときの半値だ。そんな米価でも機械代、肥料代、燃料代は上がり続けた。そのほかにも中越地震や中越沖地震、台風の直撃、大雨による田んぼの崩壊、今年のような大雪による被害、日照りの年もあった。

 

 そんな苦労がありながらもコメづくりを続けてこれたのは、全国の百姓仲間や地域の仲間、妻や子どもたちが一緒に農業をしてくれたからだ。

 

 百姓になったのは山下惣一さん(農民作家)の著書『今、コメについて』を読んだのがきっかけだ。ちょうどバブルに浮かれた時代に農民の視点からその問題が描かれていた。地に足のついた人生を送りたいと思い、農民になることに決めた。学生時代はバブルの絶頂期で土地が高騰しており、サラリーマンが乏しいのは農家がいるからで、日本に農家はいらないというような評論家までいた。世の趨勢も農業をおとしめる論調だった。あれから30年経過して、政府は規模拡大を促し、小農を切り捨ててきた。日本の農家は激減して当時の四分の一になっている。農家が減ってサラリーマンが豊かになったのだろうか? 日本人は豊かになったのだろうか? 当時いっていたことが間違いだったことが今、証明されているような気がしている。

 

 私が住んでいる地域は上越市でももっとも山奥の地域だ。田んぼは棚田で、令和になって農水省から「つなぐ棚田遺産」にも選ばれるような山奥の田んぼでコメ作りをしている。今はUターンやIターンの人が増えているが、地域をあげて移住者を受け入れるようになって10年以上の歳月がたっている。地元の人たちの平均年齢は80歳ほどだ。移住者と協力しながら農業をして元気に暮らしている。山間地は広大な面積があるわけではないが、小さな面積を分けあい、ほかの収入を組みあわせながら、地域で暮らす仲間を増やすようにとりくんでいる。私も昨年、経営していた田んぼのうち2㌶を移住者に渡し、新たな農業者が誕生した。

 

 国が進めるように集約化して一つの経営体だけにしたら、農業に携わる人はものすごく少なくなる。だが一家族2㌶ずつの田んぼで、園芸や畜産、林業などほかの産業に勤めたり、“半農半X”などで地元で暮らしてもらえれば、多くの人が地域で住めることになる。地域でいかに多くの人が暮らしていくかが大切で、災害があったときにも多くの人がいることによって地域が守られていく。本当に強い農業・農村とは、大きな農家があることではなく、小さな農家がたくさん集まっている方が強い。現在国が進めている政策は、地域から人を減らす方向に向かっている。この政策を変えて、一人でも多くの仲間が農業に携われるような政策に変えていくことが必要ではないかと思う。

 

 今回のコメ不足も大きな原因の一つとして考えるのが農家の高齢化だ。私の地区でも、70歳以上の人が中心になってコメ作りをしている。規模を拡大して100㌶をこえるような農場まで出てきているが、そうなると目が行き届かず、細かい作業がどうしても手抜きになって収量が落ちていく。そうしたことがボディーブローのようになっている。おそらく5年、10年たったとき、農家の数が激減するだけでなく、子どもの数も減って、地域で暮らすことすらできないような状況になっている。農業や地方が崩壊する直前に来ているのだと思う。

 

 今回の米価の上昇に関しても、平成の大冷害のときの米価は2万4000円だが、消費者が買う価格は5㌔3000円ほどで、今回のような上昇はしなかった。国のコントロールも効いていたのかもしれないが、まだ農協がコントロールしていたから、投機的な値上がりはなかった。しかし、これからコメが不足したときに今の価格で収まることはないと思う。5㌔1万円、2万円になっていってもおかしくないような状況ができている。農家のためだけでなく、消費者のためにも農家を守っていくことがすごく大切だと思っている。

 

 今回のコメの価格上昇で、農家は少しホッとしているところがある。この30年間、米価が下がり続けて、赤字でコメをつくってきた人たちがたくさんいる。やっと少し、機械を買ったりするお金ができたかなと思ったりしているのも事実だ。ただ一方で、都会の人たちが楽になっているのではないことはよくわかっている。コロナのときに仲間を募って都会の人たちにコメや野菜を送り、都会の人たちが送料を負担する形で、貧困の人たちにコメを送った。この30年間の経済政策の失敗で、非正規の人が増え、外国から来た低賃金の人たちもたくさんいる。そうした人たちが暮らせるような社会、仕組みをつくっていかないといけないと思っている。

