自・公の過半数狙いならず
ひどかった争点隠しと誹謗中傷
辺野古新基地建設の行方をめぐる世論動向が注目された名護市議会議員選挙が9日に投開票を迎え、自民・公明党が抱える渡具知市政の与党系候補と、辺野古新基地建設反対で結束する野党系候補が13対13の同数となった。辺野古を抱える名護市の市議選は、先の市長選で加わった市民への圧力がそのまま継続され、その結果は知事選に影響する前哨戦とみなされてきた。注目された選挙結果は、勢力逆転を狙った与党の思惑に反してがっぷり四つの拮抗となり、国の丸抱えで市民を欺瞞しながら基地建設容認に進もうとする渡具知市政の暴走を食い止める名護市民の力を示すものとなった。
前回から1議席減の26議席をめぐっておこなわれた市議選には、定数より6人多い32人が立候補した。
稲嶺前市長とともに辺野古新基地建設反対の立場をとってきた野党陣営からは、現職11人と新人3人の14人が立候補し、選挙前と同じ14議席を確保して過半数を維持する構えで臨んだ。対する「辺野古移設賛成」の候補を含む与党陣営は、これまで13議席で少数与党だった勢力の逆転を狙って17人を擁立。名護市議選を「最重要選挙区」と位置づけていた自民党は現職8人と前職1人、新人6人の計15人を立て、公明党からは現職2人が立候補した。選挙戦では、自民党と公明党が組織をフル動員した2月の市長選の構図そのままに企業や組織固めを進め、辺野古新基地建設や米軍問題には触れず「各種サービスの無償化」「子育て支援の継続を」などを連呼した。各候補者の政策チラシはすべて「とぐち市長とともに輝く名護市へ!」とし、政策内容は市長選で渡具知陣営が使ったもので統一していた。
名護市では2月に渡具知市政が誕生した直後、安倍政府は、稲嶺市政時代にはうち切っていた米軍再編交付金(2017年度分とあわせて30億円)の再交付を決め、渡具知市長は交付金を財源にした学校給食や保育料の無償化を提案した。だが交付金は、米軍再編の「円滑かつ確実な実施に資すると認める」ことが前提になっており、辺野古新基地に対する国の方針に従わなかった場合は再びうち切られる可能性がある。
野党会派は、市民生活を「人質」にして辺野古基地建設容認を既成事実化することに反対し、「無償化には反対ではないが、その財源は交付金ではなく一般財源を使うべき」と反論。6月議会で続いた攻防では、採決時に野党議員が退席した間に、市長が再議を図り、与党会派12人だけで可決した経緯がある。
そのため渡具知市長が率いる与党陣営は、「無償化に反対した議員たち14名」「陰湿な反対活動、市民の生活そっちのけ」などとする野党議員を批判する「議員リスト」入りのチラシを大量に配布し、「児童医療や保育料の無償化も、野党議員が過半数を維持すれば否決される。与党が過半数をとらなければならない!」との論陣を展開した。
特定の野党現職候補をターゲットにして、野党議員が街頭演説をした後にそれをうち消す演説をして回ったり、「いくら反対しても辺野古基地はできる」「市民生活を向上させることに反対した議員だ」とのネガティブキャンペーンを徹底した。
辺野古新基地建設については、公明党の現職2人は「辺野古移設には反対」と欺瞞し、その他多くの与党候補は「どちらともいえない」とカモフラージュしたのが特徴だった。辺野古問題を棚上げして、「無償化に賛成か反対か」を争点にすることで票を呼び込むという、市長選と同じ構図を狙った。
だが開票の結果、野党陣営は現職1人を落としたものの3人の新人を含む13議席を確保し、与党陣営は現状維持の13議席にとどまった。自民党が擁立した7人の新人・前職のうち4人が落選する結果となり、市政与党として有利とみられた選挙戦で事実上の敗北となった。市民からは「市議選は血縁や仕事、地域などのしがらみに縛られる要素が強く、政治的な問題はなかなか争点になりにくいが、渡具知市政のやり方を見ていると国に操られるのではないかとの不安があった」「市長選に続いて市議選でも容認派が勝てば辺野古にブレーキをかけられない」と語られており、市長与党側の思惑に反して市民の間では辺野古基地問題が大きな焦点になったことを物語った。
国の操り市政を拒否 北部で自民新人落とす
市民の間では、始動から7カ月たった渡具知市政について、再編交付金による各種サービスの無償化を目玉にする一方、「市長が選挙後すぐに選挙支援のお礼のために首相官邸に挨拶に行って、予算や人員の派遣を要請した。その後、総務省から32歳の官僚が地域政策部長として招かれ、基地問題の質問にはほとんどその部長が答弁している。市長はまるで人形のように座っている」「就任翌日には3月の年度替わりを待たずに人事異動に着手し、稲嶺市政時代に重要ポストにいた職員を左遷したり、降級させるなど露骨な報復人事をやっていて胸が痛んだ」「独立して設置されていた基地対策課が防災課に集約され、今年7月に名護市数久田で起きた米軍流れ弾事件について市に問い合わせても、報道されている事実すら知らなかった。基地問題を市政の管轄から外して、誰が市民の安全を守るのか」など、その変容ぶりに危惧が語られている。
