米英仏3国は14日未明、シリア政府軍が「化学兵器を使用した」「レッドラインをこえた」と叫び、航空機や艦船から105発の巡航ミサイルで「化学兵器関連施設」を攻撃した。米英仏軍と連携しイスラエル軍は9日、16日にシリア軍航空基地にミサイル攻撃をした。シリア政府は、「化学兵器使用」はでっちあげであり、7年間にわたる米欧のテログループを使ったシリア政府転覆の策動が破綻していることを認めるものでしかないと強く批判している。米英仏のシリア攻撃に抗議する行動は世界各国に広がっている。これまでアメリカがイラク侵略戦争の口実にした「大量破壊兵器保持」は大ウソであったことなどは全世界が経験してきた。今回の「化学兵器使用」を叫んでの米英仏のシリア攻撃の真相はなにか、シリアの現状について見てみた。
米英仏のミサイル攻撃の標的は首都近郊と研究所とホムスの軍施設であったといわれる。ミサイルの一部はシリア軍の迎撃で破壊された。今回のミサイル攻撃に対しシリアでは首都ダマスカスをはじめ各地の都市で抗議行動がおこなわれた。同時に各地の都市が反政府勢力のテログループから解放されているのを喜び、政府への支持を表明した。シリアでは2011年の春以来、テログループを使った米欧の干渉によって40万人近くが犠牲となり、総人口2100万人の半数以上が難民となり、国土は荒廃した。この間の反撃で反政府勢力のテログループが支配する地域を次次に解放し現在は最終段階を迎えている。
イラクでは首都バグダッドをはじめ7都市以上で抗議デモがおこなわれた。バクダッドでは数千人が抗議集会を開き、シリアへの支持を表明し、星条旗を燃やした。抗議行動に参加した市民は「アメリカが私たちの国を破壊した。シリアの破壊をすぐにやめろ」と訴えた。イラクではアメリカなどによる侵略・占領、それにいたる経済制裁によって100万人以上が犠牲になった。今回のシリア攻撃についてイラク外相は、地域の安全保障と安定に悪影響を及ぼし、一度は敗北したテロリストにふたたび活動する機会を与えかねないとし、シリアの未来はシリア国民自身が決定するものだと批判した。
パレスチナ自治区のガザとヨルダン川西岸でもアメリカの介入を非難し、シリアの政府と人民と連帯するスローガンを叫んだ。ガザ地区を統治するハマス(イスラム抵抗運動)は米英仏のシリア攻撃を非難するとともに、イスラエルによるパレスチナ市民への犯罪を支援するトランプ政府を批判した。ガザ地区のパレスチナ住民は、イスラエルによるガザ地区の封鎖と土地略奪、さらにはトランプ政府のエルサレムへの米大使館移転に抗議する闘争を3月末から連続的にたたかっている。イスラエル軍の弾圧によって34人が殺され、3000人ほどが負傷しているが、屈せずたたかっている。
シリアの人民と政府のたたかいを支援し義勇兵を送っているレバノンのイスラム政治組織ヒズボラはシリア攻撃の直前に、「化学兵器の使用はどこであっても非難するが、ドゥーマ市で起きた事件はつくり事だ。トランプの脅迫をこの地域の住民は恐れない」との見解を表明している。シリアを支援し義勇兵を送っているイラン政府は、今回の攻撃が最近のテロリストの敗北を補おうとするものであり、「化学兵器使用」はそのために持ち出されたこと、シリアの人民と政府は強力であり、まきかえしをはかろうとする米英仏の野望は達成されないとの見解を出している。
エジプト政府は米英仏のシリア攻撃に関して政治的な解決の必要を説き、「合法的な政府と愛国的軍隊を支援する」とアサド政府への支援を表明している。アルジェリア外務省は、シリア危機の政治的な解決を阻害するだけだと米英仏のシリア攻撃に遺憾の意を示した。
中東・アラブ地域以外でも、抗議行動が広がっている。アメリカでは、14日から15日にかけて各地で抗議集会が開かれた。抗議行動の参加者は「シリアから手を引け」「終わりのない戦争反対」「アメリカ・NATOの手は血まみれだ」などのプラカードを掲げ、「大量破壊兵器」の大ウソでのイラク侵略・占領をおこなって以来の戦争に抗議し、アメリカ国内での警察による残虐行為、移民の大量追放など一連の政治に反対した。
