いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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島ぐるみの力が揺さぶる選挙情勢 よそ者大動員の東京司令部 押し返すオール沖縄

ウチナーンチュの誇りをかけた闘い 熱気は充満

 

「がんばろう」を唱和する8000人の参加者

 投開票まで1週間を切った沖縄県知事選は、中央政府からの見境のない介入と締め付けが強まり、これと真っ向から対峙する沖縄県民との間で一進一退の熾烈な攻防となっている。

 


 翁長知事の遺志を引き継ぎ、辺野古新基地建設の阻止を掲げる玉城デニー陣営は22日、那覇市の新都心公園で「うまんちゅ(万人)大集会」を開き、約8000人の支援者が集結した。翁長知事が遺した「沖縄県民が心を一つにすれば、想像をこえる大きな力を発揮する」を合言葉に呼びかけられた集会には、県内各地から続続と人人が詰めかけ、会場では「県民の心を一つに」「新時代沖縄」と書かれたプラカードが配布された。

 

 時折、激しく雨が振り付けるなかで進行した集会は、新基地建設阻止を貫いて急逝した翁長知事への黙祷から始まった。支援母体「ひやみかちうまんちゅの会」(すべての人は頑張って立ち上がろうの意)の呉屋守將会長は、「道半ばで亡くなった翁長知事の無念を晴らし、ウチナーンチュ(沖縄県民)の尊厳、アイデンティティを守ろう。この雨は、この場に集まった多くの人たちに対する翁長知事の喜びの涙雨だ。翁長知事は本来私と同じく保守系だが、これ以上沖縄県民がないがしろにされ苦しむ状況への我慢ならぬ思いから、本当の意味での保守の道をまっとうされた。まだ沖縄県民の主権が失われていたなか、銃剣とブルドーザーで建設した基地だけでなく、日本国民でありながらその権利をないがしろにして辺野古基地を押しつけることにわれわれは我慢できない」と訴えた。

 

 また「もはや基地と経済は相対立するものだ。沖縄県民の所得は現在216万円で全国最下位だが、所得倍増と高成長率、他県に真似できない素晴らしい県づくりは必ず実現できる。この新都心地区は、米軍基地の返還によって商業・住宅地へと生まれ変わった。普天間基地について政府は来年2月に運用停止にもっていくというが、ウソか本当かを見守りたい。沖縄の経済発展の余地は皮肉にも米軍基地が握っている。兵站基地としながら実際には使われていない那覇軍港南岸は、那覇空港と隣接し、商業港としてもリゾート地としても素晴らしい可能性を秘めている。相手陣営は“沖縄県の所得は低い、低い”とくり返しているが、低くしているのは誰なのか。まさに天に唾するものであり、沖縄県民に対する最大の侮辱だ」と憤りをのべた。

 

 そして「この知事選の争点は明確だ。安倍政権のいいなりの知事という名の国家公務員を選ぶのか、われわれ沖縄県民の声を代弁する私たちの代表者を選ぶのかだ。1人1人は弱くても万人が集まれば、3本の矢ならぬ万人の矢となる。折れることなく頑張ろう!」と力強く呼びかけた。

 

 続いて、経済界を代表して元県商工会連合会会長の照屋義実氏が登壇し、県内の中小・小規模事業者が発した共同アピールを紹介した。

 

 「私たち中小企業家は、今回の知事選を、沖縄の未来と日本の民主主義の将来をかけた歴史的な重要な選挙だと位置づけている。選挙の最大争点は、辺野古新基地建設に対してNOか、YESかだ。この新基地問題は、日本の平和と民主主義にかかわる、沖縄県民にとっては生命、生活、財産にかかわる重要な問題だ。前回選挙でも辺野古新基地をつくらせないとの公約を掲げた翁長雄志氏が、埋め立てを容認した前知事に10万票の大差で当選した。これは県民の民意だ。だが政府は“辺野古が唯一”として工事を進めてきた。目的のためには手段を選ばないやり方だ」。

