いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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米国覇権体制の終焉を反映 激動する朝鮮半島情勢の背景

置き去りにされる対米従属国家

 

訪朝したポンペイオと握手する金正恩(9日)

 トランプと金正恩による初の米朝首脳会談が6月12日にシンガポールでおこなわれることが決まった。そこに中国の習近平が同席する可能性も報じられている。まだまだ流動的とはいえ、朝鮮戦争を終結させ、65年間続いた軍事対立を解き、会談後に国交正常化と経済協力へと進むシナリオが着着と具体化されている。東アジアにおいて新たな安全保障体制の枠組みを構築することとかかわって情勢がダイナミックに変化を遂げているなかで、日本政府や商業メディアはもっぱら国内向けには「非核化」と「拉致問題」に問題を矮小化し、国際舞台においては関係各国から置き去りにされている感が否めない。戦後史を画する情勢の変化は、この地域を覆ってきた一つの時代の終わりとはじまりを意味しており、それをどのように捉え、対応するのかは日本の将来をも左右する重要な問題だ。一連の動きを記者座談会で分析した。

 

  今月9日、日本で日中韓首脳会談がおこなわれたが、合意文には、安倍政府が要求したCVID(不可逆的な非核化検証)も拉致問題の解決も盛り込まれなかった。これまで北朝鮮の対話姿勢を「日本のリーダーシップによる圧力の結果だ」と豪語してきた安倍首相だが、韓国とも、中国との関係においても発言権がほとんどない姿を露呈した。すでに北朝鮮と直接対話をしている両国に対し、日本政府は「圧力の継続」というだけで何一つ実を結ぶ行動をやっていない。逆に両国に情報提供をお願いする有様だ。安倍首相は「北朝鮮が正しい道を歩むのであれば、日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す」とのべたが、日本抜きで進む南北や米朝和解を追認するしかない。すべてが頭越しで動いているというのが実際だろう。

 

  北朝鮮が「圧力に屈した」のであれば、日米が求めるCVIDに応じざるをえないだろうが、交渉の推移を見るとそうなっていない。CVIDは、アメリカ中心の国連査察団が北朝鮮の武器庫を丸裸にするまで検証して核開発の芽を摘みとるもので、イラクやリビアはそれに応じたあげく「大量破壊兵器」など見つからなかった。にもかかわらず米軍の侵攻を受けてフセインや、カダフィは米軍に惨殺され、体制は転覆された。その二の舞にならないために北朝鮮は自衛措置として核開発を急いだのであって、一方的な力関係では動いていない。ミサイル開発も完了したもとで事態は変化している。トランプも中国も韓国も「完全な非核化を目指す」という結果だけで、北朝鮮が求める「体制保証」を認めている。米国だけが核を振りかざして服従を強いるという構図はすでに終わっており、「非核化」のためには双方が譲歩せざるを得ない。中国、韓国、ロシアを含めた周辺国の対応にそれがあらわれている。

 

 さらに日本政府やメディアが「最重要課題」とする拉致問題を人権問題として南北和解の条件に挙げるためには、それ以上の人間を朝鮮半島から拉致した日本の植民地時代の犯罪を清算しなければ国際的には誰も納得しない。客観的に見て安倍晋三の祖父である岸信介はじめ天皇制軍国主義が引き起こした侵略支配に対して、戦後賠償が問われる立場なのだ。日韓併合から36年間、日本が植民地として統治したことは世界史から消すことはできない。従って新しい日韓、日朝関係を築くうえで避けては通れない問題が横たわっている。

 

 いうまでもなく拉致事件から日朝関係が敵対的になったのではない。植民地支配が終わってからも70年以上にわたって国交がなく、朝鮮戦争では米軍側に与して後方支援を担い、それ以降、主権国家として認めない敵対的関係が続くなかで起きた悲劇の一つであり、この解決のためには、断絶した関係を改めて国交正常化させなければならない。これまで話し合う術もなかったのだから、南北和解も米朝対話もその好機だろう。トランプでさえ、その交渉過程をへて「スパイ容疑」で拘束されていた3人を帰国させている。各国は直接対話や外交をしているわけだ。

 

