1日付の日経新聞朝刊に掲載された「アマゾン、出版取次外し加速 印刷工場から直接調達」の記事が、出版に関わっている人人のなかで話題になっている。昨年6月にアマゾンのバックオーダー発注(取次店を通した取り寄せ調達)が終了し、様様な困惑や不安が広がっていたが、案の定、日販やトーハンといった取次を外して、アマゾンがネットを介した書籍流通の中間マージンを直接持っていく方向に動き出した。この黒船襲来の勢いに押されて万が一の事態が起こった場合、出版流通は大きな変化を余儀なくされることは容易に想像がつく。
特価販売や古本は別として、私たちのような消費者が書店で書籍を購入するさいの価格は定価だ。出版社―取次―書店のそれぞれの契約条件によって差異はあるものの、この定価のなかから取次が約8%、書店が約22%余りを収入にして、出版社は残りの60~70%のなかで印刷費や製本費などの原価と利益を見込んでいくのが一般的だ。出版社と取次の間の掛け率も様様で、なかにはひどい取引を強いられているところもある。そして大手取次の場合、売れ残ったらどっさりと返品してきて、出版社が泣く思いをするというのもしばしば耳にする話だ。出版に関わっている人人いわく、これまでの流通システムにも大いに解決すべき課題があり、近年では出版社みずからが書店との直取引を始める動きも起きているのだという。
出版社が1冊の本を世に送り出そうと思った時に、全国に1万2000店以上もある書店にプロモーションをかけたり、その出荷や売上のやりとりをこなすのは至難の業だ。そこで、取次が出版社と書店をつなぎ、全国の書店に出版物を行き渡らせる流通のセンターとして役割を果たしてきたのも事実だ。だが、出版不況が叫ばれるなかにあって、近年は取次の倒産も起こり、その経営は決して安泰ではないことが指摘されてきた。そして今や日販、トーハンという大手でさえも、取次としての立場をネット通販の巨獣たるアマゾンに脅かされているのである。これがどれほどの影響になるのかは想像がつかないものの、ネット通販(アマゾンが書店を飛び越えて消費者と直結する)の領域が拡大するのに照応して店舗販売が押しのけられてしまうと、結果として「取次外し」だけでなく「書店外し」が加速し、今以上に街の本屋がなくなることにもなりかねない。
ネット通販の利便性は否定しない。利用者にとって便利であれば普及するのは当たり前の話だ。ただ、本は自分の目で見て触って、目次に目を通したり、パラパラとめくって試読したり、選書してから購入したいと願っている人間もいる。そのような人間にとっては、街の本屋がなくなったり、その結果、ネットで表紙の画像だけを見てポチッとするのはあまり気乗りがしないものだ。本屋のあの膨大な書籍の山のなかから、読みたい本、読むべき本を小一時間かけて選ぶ楽しみやワクワク感は、やはりネットでは得難いものだからだ。造詣の深い書店員さんとの会話やお薦め本との出会いも含めて、街の本屋さんには街の本屋さんの良さがあると思う。
強みや弱みをそれぞれが抱えたなかで、この流通戦争がどこにたどり着くのか注目している。利便性のみが一人勝ちするとも思えないが、出版流通にとっていまが過渡期であることは疑いない。武蔵坊五郎