 

 「沖縄県民がみずから基地に土地を提供したことは一度もない。普天間基地も住民が収容所に入れられている間に建設され、その後も銃剣とブルドーザーによる強制接収によって拡張されてきたのが沖縄の基地だ。この知事選で、政府が推す候補を選ぶことは辺野古新基地を認めることにつながる。そのことを許すのかが問われている。私たちは辺野古に新基地をつくらせないという翁長知事の遺志を継ぐことこそが、地域に生きる中小・小規模事業者の使命であり、誇りだと確信している。平和な社会でこそ中小企業と地域の繁栄があり、私たちは決して基地建設に手を貸さない」。

 

 そして「中小企業には政府や官邸の圧力に抗えず、なかなか声を上げられない事業者もいる。だが“物言わぬ多数派”は玉城デニー候補にあると確信している。力を尽くして頑張ろう」と訴えた。

 

 連帯の挨拶に立った沖縄県の富川盛武副知事(元沖縄国際大学学長)は、翁長知事が進めてきたアジア経済戦略構想による観光、産業、経済成長の発展にふれ、「この発展力があるのは、沖縄がアジアの中心にあるからだ。日本国内がデフレと人口減少で市場が縮小するなかで、アジアでは各国が重層的に発展するダイナミズムが沸騰しており、沖縄はその中にある。この構想を止めることなく前進させなければいけない。翁長知事が進めた“誇りある豊かさ”とは、ちむじゅらさ(真心)の精神のことをいう。決して札束で頬をひっぱたくようなやり方では実現できないものだ。沖縄が目指すのは、ニューヨークでもロンドンでも、ドバイでも北京でもない。沖縄の、人を大切する心、自然に畏敬の念を払いそれを守っていく豊かさだ。基地依存で経済が発展しないことは明らかだ。自動的に発展しない基地に比べ、経済は企業を増殖していくものであり、その結果として基地経済への依存度は復帰直後の15%から5%まで下がった。さらに基地を縮小していくことで、さらなる発展が生まれるのは明らかだ。翁長知事の遺志を継ぎ、それを実現できるのは玉城候補だ」と激励した。

 

 各界の代表からの挨拶に続いて、選対本部長の照屋大河県議は「この選挙の主役は、菅官房長官や小泉進次郎衆議院議員だろうか。県知事選の主役は県民だ。翁長知事は、県民が心を一つにすることの大切さを説き、“辺野古新基地建設を認めない決意は県民とともにある”と命を削りながら最期の瞬間まで訴えてきた。県民の力を県知事選に注ごう」とのべ、さらに支持の輪を広げていくことを呼びかけた。

 

玉城陣営の「うまんちゅ大集会」

 決意表明に立った玉城デニー候補は、「沖縄の未来がかかった県知事選に対する使命感から出馬を決意した」とのべ、米国人の父を持ち、母子家庭で育った生い立ちをふり返りながら「容姿の違いからいじめられて泣いて帰る自分に、育ての母は“泣くことはない。10本の指は1本ずつすべて違うよ”と教えた。貧しかった沖縄では、助け合うことを“イーマール(ゆいまーる)”といって励まし合って生きてきた。沖縄という社会は、二つの国をルーツに持つ私を寛容性をもって、その可能性を見守ってくれた。この“ちむぐくる(沖縄の人が持つ思いやりや優しさ)”こそ、これからの沖縄の政治の原点でありたい。沖縄の未来のため、子どもたちのためなら、沖縄県民は思想信条を乗りこえて一つになり、大きな力を発揮できるということは、翁長知事が遺した未来への確かな遺言だ」とのべた。

 