  南北会談のときに、金正恩が「(拉致問題は)いつも韓国やアメリカなど周辺ばかりがいってくるが、なぜ日本は直接いってこないのか?」と文在寅にいったというのは衝撃だった。身も蓋もない一言だが、国内では「拉致の安倍」といわれ、あれだけ「拉致問題の解決なくして日朝関係の改善はない!」と豪語しながら、何一つやっていなかったことがバレてしまった。圧力や制裁を声高に叫んできたが、実は対話をする能力がないのではないかという疑問がある。本来なら直接外交手段によって要求したり、相手の要求も聞くなどして国と国の交渉ごとは進む。ところが、目と鼻の先にある隣国と直接交渉もできず、遠く太平洋をこえてトランプに会いに行き、「拉致問題を解決してください」と頭を下げ、その空手形の見返りとしてFTAでの経済的譲歩を求められた。飛んでいく方向が逆だ。これではぼったくられるだけで拉致問題の解決は一歩も進まない。そして、世界的潮流から置き去りにされた後になって、万景峰号の入港禁止や朝鮮学校への補助金カットなどでさんざん痛めつけていた朝鮮総連に「日朝会談を仲介してくれ」とお願いに行く始末だ。一体、なにをやっているのか? だ。

 

  通常、表面で「制裁だ」「圧力だ」と強硬姿勢を見せていたとしても、水面下で現実的な交渉をするのが外交だろう。米朝もミサイル騒動のさなかに交渉していた。昨年まで金正恩を「このロケットマンが!」「火の海にするぞ」といっていたトランプは、最近は「とても率直で立派な人物」「利口な人物」「彼とは非常によい関係だ」とてのひらを返している。2度訪朝した国務長官のポンペイオも「複雑な討論に長けた人物」と持ち上げている。11月には米国議会の中間選挙もあるし、トランプは成果を出すしかない。そのためCIA長官が乗り込んで直接交渉しているのであって、外向きのアナウンスと現実は逆だ。1972年のニクソン訪中もそうだったが、軍事的に屈服できないとみると世界を出し抜いて実利をとるというのは、キッシンジャーがやってのけた手口だった。あのときも日本政府は蚊帳の外で、露骨な頭越し外交にたじろいでいた。首脳同士が直接アクセスしているときに、日本政府がやっていることといえば、北京の大使館ルートでファックスを入れた程度だという。

 

  アントニオ猪木にできることが外務省にできないのだ。これは外務省の能力が相当に劣化しているのか、はたまた首相官邸から待ったがかかって忖度してきた結果なのかわからないが、「なぜ直接いってこないのか」といわれるのは相当に恥ずかしい話だ。どんな手を使ってでも相手国の懐に食い込んでいく、信頼関係を切り結んで、いざというときの外交チャンネルを持っておくというのは鉄則だろうに、「制裁だー!」と拳を振り上げていた相手に、実際には話しかけることができないのだ…。それで蚊帳の外をウロウロしながら、トランプや韓国大統領に告げ口外交というか、すがりつき外交みたいな形で寄生し、他国に自国の問題を委ねている。米中韓の政府担当者たちはおそらく笑っているのではないだろうか。これは本気でみっともない話だ。

 

「北京ルートを使って対話の努力をしている」と釈明する安倍首相(11日)

  数日前のテレビ番組で安倍首相が「(金正恩は)非常にダイナミックな判断をしている」「国際社会を熟知している」とてのひらを返して褒めていた。とはいえ、北朝鮮が各国メディアを招待して今月23日からおこなう豊渓里(プンゲリ)の核実験施設廃棄の式典には、中国、韓国、ロシア、アメリカ、イギリスのメディアに公開されるが、日本にはお呼びがかからない。シンガポールでの米朝会談の取材も日本メディアだけが呼ばれていない。メディアが「日本が排除されているのはけしからん」と騒いでいるが、韓国大統領府が「公式対話が成立していないからでは?」といっている。もはや相手にされていないことは隠しようがない。まさに蚊帳の外だ。なぜこれほどまでに立ち後れているのか、東アジア情勢を的確に捉えられなかったのかは検証が必要だ。Jアラートをかき鳴らしたり、イージス・アショアの購入配備を進めたり、まるで戦争でもしかねない勢いで喧嘩腰をやってきた結果、想像もしていなかった対話が動き始め、「えっ?」「ウッソー!」を観客席から連呼しているような光景だ。

 

 米中朝韓の間では非和解的な矛盾があるにせよ、テンポよく事が動いている。水面下では相当に綿密な交渉や外交がくり広げられていたことがわかる。その変化の圏外にいて、アメリカから武器を売りつけられたり、尻馬に乗っていただけだったことが暴露されている。独自外交を展開するとかの発想がなく、何につけてもアメリカ依存だったことの顛末だ。主権がないというか、独立国としてその国家運営なり近隣諸国との外交をどう切り結ぶのかについて主体性がないこと、運転席で操縦桿を握っていないことを端的にあらわしている。

 