 

 農業が担っているのは農産物の生産だけではない。農業は人を育てる力を持っていると思う。農業に携わることによって人間の限界、成長の限界を知ることができる。それがわかる人たちが社会のなかにある程度いることが大事だ。今あまりにも少なくなって経済至上主義になっている気がする。これからの世界の環境のことを考えると、地域で農業を担う人たちが一定数いないと破綻していく気がしている。コメをつくって農業を守るだけでなく、人を守っていくためにも農業を守ることが必要だと思っている。

 

稲刈りをする農家

コメが消えたスーパーの商品棚(山口県内)

・価格転嫁できず壁に直面する野菜の産直販売

 

    千葉県・房総食料センター 越川 洋一

 

 私は千葉県の北東部、成田空港にほど近い海岸よりのところでコメと野菜づくりをしてきた。コメは両隣3軒で法人化して25㌶、ビニールハウスは我が家で1500坪やっている。1971年から生活協同組合とのかかわりを持ち、1982年に農事組合法人の房総食料センターを立ち上げ、22年間、初代理事長としてコメと野菜の産直をおこなってきた。今日は野菜産直の壁についてのべる。

 

 年間通じて多品目の野菜をおもに生協の共同購入向けに出荷してきた。チラシによる共同購入方式は、5週間前に価格と企画を決める。ところが、異常気象続きで生育がうまくいかないという天候リスクがあり、市況が上振れし、生協への納入価格は安い。共同購入による注文数は、市価が高ければ多く、安ければ少ないという結果としてあらわれ、過剰と不足は宿命のようについて回る。

 

 大変なのは40年以上、販売価格が変わらなかったことだ。消費税だけでも大変だ。値上げをお願いしても担当者から「注文数が減るよ」と冷たい返事が返ってきた。この点はコロナ禍以降、少し柔軟になったと聞いているが、生協産直では利益が出ない、先が見えないという声が若い後継者から出始めている。今の収入では子どもの教育費も心配だといわれる。野菜産直は壁に直面しつつあると思う。

 

 この間とくにコロナ禍、ウクライナ侵攻に円安も加わって、燃油、電気、機械、肥料、農薬、諸資材など、生産資材の価格上昇はすごいものがある。肥料などは倍以上に跳ね上がり、機械など買い換えができない。雇用労賃も時価労賃の倍以上で、最低賃金の1076円は支払わなければならない。野菜生産の時給は全体で459円という水準なので、大規模なほど雇用労賃が重くのしかかり外国人頼みだ。採算割れのなかで頑張ってきたが、生産費の上昇分を販売価格に転嫁できない。もう限界だ。消費者のみなさんの理解のうえに価格転嫁できればありがたいというのが本音だ。

 

 千葉県は農業算出額全国第4位だが、農業従事者の平均年齢は67・8歳。あと10年たったら激減が予想され、農業生産の維持も困難が想定される。「農業はおれ一代で終わりだよ」と古老は静かに嘆く。千葉県の2020年の耕作放棄地は1万3457㌶、前年から37㌶増えている。

 

 私の集落でも16戸の農家のうち7戸がここ2、3年でコメづくりをやめ、つくる者がない畑は耕作放棄地で荒れている。大事な農地が今、値打ちのないお荷物になっている。後継者のない方々は農地を手放すことになんのためらいもないようだ。憂うべき時代だ。コミュニティとしての集落の機能が維持できるか心配だ。これが亡国の農政の終着駅だ。地球沸騰化といわれるように異常気象が恒常化している。このときにパリ協定から離脱を表明し、気候危機に背を向けるアメリカのトランプ氏は許せない。

 