イギリスでは、攻撃前から各地で戦争反対やパレスチナ連帯のデモや集会が開かれてきたが、米英仏が攻撃を強行したことで、怒りはいっそう高まっている。16日には反戦団体の呼びかけで首都ロンドンをはじめ10カ所以上の都市で抗議集会を開き、シリア攻撃反対を訴えた。抗議行動に参加した人たちは「化学兵器による攻撃について信じない。それはイラクのときと同じだ。かれらはイラク全体を破壊し、国は荒廃したままだ。私たちはもうこれ以上戦争を必要としない」と訴えている。
抗議デモはギリシャやバルカン半島のセルビアでもとりくまれている。ギリシャには米軍基地があり、中東への出撃基地となっている。また財政破綻のなかで金融支援・債務返済のために米欧の指揮による緊縮財政政策でギリシャ人民は貧困を強いられている。セルビアは1990年末、米欧の軍事干渉による旧ユーゴ連邦解体、NATO軍の爆撃に直面した国である。
米英仏がいくらデマ宣伝を流しても、シリアをはじめ世界各国の民衆は、かれらが持ち出す「自由、民主、人権」はまったくの欺瞞であり、侵略と支配、殺りくと破壊のためのものでしかないことを身をもって体験しており、ごまかしは通用しなくなっている。
メディア使い事態演出 調査団の到着前に攻撃
今回の攻撃で口実としてもちだした「化学兵器使用」も具体的に見ていくなら、米英仏の狙いは明らかだ。「化学兵器使用」でマスコミに流された内容は、4月7日に首都ダマスカスに近い東グータ地方のドゥーマ市へのロシア軍とシリア軍の爆撃のなかで塩素ガスが使用され、多くの住民が呼吸困難になり75人が死亡したというものだ。この内容は民間救助隊の看板を掲げる「ホワイト・ヘルメット」が被害者とされる住民の映像や画像をインターネットなどで流し、これを米日欧のマスコミはくり返し報道した。塩素ガスはサリンや神経ガスなどの化学兵器ではないが、国連決議(第2209号)で使用を禁じている。
「ホワイト・ヘルメット」は民間救助隊を装っているが、赤新月社(アラブ版の赤十字)とはまったく異なり、アルカイダ系のテログループが厚化粧したもので、米欧の手先となって活動していることで知られている。武器を持って戦闘することもあり、シリア政府との和平交渉に反対し、「徹底抗戦」を訴えている。創設したのは英軍将校で、傭兵会社に勤めた経験をもった人物が訓練している。米欧のマスコミは「ホワイト・ヘルメット」をもちあげる番組をつくり、賞を与えている関係だ。
この報道直後に米英仏は「レッドラインをこえた」といいシリア攻撃の協議を開始したが、シリア軍の「化学兵器使用」の証拠については「強く確信している」(米大統領報道官)というが証拠は示さなかった。英仏も同様である。シリア政府とロシア政府は、こうした報道を否定し、即座に国際機関である化学兵器禁止機関(OPCW)に調査チームの派遣を要請した。OPCWはこの要請に応じシリアに調査チームを派遣したが、現地入りする前に米英仏はミサイル攻撃を強行した。
シリア、ロシア政府は、シリア軍の「化学兵器使用」の事実はないことはOPCWの調査チームが調べれば明らかになるとしている。両国政府は、すでに3月段階からアメリカなどが「化学兵器利用」の謀略を仕組み、シリア攻撃を強行しようとしていることを暴露し、警鐘を鳴らしてきた。ロシア国防省は、アメリカがシリアで大規模な戦争を始める引き金として「化学兵器使用」のデマを流そうとたくらんでいることを非難した。ロシア軍参謀本部は3月17日、米海軍の艦隊が紅海、地中海、ペルシャ湾に配備され、シリア攻撃の準備を整えていると警告した。同日、ロシアの外相ラブロフは、アメリカ、イギリス、フランスなどの特殊部隊がシリア国内へ侵入していることを暴露している。