  米朝会談当日は、習近平もシンガポールにやってくる可能性があるという。朝鮮戦争の休戦協定に調印した当事者(北朝鮮、米国、中国)のトップが揃うことになり、南北会談で宣言した今年中の「終戦宣言」にお墨付きを与えることになる。それこそ「不可逆的」に戦争状態を終わらせる合意であり、制裁解除と経済交流の口火が切られる。ゴールドマン・サックスは、南北統一後の朝鮮半島のGDPは、フランス、ドイツ、日本を抜く規模だと試算している。とくに鉱山資源は300兆円規模にもなると見て、各国の投資ファンドや開発メジャーが鵜の目鷹の目だ。少なくとも2度、金正恩と接見しているポンペイオは、「米国の民間分野が(北朝鮮に)莫大な電気が必要なエネルギー網の建設の支援になるだろう」とのべており、制裁解除もなにもインフラ整備や農業支援での米国企業の投資に前のめりだ。資本主義各国が未開の楽園を見つけたような調子で浮き足立っている。北朝鮮国内では着着と工業団地が建設されており、韓国政府は軍事境界線を含む非武装地帯(DMZ)に「平和発電所」の建設構想を挙げ、中断されていた南北共同運営の開城(ケソン)工業団地を年内に再開させることも明言している。日本が「圧力の継続」といっている間に、世界は次のステップに向けてどんどん進んでいる。

 

北朝鮮が元山市内に建設中の大規模リゾート施設「元山葛麻海岸観光地区」(『労働新聞』が14日に公開)。米朝対話後の経済プログラムが進行している

  一連の東アジア情勢の変化の背景にあるのは、アメリカの力の衰退だ。従来の軍事プレゼンスでは、思惑通りに中東はじめ東アジアもコントロールできなくなっている。そして世界は多極化している。トランプの登場そのものが深刻な国内矛盾を抱える米国社会の変化を反映しており、北朝鮮も、韓国も、中国もその局面を敏感に捉えて独自の動きを見せている。ところが対米従属国家だけがとり残されている。蚊帳の外路線を続けるのなら、「東アジアのイスラエル」になりかねない趨勢だ。まさにアメリカの鉄砲玉だ。イスラエルを訪問して安倍晋三夫妻が靴に入ったデザートを振る舞われていたが、アメリカの財布代わりになって各国に金をばらまくだけで、独自の判断も決定もできない植民地国家というのが国際的な見方として定着している。朝鮮半島を含めた東アジア全体で動いているのは、米国覇権体制の終焉であり、第2次大戦後の絶対的な力が薄れ、73年を経て変化を余儀なくされているということだ。このなかで日本の為政者の振る舞いは、対米従属のぬるま湯に浸ってきたゆでカエルみたいに思えてならない。外交音痴とかいうレベルの話ではない。主体性がないし、各国からまともな独立国とは見なされていないようでもある。

 

  韓国では朴槿恵が弾劾されたが、南北の平和的統一を成し遂げるうえで、戦後出発の原点である独立の課題に向き合っている。単なる民主化要求ではなく、戦争状態を終わらせて民族の主権をとり戻すということが、従来の「右」「左」の枠をこえて支持されている。世論調査でも国民の9割が南北会談を歓迎している。むしろ国民世論がそのように導いた。

 

一昨年11月にソウルでおこなわれたローソク集会

 第2次大戦での日本の敗北によって、朝鮮民族は植民地支配から解放されたはずだったが、今度は日本に原爆を落としたアメリカが解放者のような顔をして乗り込んできて、朝鮮総督府を軸にした日本軍国主義の植民地支配の統治機構をそのまま再利用した。「親日派」(植民地時代の協力者)はそのまま「親米派」となって大統領や政府要職に登用され、そのため韓国は当事者でありながら朝鮮戦争の終戦協定にも関与できず、駐留した米軍が指揮権を握っているために南北対話すら自由にできない状態が続いてきた。

 

 戦争状態にあることで米軍の「安全保障」に縛られるとともに、クーデターによって軍事独裁政権が続き、アメリカに亡命した李承晩(イスンマン)、日本軍から米軍に転身した朴正煕(パクチョンヒ、陸軍中野学校出身)、米軍特殊部隊出身の全斗煥(チョンドファン)など名だたる大統領は徹底的に国民の自由を迫害し、政治腐敗が深刻化した。韓国で歴史的に続いてきた民主化運動はそれとのたたかいだったが、それを迫害したのも米軍だ。

 

 ここまできてアメリカは「解放者」でも何でもなく、朝鮮半島を軍事的、経済的に縛りつけて国の主権を奪う存在であることがすっかり暴露された。アメリカの庇護のもとで、戦犯がそのまま総理大臣になった日本の戦後政治と酷似している。長い被支配の歴史を背負い、ふたたび戦場にされかねないという局面を迎えた韓国で、急速に主権回復の世論が高まったことは必然的だ。

