環太平洋経済連携協定(TPP)11や日米自由貿易協定(FTA)締結の動きが加速するなかで、コメ先物市場の本上場への動きが連動している。コメ先物市場は2011年8月に72年ぶりに復活したが、これは当時の民主党政府がTPPへの参加を画策する動きと並行したものだった。「主食であるコメを投機の道具にするな」という生産者をはじめとする国民的な世論のなかで、取引量は低迷していた。だが農水省は限定的な試験上場という形で2年ごとに結論を引き延ばし、次は2019年8月が期限となっている。
2011年8月8日には東京穀物商品取引所と関西商品取引所がコメの先物取引を開始した。だが開始からわずか1年半の2013年3月には、東京穀物商品取引所が経営難で解散を決定し、コメ先物取引を大阪堂島商品取引所(関西商品取引所から改称)が引きとった。
試験上場とは、本上場の前に農林水産相の認可を受けて、一定の期間を区切って試験的な上場をおこない、先物市場の機能が生産・流通へ与える影響等を検証するための制度である。試験上場期間は2年間とされ、本来であればその時点で「本上場の認可申請」か「本上場申請取り止め」を決定しなければならないが、農水省は試験上場を延長するという手口で結論を引き延ばし、本上場のチャンスを狙っている。本上場の認可基準は「十分な取引量が見込まれる」「生産・流通を円滑にするために必要かつ適当」などの条件を満たすこととなっている。
大阪堂島商品取引所も存続が危ぶまれているが、生き残りをかけて15日から「海外や証券からの投資家を呼び込む」とする国際的に主流の取引手法である「ザラ場」方式に変えた。また22日からは秋田産米を上場するなど存続をはかるためのテコ入れを強めている。同取引所は今回の変更で取引量を回復させ、来年8月の試験上場の期限までに「十分な取引量が見込める」などの本上場の認可基準を満たしたい思惑とみられている。ちなみに現在の取引量は約2万㌧でコメの年間生産量の0・2%程度ときわめて少ない。
コメの先物市場の本上場に対する懸念は、世界の穀物相場を支配するシカゴ穀物取引所の先物市場への投機マネーの流入によって穀物価格が暴騰した経験などにもとづいている。
2008年には、穀物の国際価格が高騰し、発展途上国などであいついで「食料暴動」が起こった。食料高騰の原因は、穀物をバイオ燃料生産に回すための買い占めと、投機マネーの穀物市場への流入にあった。トウモロコシをエタノール燃料として使用するようブッシュ政府に働きかけたのは、世界の穀物を支配するグローバル資本・穀物メジャーのアーチャー・ダニエル・ミッドランド(ADM)社であり、カーギルなど穀物メジャーは、穀物高騰でぼろもうけした。
世界の主要穀物価格は、シカゴ商品取引所の先物市場で決まる。当時の先物買いのうち、小麦の41%、トウモロコシの22%、大豆の24%をファンドマネーが占めていた。トウモロコシ市場は現物・先物合わせて15兆円、大豆市場は4兆円という規模だが、そこへ数兆円もの投機マネーが流入し、穀物価格をつり上げた。
TPPや日米FTAでは政府はアメリカなどに対して無関税でのコメの輸入枠拡大を約束するなど、外国産米の輸入拡大は必至になっている。カーギルなど穀物メジャーが安いカリフォルニア産米を大量に日本に押しつけ、日本の稲作は壊滅的な打撃を受けることが危惧されている。並行してコメ先物市場の本上場が画策されていることは、日本のコメ市場、コメ相場をこうした多国籍企業や投機マネーが支配することと無関係ではない。