アベノミクスと呼ばれる異次元の金融緩和や借金財政による公共投資、さらに規制緩和を軸にした成長戦略が打ち出されてから1年以上が経過した。世界有数の借金大国(GDPの2・3倍に及ぶ国家債務)がさらに借り入れを増大させて大盤振舞をはじめ、ゼネコンや多国籍企業化した大企業、海外ヘッジファンドなどを優遇するために諸諸の政策を打ち出している。ところが一方では消費税増税をはじめとした国民負担が増大し、円安政策によって物価は高騰するなど、踏んだり蹴ったりの状況があらわれている。世界恐慌前夜という緊張した世界情勢のなかで、安倍晋三のような男が飛び出して暴走劇をくり広げてきたが、アベノミクスというのがむきつけの大企業天国をつくりだし、徹底した搾取構造を強める狙いが鮮明になっている。この政治がどこに行き着くのか、日本社会の進路とかかわって重大な関心を呼んでいる。
国民生活襲う増税や物価高
日銀が前代未聞の金融緩和を実施してきた結果、この1年は円安による物価上昇が続いてきた。増税が実施されるよりも前に、日常生活にかかわる様様なものが値上がりしてきた。
総務省が2月末に発表した全国消費者物価指数(2010年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合が前年同月に比べて1・3%上昇した。4月の消費税率引き上げを控えた駆け込み需要のほか、円安による液化天然ガス(LNG)などの輸入価格の上昇も原因で、物価を見るうえで重要な基調となる「食料・エネルギーを除く総合指数」は0・7%の上昇だった。
食品(生鮮食品を除く)は前年同月より1・0%上昇。なかでも原料高や円安によりマヨネーズが16・2%、ジャムが5・1%上がったほか、肉類が3・8%、牛乳が3・0%、卵が9・3%上がった。輸入に依存するエネルギー分野も円安によって価格はうなぎ登りで、電気代は8・5%上昇し、ガソリンも6・5%上がっている。灯油缶は1缶1800円台にもなり、もうじき1900円台に突入しようとしている。
消費増税前の駆け込み購入を期待して、家電製品も値上がりラッシュである。冷蔵庫は2・5%上がって1993年4月以来20年9カ月ぶりに上昇したほか、エアコンは19・8%、テレビも3・7%上がり、いずれも前月より上昇幅が拡大した。パソコンも12%近く価格が上昇している。8%を上回る値上げ幅を見せている品目も多く、慌てて駆け込み購入するよりも増税後の谷間に購入した方が安いという、おかしな現象も起きている。
さらに4月からの増税とかかわって値上がりするものも多岐にわたっている。銀行のATM手数料は105円から108円となり、はがきは1通50円から52円、手紙なら(25㌘以下の定型郵便物)80円だったのが82円に値上げ。公衆電話は10円の市内通話が1分から57・5秒に短縮される。タクシーの初乗料金は550円から570円に。タバコ「メビウス」は、410円から430円。自動販売機の飲料水は消費税8%なら8円のはずなのに、120円だったのが130円になり、消費税対応だけで30%分もとっていく盗人猛猛しさである。
さらに、自動車保険料の値上げも検討されはじめ、損保ジャパンなど大手2社は夏以降に平均で1~2%程度引き上げるとみられている。保険会社が負担する修理代が増税にともなって上がることを理由にしている。パナソニックやソニー、三菱電機、シャープなど家電大手は、家庭用エアコンやテレビの引き取りにかかるリサイクル料金を引き上げることを決めた。NHK受信料は、地上契約の1カ月の受信料が1275円から1310円、衛星契約は2220円から2280円になる。
医療分野でも値上げが実施される。初診料は120円、再診料は30円値上げとなり、窓口負担(3割の場合)は、初診料は846円だったのが882円になる。再診料は216円だったのが225円。現役世代の40~64歳が払う介護保険料は、制度開始から2・5倍近くに跳ね上がり、2014年度は1人当り月5273円になる見通しとなった。サラリーマンがもっとも多く入る協会けんぽの平均で約600円上がって5803円になると見られている。