 千葉県は昨年、長く暑い夏が続き、コメに乳白米、カメムシ被害が及んだ。10月は雨が長く、曇天続きでキャベツ、ブロッコリーに病害虫が発生し、キャベツが1個1000円になった。11月過ぎから6週間以上雨がなく、ネギなどが太らず収量は半分だ。その結果、生産者には自己責任が、消費者には高い価格が押し付けられている。輸入でなく自給を守ること、拡大再生産のためには安心できる所得補償、価格補償と消費者支援が求められる。

 

 3月の食料・農業・農村基本法計画の策定にこの政策を盛り込ませようではないか。農と食料生産は、気候危機、経済危機、高齢化・離農危機など多重危機に襲われている。コメも酪農も養豚も養鶏も果樹も野菜生産も大変な事態だ。自民党政府は財政審答申や農業基本法改定に見られるように、自給率の向上や公的支援の考えはなく、市場原理に丸投げだ。このままでは離農が加速し、農業そのものが消滅してしまう。国民の命が崖っぷちに立たされていると思う。

 

 消費者のみなさん、この国の政策を転換するために政治を変えなければならない。生産者、消費者がいがみあっていたら敵の思うつぼ。昔のコメの食管制度のような、経営と暮らし双方を守る方向に政策の舵を切れという世論を大きくしていこうではないか。食料の重要性に保守も革新もない。野党は自給率50%以上で足並みがそろっている。国連から飢餓国と認定されているこの国で、生産から撤退したら、国民の食べ物はだれがつくるのだろうか。消費者のみなさんと語りあい、行動に立ち上がろう。

 

 2008年の世界的食料危機のさい、世界各国は自国の消費を優先して輸出を停止した。アメリカのバッハ農務長官は、「日本を脅迫するなら食料輸出を止めればいい」と豪語したそうだ。アメリカの農業予算の6割は消費者支援。月7万円までカードで食事を購入できる。代金は自動的にSNAP口座から引き落とされ、国民の8人に1人が受給しているそうだ。そうしたことで食料生産を守っている。

 

 日本もEUやスイス並みの直接支払いが必要だと思う。日本の農業予算は世界一過保護どころか、世界一保護なしだ。アメリカ、フランスの半分、韓国の3分の1だ。農業と食料政策を転換させる正念場だ。輸入依存から自給へ、子どもたちの命と健康を守る未来を見据えて、アグロエコロジーへの転換に踏み出すときだ。

 

自然生態系の循環を尊重して、有機栽培に移行するプロセスのなかで、おいしいミネラルをいっぱい含んだ健康野菜生産に全力を尽くすことが国民の命を預かる者の生きがいではないだろうか。日本農業再生の希望と展望はその一点にあり、それは国連が提唱するSDGsにもつながっていると思う。

 

農家の苦境に天候不順などの要因が加わり、高値が続く葉物野菜(山口県内)

・人手確保が死活問題の果樹農家

 

  神奈川県・ジョイファーム小田原 長谷川 壮也

 

 私は就農して15年ほどになる。父親からひき継いだが、果樹はコメや野菜に比べて、食料がなくなったり高騰したときに一番最初に切られるのではないかという心配もある。ジョイファーム小田原は、農薬をなるべく使用しない、除草剤を使用しないなどの栽培基準を定めた農家の集まりで、生産者120~130名ほどの登録がある。

 

 私の農園では社員4人、パートを10人ほど常時雇用し、経営者の私は月2日くらい休めればいい方だ。しかし、どれだけ働いても毎年決算書を見ると赤字だ。働き方改革で社会保険や最低賃金が上がっているため、パート1人雇うにも有給や社会保険を考えると時給1500円は見なければ厳しい。小田原は中山間地が多い。とくにミカンの畑は機械が入りにくく、人が草を刈らなければならない。畑が広いので、草刈りで1周回るだけで人件費が60万円ほどかかる。昨今の気候変動で昔は3回回れば大丈夫だったところが、5、6回回らないといけない状況になっており、草刈りだけで300万円かかってしまう。300万円というとミカンを15㌧売らないといけない。15㌧というと400㍍×10㍍の畑が必要であり、基礎的な部分を支えるだけでもかなり厳しい状況になっている。

 

