いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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記者座談会 「戦後レジーム脱却」の欺瞞 首相訪米をどう見るか

 安倍首相が訪米して日米首脳会談が開かれ、TPP(環太平洋経済連携協定)推進や集団的自衛権の行使などアメリカが突きつけてきた要求をみな丸呑みして約束を交わし、晩餐会でもてなされたり米上下両院合同会議で演説する機会を与えられたりと、異例の大歓迎を受けて帰ってきた。今回の首相訪米をどう見るか、記者座談会をもって論議した。
 
 異例の大歓迎をしたアメリカ

 A まず訪米で何をやったのかだ。異例の大歓迎を受けて帰ってきた。米上下両院合同会議で演説したのは日本の総理大臣としてはじめて。晩餐会も異例の扱いだった。昨年のオバマ訪日やこれまでの首脳会談の際には、オバマからたいして相手にされていないといわれ、会談をなかなかもってもらえないとか、握手も共同声明の発表もせずに終わったとかが取り沙汰され、「オバマに嫌われている」といって革新勢力が喜んでいた。それがどうして歓迎されたのかだ。
  今回の訪米で約束してきたのはTPPと集団的自衛権行使の二点が大きい。安保法制の具体的な内容については、直前の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)でほぼ固めていた。事前に詰めたうえで、その追認で安倍がアメリカに渡った。議会演説や首脳会談などでアメリカが大喜びでもてなしたのは、その「成果」があったからだ。
 C 2プラス2では日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定に合意した。昨年に安倍政府が集団的自衛権の行使容認を閣議決定したのを受けたもので、米軍の指揮下で自衛隊を戦地に駆り出すことを最大の眼目にしている。「周辺事態」などの文言をとり除いて、日本が直接攻撃を受けていなくても米軍と共同作戦に乗り出すことや、その活動範囲は極東にとどまらず地球規模に広げるというものだ。中東海域における機雷掃海や米軍を狙った弾道ミサイルの迎撃、米艦の保護、不審船の臨検、弾薬の提供、戦闘機への給油なども具体的に想定されている。米軍だけでなく、直接日本の安全とは関係のない事案であっても、多国籍軍への後方支援を可能にするとしている。
 2プラス2では他に、日米双方が米軍普天間基地について「辺野古への移設が唯一の解決策」と確認した。
  その後もオバマがツイッターで「歴史的会談だった」などとべた褒めで、もてなされた安倍がはしゃいでいるだけでなく、アメリカ側も嬉嬉としている。ついに地球の裏側まで日本を動員できるところへきたし、衰退著しいアメリカにとってこれほどの救いの手はないといわんばかりのものだ。ただ、日米合意といっても勝手に合意しただけで、国内法は今から変えていく段階だ。
 A この約束でいったならば、例えば機雷掃海にしても、陸上部隊が戦闘行動に参加するとなった場合においても、一発撃ち込んだら引けなくなる。向こうも当然撃ち返してくる。撃ち返されたらまたこちらも撃つ。そして泥沼の戦争にのめり込んでいく。年寄りが「気付いたときには戦争だった…」というが、今は気付く少し前のような感じだ。ホルムズ海峡でも、イランからすると防衛のためにせっかく機雷を設置しているのに、とり払われれば敵対行動だと向こうは見る。そうなると武力衝突になる。いわんや人質救出などといって戦闘を仕掛けた日には抜き差しならない緊張関係になる。というより、人質奪還などできるはずがない。「イスラム国」対応ですったもんだしたが、あんな砂漠のなかでどこに何があるかもわからないのに、自衛隊がのこのこ出かけて救出などできるわけがない。アメリカすらできないのが実態だ。
 C アメリカの身代わりの戦争をやる。だからアメリカが大喜びしている。今から肉弾になるのだから、晩餐会でも議会演説でも安い話だ。本音では「このバカが」と思って見ている。ところが得意になってへたくそな英語スピーチをやるのが安倍晋三で、米議会もスタンディングオベーションして調子付かせた。完全にバカにされている。

