仮想通貨ビットコインの取引所であるコインチェックから580億円相当ものビットコインがハッキングされて衝撃が走っている。昭和の大犯罪といわれた3億円事件は、現金輸送車から直接奪っていく大胆な犯行が世間の度肝を抜き、謎多き未解決事件として語り継がれてきたが、今回のハッキングはそんな3億円が可愛く思えるほどの金額(実体なき仮想通貨)が、トラック輸送するでもなく、あるいは映画の1シーンのように覆面をかぶった集団に襲われるでもなく、ネット上のハッキング行為によってパソコンをポチッとして「奪われた」というのである。
580億円とは、仮に福沢諭吉の状態に置き換えるとどれくらいの大きさや重さなのだろうか? と想像してみた。ところが、まったくイメージが浮かんでこない。そこで以前、日本銀行が子どもたちを見学ツアーに招いて、1億円の札束を持ち上げさせるというえげつない体験をさせていたのを思い出して、日銀のホームページをのぞいてみた。すると、丁寧に「1億円パック」の解説をしてくれていた。1億円を1000万円ずつに固めて5000万円×2列に固めると、「横38㌢、縦32㌢、高さ約10㌢あります」「1億円(1万円札が1万枚)の重さは約10㌔。1万円札1枚が約1グラムということになります」(ちょこっとコラム)と記している。
では、580億円が実体なき仮想ではなく、姿形を伴った1万円札ならどうなるか? 総重量にして5800㌔、日銀の「1億円パック」状態を積み上げてみると、「横418㌢、縦160㌢、高さ100㌢」(600億円)の角が少し欠けたほどの塊になる。これをクロネコのお兄さんたちが運ぶとして、何人がかりでどれくらいの時間が必要になるだろうか? 等等を想像し始めてしまうと、やはりネットのポチッで580億円の価値が奪われたというのは、どう考えてもナンセンスとしか思えないのだった。「働かずして銭儲け」も大概ではあるが、銀行強盗までが肉体を使わずしてPC操作で完結するとはどうしたものかと考えてしまう。
実体もなければ価値も乱高下する仮想通貨が、ミセス・ワタナベを中心とする素人をカモにして、前述したような巨大な紙幣の塊を運ぶ努力もなく、どこかで誰かの手に渡って、PCやスマホにコッソリと隠れているのだという。「謎多き」という点でいえば、もう3億円事件とはまるで性質の異なるナゾナゾだらけで、アナログ人間にとってはブロックチェーンだとか、マイニングとか、NEM財団とか、意味不明の言葉ばかりが登場して脳味噌がこんがらがってしまいそうだ。かといってビットコイン通の人に解説してもらっても、今度は当人がなんぼカモにされたのかが気になって気になって、話に集中できない。「損した」「得した」も含めてすべてが仮想のように思えて…。吉田充春