 私の組織でもここ5年ほど亡くなる方が多い。農家は元気だが、75歳以上や80歳近くなると、1週間前まで畑にいた人が突然亡くなったりして家族は大慌てだ。後継者がいないとか、一緒にやっていた奥さんがなんとか継続するなどしている。生産量や畑の維持などで考えると、ベテランの方が1人亡くなると、新規就農者が5人いても間に合わない状況がある。

 

 新規就農者を増やせばいいではないかという声もあるが、果樹は年に1回しか収穫がなかったり、苗木を植えてから5年間、10年間くらいはきちんとした収入が得られない。新規就農者は技術もなかったりするので、独立してもすぐに収入が確保できない。今、新規就農者への補助金があるが、研修生を受け入れる側の支援も大事なのではないか。先輩もすごい技術を持っているが、人に教える時間や資金的な余裕がないなどで、「いいよ、研修生は」「自分のことで精一杯だよ」という声が大きい。独立してから経営が成り立つように育てていく時間と資金の余裕が必要なのではないか。

 

 気候変動でこれまでの農業の当たり前が通じなくなるなかで、生産者だけでなく日本全体で考えていかなければ、農業が弱っていくと思う。

 

牛にエサをやる畜産農家(福島県)

・正念場にある畜産。飼料自給率向上へ支援を

 

   茨城県・やさと農業協同組合 松崎 泰弘

 

 茨城県で養鶏業を営んでいる。畜産業界は今現在においても飼料価格高騰が続いている。さらには燃料費、人件費、生産コストについて負担増となることばかりで、非常に厳しい状況下にある。養鶏はそれに追い打ちをかけるかのように鳥インフルエンザという脅威がある。防疫対策はしつつも、いつ自分の身に降りかかってくるかわからない状況のなかで心身ともに疲労がたまっている。このような状況では担い手どころか、今後生産する農家がいなくなってしまう。ということは、食べる物がなくなってしまうという最悪の事態を招きかねない。

 

 飼料価格安定基金制度はあるものの、現在の情勢に対してそぐわない制度、内容になっているのが現状だ。さらに、この制度は配合飼料は対象だが、自家配合の生産者は加入したくても加入すらできない問題もある。早急な制度見直しとさらなる支援の拡充をおこなっていただきたいと思う。

 

 さらには今後の未来を見て、持続可能な畜産経営をしていくためにも、飼料自給率の向上が必要だ。現在の飼料自給率は、粗飼料については80%程度だが、濃厚飼料はわずか13%という状況で、輸入依存度が非常に高い。今回、飼料自給率向上に向けて目標数値が掲げられたこと、水田・畑を問わず、作物ごとに支援する政策に動きつつあることについてはありがたく受け止めているところだが、粗飼料はもちろんのこと、濃厚飼料(飼料米、子実用トウモロコシ)についても、これまで耕蓄連携強化をはかり、さらには耕作放棄地解消に貢献したことも含めて、ひき続き農地を守っていく一つの手段として、最低でも現状維持、継続、そして拡大していく方向で、手を緩めることなく長期的に手厚い支援を要望したい。

 

 畜産業界は今まさに正念場だ。緊急事態だ。国の後押しなしに明るい未来は来ない。努力だけでは限界という状況だ。

 

・所得補償で離農を止めなければ酪農は壊滅する

 

     千葉県・ジョンディール 金谷 雅史

 

 千葉で酪農をしている。35頭ほど乳牛を飼い、飼料畑を10町ほどやっている。酪農が一番厳しかったのは2022年だ。コメが時給10円のときに、酪農はマイナス48万8000円だった。

 

コメの「時給10円」というのは兼業・主業すべての稲作農家を含む統計データを時間割りした時給だが、酪農の場合は兼業で牛を飼っている人はいない。全員主業農家でマイナス48万円になった。つまり、お金を払って牛乳を搾っている状況になった。

 

 2023年、配合飼料の基金や1頭1万円の補助があり、うちも35頭分・35万円ほど補助を受けた。だが、たとえば配合飼料基金は入ると次の月になくなってしまう。首の皮をつないだだけの補助金だ。1頭1万円の方も35万円が振り込まれるのだが、次の月になくなる。やっぱり首の皮一枚で、これでいつまでやれるのかという状況だった。

