萩市の陸上自衛隊むつみ演習場にミサイル防衛システム、イージス・アショアを配備する計画をめぐり、20日に阿武町でおこなわれた町議会の最終本会議で、演習場にもっとも近い福賀地区の全16自治会と全農事組合法人の連名で11日に提出された「配備計画の撤回を求める請願書」について、町議会が全会一致で採択した。それを受けて花田憲彦町長が「阿武町として配備に反対する」と正式に表明した。傍聴席には、7月に配備反対の声を真っ先に上げた福賀地区宇生賀の農事組合法人・埋もれ木の郷の女性グループ「四つ葉サークル」の女性たち十数人や住民約20人が傍聴に訪れ、町議会の審議の行方を見守った。
請願は、6月1日にむつみ演習場が候補地となったことが正式に明らかになって以後、福賀地区で3回の説明会が開かれたものの、「地域振興や移住定住の足かせになるといった不安や心配のほか、隣接する牛舎での酪農による乳製品をはじめ、広大な農地で栽培される農作物等に対する風評被害も懸念されるなど、多くの住民からの不満と不安の声は深刻な状況だ」とのべ、「われわれは、この地を愛し、この地を次世代に繋ぐ義務がある。それは農地を耕し今日まで努力し続けて下さった先人に対する責任である。その継続を妨げる要因となる陸上配備型イージス・アショアの陸上自衛隊むつみ演習場への配備計画の撤回を強く望む」と訴えている。
審議では、請願の紹介議員の1人である福田地区の市原旭議員が趣旨説明をおこなった。これまで防衛省の説明のなかで、ブースターの落下や攻撃目標とされることに対する懸念、さらに演習場のすぐ側に牛舎や農地があることについても訴えたが、防衛省が曖昧な答弁をくり返すばかりだったことに不信感をのべた。そして「用地買収の必要のないむつみ演習場を候補地としたのではないかと思わざるをえない。海上で発射する前提でつくられたものを陸上に配備するので、相当シミュレーションがされていると思ったが、有事の際のシミュレーションはされておらず配備を急いでいる。地元から要望書を出し、町長や議長が防衛省に出向いても防衛省は立ち止まることがなく、拙速に進めようとしている。イージス・アショア配備計画に対し、議会として方向性を出すべきだ」と呼びかけた。
また中野祥太郎議員が請願に対する賛成討論に立ち、これまでの説明会でとくに福賀地区の町民の切実な思いが出され、農業に対する情熱や深い郷土愛が溢れていたとのべた。だが説明会のなかで防衛省には“国防機密”を楯にして住民に対する真摯な対応はうかがえず、不安や疑念が増幅するばかりだとのべ、「一番大事なのは尊い人の命、安心安全な生活環境だ。もしなんらかの事件や事故が起こればとり返しのつかないことになる。説明会で福賀地区の住民を中心とした多くの住民が反対を唱えられたことからすれば、イージス・アショア配備反対は阿武町の総意である。議会は町民の意見を反映することが最大の使命だ。請願に対して採択すべきだと思う」とのべた。その後、全員起立によって請願は採決された。
花田町長は、「阿武町民の信託を受けて、阿武町長に就任している私の大義は、町民の安心・安全の確保だ。そしてこれを脅かすものを排除するのは、町長である私の当然の責務であると確信している。イージス・アショアは、町民の安心・安全や平穏を著しく損なうことに繋がり、これまで、阿武町がすすめてきた地方創生の方向性である“自然や人を大事にしたまちづくり”“町民からもIターン等を目指す人たちからも選ばれるまちづくり”に逆行するものだ。町民の皆さんのイージス・アショアに来てほしくないという切実な思い、悲痛な叫び、苦しみに思いを致し、しっかりと受けとめることこそ、私の選択すべき道であると判断した」とのべ、阿武町として「イージス・アショアのむつみ演習場への配備について反対」の意志を明確に表明した。
傍聴に駆けつけた農事組合法人埋もれ木の郷の女性グループ「四つ葉サークル」の女性たちは、「小さな町ではあるが、これでようやく一つの家族になれたようで嬉しい」「危険なものを人家のあるところに配備してほしくない。美しい自然や美しい故郷を壊さないでほしい」「道の駅前で2回ほど署名活動をしたが、2回目の方がみなさんの関心が高まってきていると感じた。阿武町だけでなく山口県全体の問題だ」と口口に語り、配備撤回に向けた思いを改めて強くしていた。