後期高齢者医療保険は2年ごとの保険料改定の年を迎えており、各都道府県で保険料の大幅な値上げが打ち出されている。山口県後期高齢者医療広域連合も保険料改定を決め、1人当りの年間保険料は4月から平均4・37%上がって6万9408円になる。所得にかかわりなく被保険者が定額で負担する「均等割額」が2957円上がって5万431円になり、「所得割」が0・72高い10・17%となる。
国民年金基金は、4月以降に新規に加入する人の保険料を平均で七%程度引き上げることになっている。国民年金基金は全国に47の地域型国年基金があるほか、医師やクリーニング業などの職種ごとにつくる25の職能型国年基金がある。40歳男性の場合の1口目の保険料は月額1万2270円だが、新規に加入する人の保険料は1万3129円という計算になる。
税金関係では市県民税に平成26年度から復興税が加わり、均等割で1人1000円増(10年間)となった。「法人税額の10%を3年間上乗せする」という復興法人税については安倍政府が前倒しで廃止を決めたが、国民一人一人が払う所得税は2・1%を25年間にわたって上乗せし、住民税についても均等割1000円を10年間上乗せする国民負担は変えず、長期にわたって増税体制を敷くことになっている。その復興需要はゼネコンが口を開けて待っている。
減税で利潤肥す大企業
国民大収奪がますます強められる一方で、優遇されているのが大企業や金融資本、日本国内に足場を置いて暗躍する海外ヘッジファンドなどの勢力だ。14年度政府予算は13年度補正も含めると104・3兆円にものぼり、空前の規模まで膨れ上がった。そのうち税収を見てみると所得税が14・8兆円と最大で、消費税収入は3%増税分の4・7兆円も含めて15・3兆円。法人税は増収を見込んで10兆円とされているものの、あくまで見込み額であり、そこから設備投資減税(約6000億円)や研究開発費減税などによって1兆円以上を優遇税制で補填される関係だ。
法人税率は1987年の43・3%から99年に30%となり、2011年には25・5%に引き下げられてきた。安倍政府のもとで、それをさらに引き下げるといっている。かつては法人税が所得税と並んで税収の大部分を占めていたが、税収の稼ぎ頭に消費税が踊り出るのとセットで、企業側は減税の恩恵をむさぼり、負担を免れる関係となっている。消費税は導入されてから昨年までの24年間で約250兆円近くが国民の懐から巻き上げられてきた。その間の法人税はおよそ230兆円が免除され、国民負担にみなすり替えてきたシカケが暴露されている。
こうして、大企業の内部留保は2012年段階で272兆円にまで膨張してきた。「企業が儲かったら従業員給料も上がる」のではなく、儲かったらその分を溜め込み、儲からなかったら、労働者や地域の協力で大儲けをしてきたことなど知ったことではないという調子で社会的な責任などまったくなく、次次に工場を閉鎖して海外に移転する。企業が利潤追求する最大の基盤が搾取であり、いかに低賃金で労働者を働かせるかが基本であることは、この間くり返されてきた海外移転を見ても歴然としている。
儲かった利益を従業員に分配するほどお人好しなら、これほどの内部留保は積み上がるわけがなく、先進国のなかで最低の労働分配率などにはならない。「ベアお願いしますよっ!」といって賃金を上げるような連中ではなく、安倍晋三の振舞がいかに子ども騙しでバカげているかを示している。従業員、労働者を搾り上げるからこそ利潤が積み上がり、内部留保が年年蓄積される関係にほかならない。輸出企業になるとこの1年は販売不振にもかかわらず、円安効果によって膨大な利益を得てきた。また、「輸出戻り税」などの裏技も細細あり、消費税が上がれば上がるほど国から還付金が入り、利益を高める関係にもなっている。
税金負担は国民にさせて、「公共投資」「金融緩和」「成長戦略」によってもっぱら国家財政を食い物にしているのが大企業なり金融資本で、不景気であればあるほど公的資金に群がるという、きわめて寄生的な存在となっている。そのための構造改革が「アベノミクス」のもとで大急ぎでやられている。
首切りの自由も法制化