 自衛隊戦地へ駆出す 米軍の身代りで肉弾に

  何が「邦人の生命・安全を守る」かだ。その気はまるでない。この欺瞞を徹底的に暴露しないといけない。「イスラム国」の人質事件でも、政府は2人を守るための行動は何もしなかった。情報は早くから上がっているのに、人質当事者の妻に丸投げして知らん顔を貫いた。知らん顔どころか中東に行って安倍が「反テロ戦争を支援する」などと発言したものだから、「イスラム国」を刺激して殺害された。邦人の生命を守る気などさらさらない。人質だけでなく、あの近辺に邦人がうかつに出かけていたら狙われるし、殺されかねない。もっと発展していけば日本が標的になってテロすら起きかねない。あのようなことを平然とやっていく。何が「邦人の生命を守る意志がある」かだ。原発でも同じだ。国内政治もすべてそうなっている。いったい誰を守ろうとしているのかだ。
 E 集団的自衛権の行使はアメリカの要求で、自衛隊と米軍との一体化はアーミテージ・レポート(対日政策要求)などでくり返し突きつけられてきた。アメリカの肉弾になることと同時に、日本の大企業、独占資本集団の権益を守るために武力動員をはかっている。
  首相や閣僚が勝手に海外に出向いて勝手に約束してくる。日本が法治国家でないことを暴露した。国会論議もせずに「夏までに必ず実現する」などと約束して帰ってくる。しかも憲法に関わる内容だ。主権在民ではない。日本の主権をアメリカと独占資本集団が握っている。そして国民の生命財産などどうでもよいという姿勢を暴露している。
 D 軍事面だけでなくTPPも事前に閣僚会合で協議している。アメリカはコメを21・5万㌧無関税で輸入せよと要求してきた。それに応えたのが日本政府だった。中国のAIIBと対抗するルールづくりをやるのだと公言している。アメリカの議会に対して、TPA(大統領の貿易促進権限)の可決を急げと安倍の側から促している。アメリカの利益を代弁している。「コメなどの重要品目については一切関税を撤廃しない」といっていたが、国会決議すら反古にして約束してきた。安保法制もだが、国会とか国民合意などどうでもよく、ひたすらアメリカに隷属していく関係を示している。
  安倍晋三は「戦後レジームからの脱却」を標榜してきたが、これも欺瞞だ。やっていることは戦前回帰などではなく日米同盟の深化。戦後レジームの中心は対米従属であって、これのどこから脱却しているのか。よりひどい隷属関係を作ろうとしている。「脱却」するのは、戦争に参加しないと定めた戦後の国是で、今度は直接武力参戦する方向に進もうとしている。この連中が「自主憲法」というのもインチキ極まりない。憲法はアメリカ占領軍に押しつけられたが、それで「自主憲法」を標榜しながら、今度もアメリカの要求で変えようとしている。国会すら通さずにやろうとする。このどこが自主憲法なのかだ。
  訪米では、先の大戦について「痛切な反省」を口にした。あれはアメリカに対して反省を表明しただけだった。対米戦争については深く反省する。しかし中国やアジアに対する反省は口にしないからアジア各国が怒っている。「侵略はしますよ」という話だ。第2次大戦で日本人民はアメリカにひどい目にあった。本来なら原爆投下にせよ沖縄戦の殺戮にせよ、残忍な全国空襲にせよアメリカに謝罪させないといけない。そして、みずからが侵略したことは反省しないといけない。それが人民の当たり前の感覚だ。ところが転倒して、アジアには開き直ってアメリカには反省する。歴史評価が転倒している。
 アメリカは戦後、日本を支配していく上で、日本軍がいかに残虐でアメリカがやったことは正義だったかを強調してきたが、安倍が演説で出した具体例が真珠湾、バターンなど対米戦争ばかりで、その一連をあげつらって「すみませんでした」とやった。一方で、アジアに対する侵略戦争についてはのべなかった。
  第2次大戦では日本帝国主義の中国やアジアへの侵略に対して抗日戦争、民族解放戦争があった。さらに新興の日本帝国主義と米英仏蘭との帝国主義争奪がある。これは性質が異なる。あと、社会主義ソ連との戦争もあった。アメリカとの戦争はいけなかったが、アジアへの侵略は反省してたまるかというものだ。今から地球の裏側まで出動するというのだから、軍隊を派遣したら立派な侵略だ。それはやりますよという話だ。
  世界的に見たときに、日米同盟が孤立している。AIIB(アジアインフラ投資銀行)の顛末がまさにそうだった。首脳会談後の記者会見ではオバマが安倍晋三そっちのけでボルティモアの黒人暴動について演説していたが、アメリカは内政もガタガタで世界覇権どころではない。だからこその集団的自衛権行使だ。日本人を鉄砲玉にしてアメリカの利害を守るのが死活問題になっている。
 A 韓国や中国でも戦後、アメリカを友と見なす流れが濃厚にあった。特に韓国はアメリカが日本の侵略から解放してくれたというのが基調にあって、正面の敵であるアメリカに向かわない特徴があった。中国もその気がある。はじめは、断固としてアメリカ帝国主義と対峙していたが、すぐに取り込まれた。とくに修正主義に犯されてからはアメリカとの同盟に走り、70年代の裏切りで反ソ親米に流れた。以後、アメリカとは争奪関係にありながらも真っ向対立はしたがらない。だからベトナム革命になると支援しなかったし、鄧小平は「恩を仇で返す」といってベトナムを侵略した。結局、対米従属容認、「安保」容認となり、70年代に入ったら「安保」を認め、自衛隊を認めろと日本の革新勢力にも要求してきた。

