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米軍需産業に利潤貢ぐ安倍政府

 高齢者の介護や医療費、教育費など国民生活に不可欠な予算を削りながら、安倍政府が軍事費にばく大な国家予算をつぎ込んでいる。今年度の軍事予算は初の5兆円超えとなり、防衛省の来年度概算要求は過去最高額の5兆1685億円に上った。アメリカは近年、イラクやアフガンなど度重なる侵略戦争の失敗で財政赤字が膨らみ、軍事費削減をよぎなくされているが、安倍政府はこの肩代わりを買って出て、アメリカ製装備を高値で買いこんだうえ、ばく大な費用のかかる兵器開発や兵器生産にまで国費を湯水の如く注ぎ込もうとしている。「強力な同盟」を演出する裏で米軍需産業が日本の国家予算にたかりカモにしていく構造が浮かび上がっている。
 
 カモにされる日米同盟の実態

 今年3月に成立した2016年度予算は、自衛隊を戦地に投入する布石としてアメリカ製攻撃兵器を大量購入したことが特徴となった。主な装備を見ると、自衛隊に配備する最新ステルス戦斗機「F35」、離島侵攻に使用する垂直離着陸輸送機「オスプレイ」、滞空型無人偵察機「グローバルホーク」、水陸両用車「AAV7」、戦斗機にもヘリにも空中給油できる「KC46Aペガサス」などである。日本が発表する資料は武器購入費を数年間で分割したり、部品購入と組み立て費を分けるなどして全貌をつかみにくくしているが、アメリカ側の報告はあからさまに「総額2兆円の武器セールスになる」と明記している。
 米議会調査局の報告文書では日本に売却する主な兵器について
 ▼F35 42機=100億㌦(1兆2000億円)
 ▼オスプレイ17機=30億㌦(3600億円)
 ▼ホークアイ早期警戒機4機=17億㌦(2040億円)
 ▼イージス艦2隻=15億㌦(1800億円)
 ▼グローバルホーク3機=12億㌦(1440億円)
 ▼KC46Aペガサス3機=5・18億㌦(621億円)
 と明らかにしている。水陸両用車など未記載のものもあるが、この総額だけで2兆1501億円に上る。いかに多額の血税が兵器購入に回っているかを示している。
 そして大きな問題はこうした米国製兵器購入がFMS(対外有償軍事援助)方式で買わされていることだ。FMSはアメリカが「軍事援助をしている」という名目で、軍事同盟国に巨額の資金を支払わせて武器を買わせるシステムで、通常の商取引契約の常識はまったく通用しない。価格も取引条件もすべてアメリカの都合で決まり、その条件をのまない国に武器売却はしない制度である。
 アメリカの武器輸出管理法はFMSについて、①契約価格も納期もすべて米側の都合で決める、②代金は前払い、③米政府は自国の都合で一方的に契約解除できる、と規定している。それは実際の製造費と関係なく、米国側の言い値でいくらでも価格をつり上げることができることを意味する。
 これまでの戦斗機生産は、三菱重工が国内の軍需産業をとりまとめてライセンス生産していた。この方式自体が高額なライセンス料を支払う不平等な内容だが、日本の軍需産業が生産するため、日本企業もそのおこぼれでもうける関係だった。だが近年はこうしたライセンス生産すら認めず、米軍需産業が丸もうけするためFMS方式を押しつけている。
 F35も最初、日本側はライセンス生産を求めたが、アメリカはそれを認めず、FMS方式を逆提案して一蹴した。この要求に唯唯諾諾と従って高額兵器を買い込んでいるのが安倍政府で、従来の武器購入と段階を画した「日米同盟強化」の実態が浮き彫りになっている。

 F35の共同開発 他国は撤退するのに…

 そもそもF35(ロッキード製)の製造自体が日本の要求ではなくアメリカの要求である。もともと米国は最新ステルス機F22を主力戦斗機にすることを検討し、「技術流出を防ぐため他国へ売らない」と主張していた。だがイラクやアフガン戦争による軍事費が国家財政を圧迫し、財政赤字が膨張し、軍事費削減をよぎなくされた。結局米軍の主力機としてF22を導入する計画は頓挫し、もっと価格の安いステルス機を調達する動きになった経緯がある。
 かといってアメリカ一国のみで新たな戦斗機を開発する財力もないなかで、九カ国(米国、イギリス、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、オーストラリア、デンマーク、ノルウェー)を巻きこんで技術協力や財政協力を押しつけF35の共同開発へ着手した。ステルス性能とともにB61戦術核を搭載する核攻撃機で、米国防総省は米軍の主力機としてF35を2456機(米空軍1763機、米海軍・海兵隊680機)購入すると発表した。日本、イスラエル、シンガポール、韓国も購入すると手をあげた。
 だがF35の開発費が高騰していくなか、共同開発国も調達機数削減や共同開発撤退の意向を表明し始めた。イギリスは当初の138機導入計画を40機以下に削減し、ノルウェーは2年間の購入延期を発表。カナダも80機導入計画を65機に削減し、オーストラリアやオランダも調達機数削減の検討に入った。アメリカの国益のための兵器開発でばく大な開発・研究費支出を迫られていく各国が反発を強めるのは当然で、共同開発国9カ国のうち半数を超す5カ国が調達機数削減を表明する動きになった。
 こうしてアメリカへの批判が強まっても当初計画通りF35の42機調達計画を変えず、FMSに基づく購入価格を忠実に払い続けてきたのが安倍政府だった。アメリカからFMSで調達するF35の単価は2012年当初は1機96億円だった。それが開発費などの増加で翌13年は140億円に値上がりし、14年には159億円にはね上がった。だがいくら値上げしても従順に買い続けるため、アメリカはその後も値上げを続けた。15年になると172億円になり、16年には1機181億円になった。同じ4年前に96億円だったF35が4年間で85億円もの値上げである。すでに3416億円(22機分)つぎ込んでおり、さらに20機購入する計画になっている。
 またF35をめぐるFMS方式は三菱重工、IHI、三菱電機が米軍需産業の下請として最終組み立てラインを担当している。各国が反発して調達機数を減らしており、米軍需産業が新たにばく大な投資をして生産ラインをつくっても、もし注文が頭打ちになれば大赤字に陥るからである。
 この肩代わりを買って出たのが防衛省と日本の軍需産業である。防衛省が1000億円投入して三菱重工小牧南工場(愛知県豊山町)に生産ラインを建設し、エンジン部門担当のIHI瑞穂工場(東京都)には426億円を投じ五階建ての組み立て工場を建設した。しかしFMSは組み立て後の製品をすべてアメリカ側に納入し、そこで示された価格で日本側が買いとる仕組みである。いくら日本で製造したとしても、アメリカの言い値で最終価格が決まるため、日本の軍事予算からアメリカのみが確実に利益を回収していく体制である。
 さらに日本政府には、アメリカなど共同開発国に「技術支援経費(テクニカル・フィー)」を三年間で1995億円支払うことも義務づけられている。