 

  日本では、韓国の民主化運動は「反日」運動として報道されるが、これも非常に意図的なものだ。民族対立を煽り、「アジア人同士を争わせてアメリカが統治する」というニクソンドクトリンに従ったもので、一方では「アジアの解放者」の顔をして駐留しながら、他方では日本の植民地支配の亡霊を利用してきた。慰安婦問題をめぐる日韓合意も、アメリカが「カネで黙らせろ」とやらせたことであり、当事者の頭越しに安倍政府と朴政府がゴリ押ししたが、朴槿恵が失脚して頓挫した。韓国における市民の反発は、朝鮮半島を蹂躙した侵略者への怒りであるし、それを庇護した米国の戦後統治の欺瞞に向いている。

 

第二次大戦後のレジームからの脱却

 

 A 植民地支配の清算は、過去の誤りを認め、二度とくり返させないことを約束して、互いの主権を尊重した平和的な関係をきり結ぶことなしには本当の解決はない。無謀なる侵略戦争を引き起こし、アジア諸国に迷惑をかけた戦争指導者を断罪し、罪を償わせることとセットだ。ところが、日本でどうだったかというと、戦争を引き起こした支配階級は国体護持と引き替えに延命し、岸信介はじめ利用できる統治機構は丸ごと温存されて、戦後はアメリカに屈服して支配的地位を守られた。そして対米従属の鎖につながれて今日に至っている。

 

 国内でいまだに「チャンコロ」とか「チョン」といって他民族を侮蔑することで悦に入っているヘイト連中がいるが、「慰安婦や強制労働はなかった」とか「日本支配のおかげで近代化した」というような言質も含めて、植民地支配を正当化する亡霊のDNAというか、残りカスみたいなものが往生しきれずに彷徨っている。「うちの爺ちゃんは悪くない!」の正当化とつながった勢力がいる。これらが明治維新後の近代国家としての成り立ちや建前すらぶち壊して、明治以前の前近代的な人治主義に時代を逆戻しさせて、同時に外交すら切り結べないお粗末な姿をさらしている。

 

 東アジアにおいて現在の情勢の変化に対応する場合、まず北朝鮮との間では戦後賠償から問われることになるし、拉致問題の解決もその文脈のなかで捉えないことには始まらない。日本の戦後賠償金を原資にした経済発展に各国が群がるというのも十分に考えられることだろう。この植民地支配の歴史を清算しなければならないという課題に、岸信介の孫が出て行って対話になるのかは疑問だ。もはや安倍政府では蚊帳の外をウロウロするしかないのが目に見えている。「外交の安倍」は先程来から論議してきたように、もっとも深い関係を切り結ぶべき東アジアのなかで、プレーヤーとしてはじき出されている。中国も「いつまで安倍政府が続くのかなぁ…」が本音だろう。李克強首相が訪日して安倍晋三がひっつきもっつきしていたが、今や哀れさすら漂わせている。

 

  昨年の核兵器禁止条約を採択した国連の会議に出席した人が、ASEANに加盟する東南アジアが一つに固まって採択に動いたといっていた。「アメリカの核の傘」に縛られた日本や韓国を含む北東アジアがバラバラなのとは対照的だったという。アメリカの力の衰退のなかで、アメリカのドル支配、軍事支配からの脱却がアジア全体の大きな課題として動いている。アジアの「非核化」も、北朝鮮の非核化だけで済む問題ではない。2発の原爆を投下しながらそれを正当化し、核を独占して軍事利用してきたアメリカの核も問われなければならない。被爆国である日本においてその世論をさらに強めることが求められる。第2次大戦後のパクスアメリカーナが終焉に向かっているもとで、その残渣(ざんさ)を清算することが求められている。在韓、在日米軍の存在も焦点になる。「東アジアを揉ませるな」という力が各国の外交に反映しているし、同列にいなければ日本政府に立ち位置などない。カネをばらまいてどうにかなるものではないし、「どうせアメリカの使い走りだろうが」と思われているようでは相手にされない。

 

 日本社会にとっても、対米従属構造からの脱却が問われている。73年にわたる対米従属構造から脱却しようというとき、今や腐敗堕落しきった統治機構の在り方も問題にしないといけない。国際社会からは置き去りにされ、国内では「モリカケ」騒動に延延と時間を費やして、嘘つきが跋扈(ばっこ)している。このぶっ壊れた社会の状態も、ある意味で戦後の対米従属政治のなれの果てだ。まともな社会を築いていく努力と、東アジアの国国と真に友好関係を切り結んでいく努力は一つのものだ。

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