 翁長知事が解決にとりくんだ「子どもの3人に1人が貧困」という深刻な格差の是正をめざすとともに「県民が豊かに生活するためには平和であることが大前提だ。その理念に相反する辺野古新基地は絶対につくらせない! 子どもたちを脅かす普天間基地の閉鎖撤去を求める! 戦争で奪われた沖縄県民に返すべきだ」「この選挙で、日本政府から、アメリカから沖縄をとり戻す! ウチナーンチュの手にとり戻す! 青空を子どもたちの手にとり戻す!」と宣言すると、会場は万雷の拍手が鳴り響いた。

 

 さらに「この知事選には県外からも多くの応援が寄せられている。それは沖縄県知事選の勝利が、自分たちの明日の勝利に繋がるということを信じているからだ。全国の県民のみなさんに明日の希望をもたらすのは、私たち沖縄県民だ。私たちでこの県知事選の勝利を全国のみなさんに届けよう! ともに勝利しよう!」と渾身の力で訴えた。

 

 大きな拍手や指笛で沸くなか、翁長知事の「グスーヨー、負ケテーナイビランドー(みなさん負けてはなりません)! 私たちの子や孫を守るため頑張ろう!」「ウヤファーフジ(先祖)の思い肝に据えて、ヌチカジリ、チバラナヤーサイ(命懸けで頑張ろう)! 一丸となって頑張りましょう!」とのウチナーグチ(沖縄語)による掛け声が鳴り響き、会場の熱気は最高潮に達した。涙しながら拳を挙げたり、拍手する参加者も多く見られ、勝利を誓う厳粛な空気に包まれた。

 

 鳴り止まぬ拍手のなか、故・翁長知事夫人の翁長樹子氏が登壇。「たくさんの人たちに支えられて頑張った翁長が急逝して1カ月半になる。この選挙を、私はウチナーンチュが出す答えを静かに見守ろうと思っていた。でも、日本政府がすることがあまりにもひどすぎる。人口の1%にしかならない沖縄県民に“オールジャパン”と称してすべての権力を行使し、愚弄するように民意を押しつぶそうとする。はじめは躊躇があったが、翁長が“君も一緒に頑張ってこい”といっている気がしてこの場に出てきた。県民の心に1㍉も寄り添おうとしない相手候補には悪いが、翁長が命懸けで守ろうとした140万人が暮らす沖縄を譲るわけにはいかない。デニーさんが翁長の心を継いでくれることに涙が止まらない」と目頭をぬぐいながら感謝をのべた。

 

 「残り1週間。簡単には勝てない。それでも簡単には負けない! 私たちウチナーンチュの心の中をすべてさらけ出してでも、マグマを噴き出してでも、必ず勝利を勝ちとりましょう! ヌチカジリ(命懸けで)頑張りましょうね!」と呼びかけた。涙と歓声が入り交じる熱気のなかで、参加者全員が手を繋ぎ、翁長雄治氏の音頭で「がんばろう」を唱和した。降りしきる雨が強まっても会場を後にする人はおらず、県民の主権を踏みにじる日米政府とたたかう決意が燃え上がる集会となった。

 

佐喜真陣営の応援に駆けつける東京組

 

 自民・公明・「維新」に希望の党が加わり、名実ともに政府の全面支援を受ける佐喜真陣営は、中央から続続と応援部隊が現地入りしている。全国から国政与党議員や県議など1000人以上が沖縄入りして企業や個人宅への水面下での戸別訪問を進めているといわれ、「引っ越したばかりの家に公明党の国会議員が訪ねてきて驚いた」「本土にいる創価学会員から知人や親戚の名簿を集め、議員たちがしらみつぶしに回っている」「中小企業にも官邸から直接電話がかかってきたり、国会議員を交えた宴会への動員依頼が絶えない」と各所で語られている。

 

