安倍政府が5日、赤ちゃんを含む全国民と在日外国人に一生変わらない番号をつけて管理するマイナンバー(社会保障・税番号)制度を本格始動させた。すべての人に、12ケタの個人番号、会社にも13ケタの法人番号をつけ、個人番号は「通知カード」を発送する作業が全国の自治体で始まっている。マイナンバーをめぐっては「公平公正な社会の実現」「国民の利便性の向上」「行政の効率化」を宣伝するが、マイナンバー先進国では詐欺事件が蔓延し、国民生活にとっていいことはなにもないことが明らかになっている。そのような制度を強引に推し進めるのは、アメリカの企む戦争に国民を総動員しようとする安倍政府にとって、徹底した国民監視体制が必要で、住基ネットを格段に強化したマイナンバー制度が不可欠だからである。
米国ではなりすまし詐欺の温床
マイナンバー制度の流れとしては今後、全家庭に個人番号通知カード(紙製)が簡易書留で届く。そのなかに、ICチップを搭載した「個人番号カード」の申請用紙と返信用封筒が入っている。個人番号カードの申請は任意で、ほしい人が返信封筒で顔写真を送って自治体に申請すると、氏名や住所、生年月日、顔写真が入った「個人番号カード」がつくられる。来年1月以後、本人確認に使うパスワードを設定して受けとる仕組みになっている。
番号が使われるのは社会保障・税務・災害対策の手続きで、源泉徴収票に本人や扶養家族全員の個人番号や法人番号を記入する欄ができる。2016年1月から税や雇用保険の手続きで記入が必要になり、2017年1月からは健康保険、厚生年金保険の手続きでも個人番号記入が必要になる。2017年7月に国や地方自治体などすべての行政機関を個人番号や法人番号で結ぶ方向となっている。その後は東京五輪のある2020年を「ターゲットイヤー」に設定。マイナンバー制度を使って、健康保険証、運転免許証、パスポート、民間企業社員証、クレジットカード、ポイントカードをすべて一体化する「ワンカード化」を目指している。
ただ個人番号によるネットワークを構築しようとしてもICチップ付き個人カードが普及しなければ成り立たない。現実に11ケタの個人番号を付けた住基ネットでは、開始から10年以上へてもICチップ付き住基カードの普及率は5・5%どまりだった。自治体ごと住基ネットシステムから離脱するところもあらわれ、結局はカード発行停止に追い込まれた。
この轍を踏まないため、さまざまな医療・福祉分野へのひも付け拡大に腐心している。IT総合戦略本部は今後の利用について戸籍、旅券、預貯金、医療・介護・健康情報管理、自動車事務への拡大をうち出している。
マイナンバー制度の個人番号カードは、申請は任意であり、国民一人一人にとってICチップ付きの個人番号カードを持つ必要はまったくない。だがICチップ付きカードは膨大なデータ集積機能で今後、ひも付けの対象を無限に拡大できる特徴がある。管理統制する側から見れば極めて便利なカードであるため、個人番号カードがなければ行政手続きが不便になる状態に追い込み、何が何でもICチップ付きカードを持たせる方向へ意図的に誘導している。
個人情報流出相次ぐ 詐欺や犯罪のツール化
マイナンバー制度が国民生活に及ぼす効果は、マイナンバー先進国ですでに明らかである。
日本がモデルにするアメリカの社会保障番号(SSN)は、他人のSSNを使ったなりすまし犯罪の温床となっている。暗証番号や顔写真などの認証をすり抜ければ銀行口座開設もできるため、ローン地獄に直面する大人が子どものSSNを盗用して金を借りて焦げ付かせ、その子が成人して銀行口座を開設するときにはじめてブラックリストに搭載されていることを知るという事件も多い。患者が病院や職員に提示したSSNが漏れてなりすまし犯罪に使われたり、米軍人が国外から帰国して自分の預貯金をみるとすべて使われていたケースなど、SSNは「犯罪ツール」と化している。
韓国でもネット事業者からの個人情報流出があいついでおり、2011年には3500万人分の住民登録番号(韓国のマイナンバー)が漏れている。韓国はマイナンバーを使ったクレジットカード詐欺や不動産取引詐欺が増えている。近年では子どもの年齢や通学先も含めた情報を手に入れ「子どもを誘拐している」と身代金を要求する事件が増えている。