 国内は民主主義破壊 国民動員する力はなく

  アメリカと海外派兵や武力参戦を約束することは国内の民主主義破壊とつながっている。日本の国会なり国民の承認を得ずに勝手に約束してきたことがよくあらわしている。そのようにして国内における民主主義を蹂躙していく。アメリカに従っているあらわれだ。民主主義の破壊はいまや蔓延しているが、戦争準備とセットで動いている。聞く耳なしの政治で支持率17%の安倍政府が突っ走る。東日本大震災以後の原発再稼働やTPPなどすべてがそうだ。沖縄の辺野古移転についても一切聞く耳を持たずにアメリカの意向を貫いていく。今度の安保法制化も「必ず夏までにやりきる」と約束した。アメリカが要求しているのだからやっていくのが当たり前くらいの感覚で、誰が見てもアメリカの代理人だ。傀儡政府としての姿がくっきりと浮き彫りになっている。
 B 民主主義破壊の戦争政治が進むのと同時に、TPPによる国内略奪、金融面での略奪が段階を画そうとしている。経済の徹底的な破壊、労働者の徹底した搾取など一連セットにしてやっていこうとしている。「私がドリルになって岩盤規制を破壊していくのだ」と何度も欧米に行っては宣言してくる。自民党は「TPP断固反対」を叫んで総選挙をやった。「ブレない自民党」といっていたがブレまくっている。
  安倍政治の特徴として、嘘とか欺瞞とかが息を吐くように平然と口から出てくる。「福島は完全にコントロールされている」が代表的だが、明らかに嘘だとわかる嘘を口にする。いったことと反対のことを行動でやる。相手がどう思うかなど考えないで突っ走る。アメリカがどう見なすかは随分注意深く見ているが、その他の国国がどう思うだろうかという感覚がない。集団的自衛権については夏までに法制化するというから、今からが攻防戦になる。野党勢力はあてにならない。やはり大衆的世論を喚起していかなければならない。
  しかし、いくらアメリカと約束したところで大衆の同意を得ないことには戦争しようにもやりようがない。戦争するとなると、しっかりとした協力体制をつくらなければできるものではない。独裁はいいが、自分だけが独裁者気分でみなはいうことを聞かない、というのでは話にならない。ヒットラーでも国民を動員した。戦前の天皇制軍国主義でもそうだ。いったい安倍晋三の後に誰がついていくのかだ。大衆を同意させることに無力なら先はない。
  自衛隊も実際に戦地に放り込まれるとなると、どうして自分は死ななければならないのか突き詰めて考えると思う。石破なんかが自衛隊内に軍法会議を設置するとかいって懲罰で囲い込もうとしているが、思想動員はできない。戦闘意欲とも関わる大義名分が何もないからだ。イラクとかシリアに命をかけて行ってこいといわれたら、どうして? と考えるのが普通だ。
  原発についてもアメリカが要求しているから再稼働をやろうとしている。福島事故が起きながら、無謀な道に突っ込んでいく。54基も日本列島につくらせてきたが、そもそもがウラン燃料のはけ口として日本を利用したいアメリカの要求だった。それに中曽根が乗って進めていった。最近では箱根も噴火するかどうかで大騒ぎをしている。西表の海底火山の噴火もすごいことになっている。御嶽山も噴火して、北海道知床では15㍍も海岸が隆起したり、鹿児島でも霧島や桜島が噴火をくり返している。エベレスト周辺でもプレートが動いて地震が起き、チリでも大噴火が起きている。地球が動いている。そんな最中に再稼働するのだから自殺行為だ。邦人の生命など何も考えていないことを暴露している。
 A アメリカのためには国民の生命や安全など民族的利益をみな投げ捨てていく。この欺瞞を引っぺがして斗争を挑んでいくことが重要だ。

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