 自民党では、現地に常駐する塩谷立選対委員長や竹下亘総務会長、2回目の遊説をして回った小泉進次郎筆頭副幹事長に加え、二階幹事長、岸田文雄政調会長、三原じゅん子などの閣僚経験者や党三役クラスが入り、各企業には期日前投票の「実績調査票」「報告書」などの提出が呼びかけられている。また「(自民党時代の)元沖縄担当大臣として」小池百合子東京都知事が駆けつけたほか、23日告示の宜野湾市長選の自民党側出陣式には、「容認ではない」といいながら厚木基地から岩国基地への空母艦載機部隊の受け入れを表明した岩国市の福田市長まで出席した。

 

 約3000人が参加した「維新」主催の総決起集会には、公務をキャンセルして菅官房長官(沖縄での滞在時間約2時間)が3度目の訪問をしたことも「国政選挙以上の力の入れようだ」「尋常ではない」との印象を与えた。菅官房長官は、那覇市内を走るモノレールについて「2両編成で一杯だと聞いた。すぐに政府に連絡し、今3両にするか、4両にするか検討している。こうしたことが日常、電話で話せる環境をつくるべきだ。経済発展のためにできることはすべてやる。必ず目に見える形で実現する」と大風呂敷を広げた。別の場では佐喜真氏とともに「携帯料金を(4割)削減させる」などの県政とは関係のない公約を訴えていることも、前回知事選や宜野湾市長選で公約に挙げたユニバーサルスタジオ(USJ)やディズニーリゾートの誘致と重ねながら県民の話題となっている。

 

佐喜真陣営の決起大会には菅官房長官や仲井真元知事などが登壇した

佐喜真陣営の決起大会(20日、那覇市)

 「維新」の集会では、辺野古埋め立てを容認した仲井真前知事がゲストで登壇し、下地幹雄幹事長が「四年前は(知事選に出馬して)反省しております。失礼もたくさんいいました。心を入れ替えて、仲井真知事に尽くすことを県民の前でお約束します!」と陳謝したり、佐喜真氏が菅官房長官に「いいなりではなく、いうべきことをいいます!」と宣言する一幕もあった。

 

 佐喜真氏は、若者から集めたアンケートで多かった「地位協定の改定」「携帯電話の料金削減」について「菅官房長官がやるといったので、沖縄からやってもらいましょう!」と呼びかけ、「全国最低の県民所得、全国最下位の最低賃金のアップを目指す。時給1000円まで上げる。非正規雇用から正規雇用を増やし、全国並みの所得300万円に向けて努力をしていく」と強調。また、プロ野球チームを設立し「沖縄をスポーツのメッカにする」ことなどを訴えた。

 

 応援演説に駆けつけた小泉進次郎筆頭副幹事長は、「県民の暮らしが最優先。佐喜真さんは空手を教えるためにフランスに8年間住んでいたので、知事になればフランスとの交流を深める。国際通りがパリのシャンゼリゼ通りのようになる。美ら海水族館がルーブル美術館とコラボレーションする。沖縄のフレンチというような新しい食文化が生まれる。2024年のパリ五輪でかつての佐喜真さんのフランスの教え子が出場することも夢とはいえない。こういうことに挑戦して、県民所得107万円の(全国との)差を埋めていく」などと県内3カ所で訴えて回った。

 

 これほど与党を挙げて前代未聞の全力投球をしながら、応援する最大の理由であるはずの辺野古新基地推進については一言も触れないこと、県民世論を意識して「普天間基地を一日も早く撤去する!」というものの、前回選挙で自民党が約束した「5年以内の運用停止(来年2月が期限)」にも触れず、具体的時期も提示していないことを疑問視する県民は多い。宜野湾市長時代には自身が普天間基地の大規模改修を認めていたこともあわせて物議を醸している。

 

 選挙戦は、沖縄県民の結集体であるオール沖縄と、米国の代理人として金力・権力でそれを押しつぶそうとする東京司令部との真っ向勝負であることが、ますます浮き彫りになっている。企業や組織ぐるみの力が働いていることを反映して期日前投票は前回選挙の3~4倍で推移している。1週間後の投開票に向けて一票一票の熾烈な争奪戦は熱を帯びている。

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