またスウェーデンでは無届け就労や租税回避による「課税漏れ」が大きな問題になっている。共通番号管理を強めても、課税源を移転する大企業や高額所得者の税金逃れまで摘発することはできず、低所得層の税金逃れを摘発する制度でしかないと指摘されている。
アメリカで先行 徴兵制への悪用も必至
このような制度を強行するのは、住基ネットで未完成に終わった国民監視制度を「マイナンバー」と名前を変えて実行に移すためである。安倍政府が宣伝する行政手続きの簡素化や、国民の利便性だけが目的なら、現行の住基ネット加入を促進すれば済む。その番号をわざわざつけ替え、新たな制度を開始させたことにマイナンバー制度が持つ意味がある。
住基ネットの住民票コードは市区町村が付番し自治事務であるため、各自治体が国との接続を切断し住基ネットを離脱することもできた。だがマイナンバーは国が全国民と在日外国人に付番した。全自治体を否応なくマイナンバー制度に縛り付け、国が直接管理・統制する体制である。
マイナンバー法は、住基ネットが否定していた警察や公安機関のデータ利用も認めている。番号法の「利用範囲」では「刑事事件の捜査」と「その他政令で定める公益上の必要があるとき」と明記。「政令」では、独占禁止法の犯則調査、少年法の調査、破壊活動防止法の処分請求、国際捜索共助法の共助や協力、組織犯罪処罰法による共助、団体規制法に基づく調査、などを上げている。要するに警察や国家権力の側が国民の個人情報をのぞき放題できるというものだ。
そして国が想定しているのは、住所が変わり、名前が変わっても同一番号で個人を特定し監視し続ける体制である。「ワンカード化」が実行にうつされれば職歴、家族構成、所得、不動産などの資産情報、今までに受けた医療情報、失業保険、公営住宅を借りた記録、児童扶養手当など各種手当て、生命保険、個人の銀行預貯金、住宅ローン、犯罪歴など国民一人一人の情報は丸裸になる。ポイントカードや図書館カードも連動すれば「どこで何を買ったか」「どこへ旅行へ行ったか」「どんな本を読んでいるか」などの履歴まで残るようになる。
こうした情報が徴兵や戦時動員、治安弾圧に利用されていくのは必至で、研究者や弁護士、自治体関係者など多くの国民のなかで警戒する声が強まっている。
アメリカの実態を見ると、全米すべての高校が生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出しなければ学校の助成金がカットされる制度があるが、その個人情報とは名前、住所、親の年収及び職業、市民権の有無、生徒の携帯電話番号である。米軍はこのリストからより貧しく、将来の見通しが暗い生徒のリストを作成。そこへ軍のリクルーターが「入隊すれば大学の学費が免除される」「入隊すれば家族も含めて兵士用の医療保険に入れる」と声をかけ勧誘している。リクルーターも貧困層出身でノルマを達成できなければ兵士として前線に送られる仕組みであり、イラク戦争開戦の2003年に米軍は新兵を21万2000人集めている。
アメリカの国家テロ対策センターのデータベース「TIDE」に膨大な監視リスト、航空機の搭乗拒否リストが蓄積され、市民が飛行機に乗ろうとして搭乗を拒否されることも起きている。リストの数は50万人以上といわれ、宗教者や平和団体加入者とともに2歳以下の乳幼児まで含まれる。いったんこの監視リストに載れば就職試験を受けてもすべて不採用になり、就職先もなく、米軍へ入るしかない。これがマイナンバー先進地の実態である。
日本でも昨年、「陸上自衛隊高等工科学校」の生徒を集めるため、自衛隊が中学3年生の名簿を提示するよう全国の市町村に求め、約200市町村で氏名や住所などを閲覧したことが明るみに出たが、アメリカとまったく同じ道を後追いしている。それはマイナンバー制度が戦時国家づくり、すなわち国民弾圧体制づくりと一体であることを浮き彫りにしている。