名護市内で自営業を営む婦人は「あの市長選から名護市役所は国に操られているような気味悪さがあったが、市議選ではなんとか食い止めることができた。国からの交付金でアメをバラまき、重要ポストも国の役人が握ってまるで主体性がない。市長選では東京から人も金もつぎ込み、“稲嶺市政vs国”の構図がはっきりしていた。はじめて恐怖を感じる選挙だった。創価学会員が何時間も家に上がり込んで選挙の話をしたり、運動員に10万円ずつ配って高校生同士で食事を振る舞ってそのまま車でピストンして期日前投票へ連れて行ったりしたと聞いている。今回も同じような締め付けがあったと思うが、自民党が勝てなかったのは市民が警戒したからだ。渡具知市長は頭を抱えているだろうが、いつまで市民を騙せると思っているのだろうか。翁長知事は亡くなったが、沖縄のたたかいはまだこれからだ。最後の砦だと思って絶対に負けられないという気持ちでとりくまなければならない」と気持ちを引き締めていた。
別の商店主は、「自民党は“絶対に14議席とらないといけない”といっていたが、思い通りにはいかなかった。翁長知事が亡くなったときは涙をこらえられなかった。命をかけて沖縄のために頑張っていたことは沖縄の人間なら分かるはずだ。それが市議選にもあらわれたと思う。辺野古基地移設には反対でも商売をしていたら色は出せない。でも“基地を容認して豊かになる”というのは大嘘だと感じる。辺野古埋め立てのための補償金をもらった漁業者でも、その金も底をついたといわれ、数千万円の補償金の分配をめぐって親戚や家族でもめた家もあった。基地のおこぼれを頼りにして食べていくような時代は終わりにしないといけない」「知事選に向けて自民党の婦人たちは知人や親戚への声かけなどを始めている。前回の名護市長選のときと同様、自民党も公明党も金もつぎ込んだ選挙になることは間違いないが絶対に負けるわけにはいかない」と語気を強めた。
別の市民は「保育料や給食費の負担は親世代にとっては大きく、無償化が喜ばれるのは当然だ。でも、交付金は政府の判断でいつでも止められるし、恒久的な財源ではない。議会でそのことを問われた渡具知市長は“私が市政を託されているのは4年間だけ”と応えていて唖然とした。交付の期限がくるたびにお金と引き換えに基地負担の苦汁を飲まされるのは目に見えている。2月の市長選以来、沖縄県内の選挙は、沖縄の政治力をこえて中央政府が直接乗り込んでお金を注ぎ込み、地方行政を丸ごと買収する構図になっている。各地の首長選もみんな国が直接乗り込んで、地域住民の声をかき消してきた。知事選も同じような構図になるだろうが、翁長知事の遺志を継いで県民一人一人が判断しないといけない」と話した。
辺野古に隣接する名護市北部の羽地地区では、自民党が擁立した新人候補が「オスプレイ配備賛成」「辺野古移設賛成」と公然と唱え、「容認ではない」という立場の渡具知市長も応援に駆けつけて演説したため、「渡具知市長の化けの皮が剥がれた」「辺野古基地を推進するようなものに市政は任せられない」との世論が強まり、与党新人は叩き落とされた。
選挙にかかわった男性は「市長が応援している候補が辺野古基地推進を唱えたため、辺野古問題が一気に争点化した。青年たちが立ち上がって“絶対に基地をつくらせない!”と呼びかけて地域の結束が強まり、反響が大きかった。市長選と同様に辺野古問題を隠して選挙をやり、選挙に勝ったとたんに国は“名護市民は辺野古移設を容認した”というのがわかっていたからだ。知事選では、基地反対派が訴える内容や戦略で一致できるかが焦点になる。市長選のように政党色を前面に出したり、本土からくる勝手連を野放しにして市民のクレームを煽ったりするのではなく、現場の実情を反映した指揮系統で統率し、地元の人間が足で回って地域固めをしっかりとすることが要だ」と指摘した。
野党系議員も「自民党に丸抱えされた市長に代わり、議会での攻防は以前よりも難しい状況にある。だが、反省点はたくさんあるものの、議会で半数を確保したことによって活路を繋ぐことができた。渡具知市政が、市民を騙しながら辺野古推進に暴走することを食い止めるのが私たちの役目だ。ただし、オール沖縄でたたかうとき、新基地建設阻止の一点で保守も革新も自分の立場を捨てて結束することが必要だし、市民の支持が得られる選挙戦をたたかうためのまとめ役、調整役を確立することが必須だと思う。相手は、争点隠しや組織や圧力で揺さぶってくるだろうが、それを跳ね返す県民の意思統一を各地でやらないといけない」と知事選に向けた課題を語っていた。