米欧諸国はこれまでもシリア政府転覆の策動が行き詰まり、打開策として「化学兵器使用」を口実にシリア攻撃を強行しようとしてきた。最初は2013年夏、「化学兵器使用」でシリアの爆撃を米欧の有志連合で強行しようとした。このときは米欧諸国で反米反戦闘争が噴き上がり、このたくらみを頓挫させた。前オバマ政府は手口をかえてシリアへの軍事介入をはかろうとして2014年春、「イスラム国の脅威」を大宣伝し、同年8月にイラクへの空爆、9月にシリアへの空爆を開始し、米軍部隊を投入した。シリアでは北部自治区をもうけていたクルド勢力へのてこ入れをはかり武器援助するとともに、米軍基地の建設に着手した。
だが2015年9月になり、ロシア政府がテログループや「イスラム国の脅威」を利用したアメリカの干渉の手口を暴露し、イランやイラクなどと連携をとりシリア政府への軍事支援に乗りだした。この支援を受けてシリア政府は各地で攻勢を強め、テログループを敗走させた。2016年末にはシリアの第2の都市であった北部アレッポの解放で天王山をこえた。
オバマ政府にかわって17年1月にトランプ政府が登場した。トランプ政府はシリアでの巻き返しのために「イスラム国」対策を名目にクルド地区へ数千人の米軍部隊や車両を公然と送りこんだ。そして同年4月、シリア軍が北部のイドリブ地方の反政府地域を「化学兵器で攻撃した」とし、やはりなんの証拠も示さずシリア軍の空軍基地に対し米艦船から59発の巡航ミサイルをうちこんだ。
背景に欧米の焦り 勢力圏再編で基盤失う
だがこうした軍事干渉拡大はなんの効果もなかった。シリア政府軍はアレッポの解放からシリア東部の「イスラム国」の支配地域に進撃し、昨年末には長年にわたって包囲下にあったデアエゾールを解放し、ユーフラテス川西岸をとり戻した。今年に入ってからはシリア各地にポケットとして残っているテログループの支配地域に焦点を移し、解放のための作戦を実行してきた。そうした一つが今回の東グータ地域である。
東グータ地域は首都ダマスカスに隣接する地域で三つの都市があり、テログループは迫撃砲などでダマスカスの市街地への攻撃を日常的におこなっていた。かつては人口200万人の都市だったが、内戦状態になってから40万人減っていた。シリア政府軍は2月から包囲作戦を開始していた。
テログループや地域評議会などの住民自治組織などに対して、ロシア軍が仲介して和解交渉をおこない、人道回廊などの設置による住民退去、地域からのテログループの退去を求めた。テログループに対しては、退去にあたって自動小銃の携帯を許可し、シリア政府に投降するものは恩赦措置をとるというものである。テログループはサウジなどのアラブ諸国からの資金援助、給料をもらっている傭兵であり、逃げ道がないとなれば和解に応じた。
東グータの3つの都市でもテログループは次次に和解に応じ、一部のものは投降、恩赦を受け、そうでないものはシリア政府が用意したバスでシリア北部のイドリブ地方に向かっている。こうして最後に残された都市がドゥーマ市であり、グループの一部が和解に応じ、残ったグループのなかでどうするかをめぐって対立が深まっているなかで、7日の「化学兵器使用」の騒ぎがひき起こされた。シリア政府軍側からすれば、時間を待つだけでよかった時期であり、「化学兵器」を使用する必要性などなかった。
米英仏軍のミサイル攻撃は、ドゥーマ市や東グータの解放になんの影響もなく、シリア政府は4月14日にグータ地方の全域の解放を宣言した。この間、東グータ地域から退去した人たちは約16万5000人である。その一部は地域にもどり始めている。
シリアの情勢は、米欧などのシリア政府転覆策動の破綻の最終局面にある。4月4日にはトルコの首都アンカラで、トルコの大統領エルドアン、ロシア大統領プーチン、イラン大統領ロウハーニーが会談をおこなっている。ここでの一つの議題はシリアの復興、安定化であり、それへの国際的な支援を訴えている。また今年2月、中国はシリアに特別使節を送り、戦後の復興事業への参加を表明している。
シリア問題をめぐる政治的な焦点は、シリア政府転覆の策動が破綻し、復興をつうじてロシアやイラン、中国などが影響力を強め、米欧の歴史的な支配の瓦解が加速するなかで、市場・勢力圏の再編の局面に入ろうとしていることである。米英仏がシリアのクルド自治区などに基地を建設し、ミサイル攻撃を強行する背景には、米英仏の危機感がある。