 オスプレイ、AAV7 欠陥兵器も進んで購入

 オスプレイ(ボーイング製)も防衛省が発表した価格より実際は高額である。防衛省は「中期防衛力整備計画」(2014~2018年度)での17機購入について、2015年度に5機で計611億円(1機当たり122億円)としていた。ところがアメリカの国防安全保障協力局が米議会に提出した資料では、日本に輸出するオスプレイは17機が計30億㌦(約3600億円)となっており、1機約211億円になることが判明した。オスプレイは速度が速く航続距離は長いが、墜落事故が絶えず輸送能力も低い。米陸軍の大型輸送ヘリCH47が55人を乗せて大型貨物を運ぶのに対し、オスプレイは24人しか乗せられない。しかもCH47は1機3500万㌦(約42億円)で価格の差も大きい。このため最初は米陸軍も海兵隊も採用せず、米議会が圧力をかけ採用させた経緯がある。このようなものを日本では非常に優れたヘリであるかのように宣伝し、FMS方式で購入することになっている。
 水陸両用車AAV7もアメリカでは生産中止になっている骨董品といわれている。ベトナム戦争時に開発され、目新しい技術などないが、1両7億円で日本が買い込むことになっている。大型で狙われやすく装甲はアルミで防御力も低いと軍事研究者のあいだで評判はさんざんだが、防衛省はFMS方式で52両購入する。アメリカで売り物にならない骨董兵器を日本が高値で買い込むというのである。FMS方式で前払いさせて、武器を実際に収めない「未納入」も多い。防衛装備庁が公表した未納入額は227億円(今年3月末現在)で、代金を払っても書類上の手続が完了していない金額は321億円。未精算額は合計で548億円に達している。

 自衛隊は最前線 日本全土を兵站基地に

 こうしたFMS方式を縮小するどころか、急速に拡大しているのが安倍政府である。もともとFMS方式による調達額は600億円前後で推移し、第2次安倍政府登場前の2011年は589億円だった。ところが2012年は1372億円に倍加させ、2013年(1117億円)と2014年(1873億円)も1000億円規模を維持。そして2015年には4705億円に急増させ、2016年度予算案では4858億円を計上した。FMS調達額は第2次安倍政府登場前から八倍に膨れあがった。日本の軍事予算も安倍政府登場後から増額を続けて5兆円を超えている。
 こうしたなかアメリカの軍事費は2011年の7113億㌦(約85兆円)をピークに減少を続け、2017年度予算は5827億㌦(約70兆円)になった。アメリカは10年に及ぶアフガン・イラク戦争で敗北し、経済的にも財政的にも窮地に陥り軍事費を増額する経済事情にはない。とりわけイラク戦争をはじめ世界各地へ米軍要員として動員された若者の家族をはじめ、アメリカ国内の戦争阻止世論が力強く発展し、米大統領選でも下から揺さぶっている。
 かつてアメリカの軍需産業は30社以上が世界をまたにかけて兵器を販売し、戦争で破壊されると復興利権に潜り込んで暴利をむさぼっていたが、東西冷戦後、欧州諸国でも軍事費削減が進み兵器輸出は落ち込んでいる。そのなかで合併・買収が進み、現在の主要軍需産業は5社(ロッキードマーチン、ボーイング、レイセオン、ノースロップグラマン、ゼネラルダイナミクス)になり、日本の軍事費や国費にたかり、食い物にする姿があらわになっている。
 こうしたなかで武器輸出禁止を解禁し、ODAの軍事転用を認め、昨年10月には民間企業の武器輸出の窓口を担う防衛装備庁を発足させ、国家上げてアメリカの軍需産業支援に乗り出す安倍政府とはいったいどこの政府なのか問わなければならない。大学や研究者を軍事研究に動員するために防衛省ひも付きの研究の応募も開始し、研究者のなかでは軍学共同に抗する強力な抗議行動が広がっている。
 昨年の安保関連法成立以来「集団的自衛権」といい「日米同盟の強化」といってやってきたのは、「駆けつけ警護」と称して自衛隊員を最前線へ押し出し、日本の国家予算を投じて、兵器の研究・開発・製造もふくめ、日本が窮地にたつアメリカの肩代わりを買って出る体制づくりにほかならない。
 日本の国益を差し出し米国に貢ぐ安倍政府の売国ぶりは際だっており、自衛隊員の戦地動員、米軍基地増強に加え、日本全土を兵器生産の拠点、兵站基地に変貌させる動きは座視できないところにきている。

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