 

 昨年末に出た2023年の統計データでは全国平均でプラスになったが、それでも183万円だった。これで生活できるのか? という数字だ。牛乳を搾るのにお金は払っていないが、183万円しか手元に残らない。2024年の統計データはまだ出ていないが、仲間に聞くと今までで一番悪かったという。私もそう思う。今年末ごろに2024年の統計データが出ると思うが、2022年のマイナス48万8000円よりも悪い数字になるのではないか。

 

 22年がマイナス48万8000円、23年がプラス183万円、24年がマイナス50万円と仮定したら、3年間で100万円も儲かっていない。こんな仕事があるだろうか。酪農家は365日牛を飼っている。仲間の酪農家との話で、よく冗談めいて「おれら奴隷だからな」という話になる。自尊心が傷つけられている。「いったいどうしたらいいんだ」と、世の中に対して大きな声で訴え続けてきているが、どうにもならない。

 

 牛乳を飲んでほしいという活動もしているが、まずは離農を止めることが先決だと思う。私も祖父から数えて3代目だが、そうした牧場は多く、すべての牧場にストーリーがある。そうした牧場が今どんどんなくなっている。まず離農を止めることが先決であり、欧米並みの所得補償が必要だ。基本計画にまずそうした言葉を出して安心させてほしい。このままいけば国は守ってくれないと思い、どんどんやめてしまう。酪農家が1万戸を割ったというニュースがあったが、5年を待たず5000戸を割ると思う。

 

所得補償の政策を進めていただきたい。そして消費者のみなさんには、ぜひ牛乳をコップ1杯いつもより多く飲んでいただきたい。

 

 「令和の百姓一揆」で、今の農政を変えなければならない。今を変えよう、持続できる形に変えていこうということであれば、党、派閥、属性関係ない。同じ方向を向いて3月30日は一緒に歩いていただければと思う。

 

搾乳する酪農家

・農政の転換なしには国が滅びる

 

              千葉県・さんぶ野菜ネットワーク 下山 久信

 

 コメ不足の問題やキャベツの高騰など今起こっていることは自民党、農水省の政策の失敗だ。3年前にウクライナの戦争があり、輸入に頼る肥料やエサなどの値段が上がり、自民党の森山議員が「食料安全保障」をいい出して農業基本法改正の話が出てきた。残念ながら基本法の改正で食料自給率の話はいっさい出ず、謳われなかった。そこで謳われたのは規模拡大、農地集積、輸出、20年後に基幹的農業従事者が30万人になるからスマート農業という方向性だ。

 

 そして今、基本計画が議論になっている。3月末に閣議決定する予定だ。2月5日の政策審議会で基本計画の骨子案が出てきて、2月7~21日の期間パブリックコメントを募集しているが、たった200文字だ。各農政局ごとの意見交換会もおこなっているが、2時間のオンライン会議で、農水省が説明し、決まった人がヒアリングを受け、オンラインで参加しても意見はいえないというものだ。これで3月末に基本計画が決定してしまう。

 

 コメの問題も大変になっているが、今は生産調整をやめ、どんどん生産すればいい。野菜の値段が上がっているが、野菜の作付けは1年間で5000㌶、10年で5万㌶なくなった。果樹は年間4000㌶、10年で4万㌶なくなっている。そうしたなかで気候変動が激しくなり、価格が安い物はなくなっている。昔は過剰生産で野菜や果物をトラクターで鋤き込んだこともあったが、今はそういうことはない。日本の農業は弱体化の一途だ。規模拡大のもとで農村から人がいなくなっている。規模拡大した農場で働いているのは外国人労働者であり、日本全体で5万3000人になっている。こんなことで国民に食料を供給することはできない。

 

 このままでは日本の国は滅びる。今すべての分野で人手不足だ。テレビで今日も、運転手がいないから東京のバスが減便するというニュースが流れた。年間450校の小中学校が廃校になっており、昨年の出生数は70万人を割った。毎年5万人減少している。国のあり方が根底からおかしくなっている。声を上げて行動しなければならない。

 

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