安倍政府になって、竹中平蔵をはじめとした新自由主義政治の申し子たちがゾンビのように復活し、産業競争力会議や規制改革会議が各種の構造改革を牽引し始めている。とくに力を入れているのが労働分野で、正社員の限定正社員化、正社員の残業代削減、解雇自由化、派遣労働の大幅な規制緩和を実行しようとしている。派遣業務は現在は専門26業務と一般業務としているのを廃止することや、加えて「原則1年、最長3年」という期間も撤廃して無期限化するとしている。
さらに最近では、従業員を転職させる企業に国が補助金を支給する「労働移動支援助成金」を3月から大幅に拡充すると発表して物議を醸している。企業が首を切りたい労働者がいた場合、再就職支援会社に払う費用を転職者一人につき最大60万円を国が補助し、リストラを促すというものだ。現状の制度では最大40万円の助成金が転職成功時のみ支給されているが、成功しなくても再就職支援会社に転職探しを依頼するだけで10万円出るという内容。「失業なき労働移動」「キャリアアップを支援する」といって正社員を極限まで絞り込み、雇用調整しやすい派遣労働者を増やして奴隷労働を法制化するものとなっている。
消費税が5%から8%に上がるからといって労働者の給料が3%上昇するわけではない。むしろアベノミクスのもとで現金給与総額は前年よりも減少してきた。正社員から派遣・パートなどの非正規雇用に切り替わる流れが加速し、全体として賃金収入が低下してきたからだ。小泉・竹中構造改革によって非正規雇用が増大し、いまや労働人口に占める非正規雇用の割合は過去最高の38・2%にまで高まっている。これをさらに拡大し強烈な搾取構造をつくりだすこと、後進国なみの賃金体制にすることを意図している。
製造業を見ても国内に設備投資はせず海外移転をくり返し、いまやどこの国の企業なのかわからない。株主も外国人、社員まで外国人である。国内を徹底的に搾り上げたおかげで貧困層が拡大し、ものは売れず景気は後退するばかり。みなをさんざんに貧乏にしたあげく、狭隘化した市場に見切りをつけて海外市場を追い求め、同時に安い労働力を求めて海外に製造拠点まで移し、果てしもない利潤獲得競争にうつつを抜かしている。既に「日本の大企業」というより多国籍企業化しており、税金負担など都合の良い部分や、人材育成だけを日本社会に依存する関係となっている。利益を上げたら、株主や経営者が法外な収入として懐に入れ、「勝ち組」を気取る。
海外権益の為軍事増強
そうして乗り出した海外の工場、設備、利権や企業資産を守り、現地労働者や住民の反発を鎮圧する最大の手段が軍事力で、米軍の「核の傘」にほかならない。自衛隊が「積極的平和主義」によって地球の裏側まで飛んでいき、米国と日本の財界の鉄砲玉になって海外権益を守るために集団的自衛権なり憲法改正が俎上にのぼり始めた。日揮社員が殺されたアルジェリアのような地域で、大企業のために自衛隊員が命を捧げなければならないというものだ。安倍晋三が単純な戦争狂いというだけでなく、資本主義世界が行き詰まっている下で大企業なり金融資本というのが凶暴に海外権益を求め、軍事衝突すら辞さない激しい市場争奪をくり広げていることを最大の根拠にしている。
社会の生産を担い、富をつくり出しているのはいつの時代も労働者以外にはいない。その労働に寄生して太ってきた大企業の株主や重役ばかりが莫大な報酬を得て、いまや日本社会を食い物にしながら海外での権益獲得に明け暮れている。なににつけても資本原理で、労働者家庭の生活も未来も破壊し、生命の再生産すらできない極限の貧困状態をもたらした。強欲に搾取し過ぎたおかげで資本自身が富の源泉を失って世界をさ迷い、その権益を守るための戦争に国民を駆り出すところまできた。
「アベノミクス」によって異次元の搾取構造をつくらなければならないほど、資本の側が行き詰まり、その反社会的で凶暴な本性を露わにしている。日本社会全体を安定して運営していく余裕などなく、寄生して食い物にするしか能が無い連中であることを浮き彫りにしている。対峙して、戦争に反対し、社会のために団結する強力な労働運動の力を下から束ねていくことが現実的な課題になっている。