京都大学は3月28日、「軍事研究に関する基本方針」を発表し、研究活動は「社会の安寧と人類の幸福、平和へ貢献すること」であるとして、軍事研究をおこなわないことを明確にした。昨年三月の日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」を受けた学内論議を経て定めたもので、京都大学として方針を明文化するのは初めてとなる。
基本方針では、はじめに「創立以来築いてきた自由の学風を継承し、地球社会の調和ある共存に貢献するため、研究の自由と自主を基礎に高い倫理性を備えた研究活動により、世界に卓越した知の創造を行うことを基本理念に掲げています。
本学において研究に従事する全ての者は、この基本理念のもと、主体的判断により行う研究活動とその成果が将来に亘り地球社会に与え得る影響を自覚しながら、高次の専門的能力と総合的視野をもって社会からの信頼と負託に応えてゆくことが求められます」と提起した。
「このことから、本学における研究活動は、社会の安寧と人類の幸福、平和へ貢献することを目的とするものであり、それらを脅かすことに繋がる軍事研究は、これを行わないこと」と明記。なお、「個別の事案について判断が必要な場合は、総長が設置する常置の委員会において審議する」とした。
京都大学は1967年に「軍から研究費の援助を受けることは、その研究成果が戦争に利用される危険があるので好ましくない」と学内で申し合わせをしている。だが、昨年2月に人工知能(AI)研究に携わる教授が米軍の研究資金を受けていたことが判明したこともあり、3月の日本学術会議声明を踏まえて学内の指針を策定するため、昨年5月に学内でワーキンググループを発足して具体化を進めた。
軍事研究をめぐって安倍政府は、大学への運営費交付金を削減する一方で、2015年から防衛装備庁による「安全保障技術研究推進制度」を開始し、当初3億円だった予算枠を2年間で110億円にまで増額して資金難にある研究者の誘い込みに力を入れてきた。
「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行わない」(1967年)とする声明を発し、発足以来、軍事研究拒否の姿勢をとってきた日本学術会議では、大西隆前会長が「防衛のための軍事研究は許容される」「時代にあわせた解釈を」と公言してみずから同制度に応募するなど、学術会議を内部から突き崩す動きが顕在化した。
政府や推進派は、軍事技術を民生へ応用する「軍民両用(ディアルユース)論」をもちこんで切り崩しを図ったが、日本学術会議では反対世論が圧倒。昨年三月、くり返しおこなわれた論議の結論として、「再び学術と軍事が接近しつつある中」で、軍事研究が「学問の自由および学術の健全な発展と緊張関係にある」として過去2回の声明を継承する立場を明確にする声明を発表した。
防衛装備庁の研究制度については「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ」、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」としたうえで、「必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実」であり、研究結果が「科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用され」ることのないように、「研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断」を求めた。
昨年10月の日本学術会議会長選では、軍事研究に異議を唱えてきた山極寿一・京都大学総長が新たな会長に選出された。
政治の私物化による公的機関の社会的信頼が低下するなかで、学術研究の社会的役割や高い倫理性に立って軍事研究を明確に拒否した声明は大きな注目を集めており、すでに指針や学長声明を発表した関西大や滋賀県立大、法政大、琉球大などに続き、全国の大学で同様の動きが広がることが期待されている。