東京都港区の芝公園で15日、「TPP(環太平洋経済連携協定)を批准させない! 1万人行動・中央集会」が開催された。同協定に反対する有識者や団体代表など20人が呼びかけ人になり、各界270団体が賛同する実行委員会が主催し、東京都内をはじめ北海道、東北、近畿・中四国、九州など全国各地から農業者や生協、平和、消費者の団体・個人が参加した。安倍政府がTPPの国会審議を開始し、今月内の国会承認を目指して強行採決も辞さない構えを見せるなか、そのベールに包まれた問題点を全国に発信し、批准阻止の世論を喚起していく意気込みが溢れた。
はじめに呼びかけ人を代表して主婦連合会の山田香織氏が挨拶。「昨日審議入りしたTPPの国会承認と関連法案の今月中の衆院通過を目指して政府与党は意欲を高め、“厳しい交渉だったが国益にかなう最善の結果となった”“経済効果が一四兆円だ”“日本が動くことでアメリカも引っ張っていきたい”など首相や担当大臣が言葉を並べている。だが先の国会で農水大臣は、“主要農産品で無傷のものは一つもない”と認めている。そもそも公約違反であるTPPは、残されている農産品の関税もやがて撤廃されることが決まっており、食の安全への懸念は計り知れない。医薬品の価格高騰、国有企業の開放、地域の雇用や振興策への規制など危険な内容で溢れている。そうした中身の検証や国民への説明がないまま早期に批准させるのは、暮らしの安心・安全や公共の利益よりも、大企業や投資家の利益が優先される協定だからだ。後戻りができないどころか、国民を守る制度がどんどん壊されていく。そうでなければ、6000㌻もの協定文をしっかり国民に提示すべきだ」とのべた。
野党議員が登壇。昨年の国会前では党首が「安倍政府打倒!」などと熱弁していた民進党の議員が一人も参加しなかったことは、その移り身の早さを強く印象付けた。
挨拶した山本太郎参議院議員は、「マスコミはTPP問題を農業問題だけに矮小化して大きく扱わない。それはTPPが多国籍企業のための最大限の規制緩和をおこなうための条約だからだ。テレビやマスコミにとっては最大の広告主であり、その広告収入確保のために正しく伝えようとしないのだ。一人一人がわかりやすい言葉でTPPの危険性を多くの人に伝えるしかない」と指摘。自民党が2012年総選挙で作製した「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない」のポスターを掲げ、「彼らは“TPPバスの終着駅は日本文明の墓場だ。アメリカのものなんだ”(稲田防衛大臣)といっていた。それを今度はてのひらを返して全力でとりくもうとしている。このTPP批准を諦めさせるだけでなく、来年に予想される“ボクちゃんがオリンピックまで総理でいたいための解散”で国民全体でお仕置きするべきではないか」と投げかけた。
さらに、「TTPの協定文書も交換文書も6500㌻に及ぶ英文だ。翻訳されたのはたった3分の1。これでどうやって審議しろというのか。なぜ審議を始めているのか。日米間でのやりとりの中身の公開を求めると、四五㌻全部が黒塗りの文書。まさにノリ弁だ。自民党議員はこれまで珠玉の名言を残しているが、“TPPは主権を売る行為に等しい。どの国の政治家なのか!”といっていたのは現在の山本農水大臣だ。一人一人がこの協定の中身をわかりやすく伝えて広めていくことがTPPを止める鍵になる」と呼びかけた。
各界からの挨拶では、若者や農業者、学者、著名人らが登壇した。
北海道出身の男子学生は、地元でのTPP反対の活動を紹介し「日本有数の食料庫であり、聖域五品目すべてにおいて全国有数の生産量、出荷量を誇る北海道の農業や畜産業が自由貿易協定によって打撃を受けるのは明らかだ。今夏、北海道はまれに見る台風で多くの農家が被害を受けた。何度か南富良野町の農家に足を運んだが、出荷間近の手塩にかけて育てた野菜が流され、一夜にして何百万円もの借金を背負うことになった農家の人たちは明るくボランティアをもてなし、笑顔でシャベルで泥出し作業をしていた。そのように前を向いて頑張っている北海道にとってTPPを承認するということは死刑宣告に等しい。TPP承認を阻止するために動くことは私たちの義務だ」と怒りを込めてのべた。
さらに、「TPPの規制緩和によって、もっとひどい目にあうのは海の向こうの隣人かも知れない。加盟国のベトナムでは、賃金水準が中国よりも低く、米国や日本の大企業にとっては格好の労働力の搾取の対象になり得る。ここ数日、若い新入社員を過労死に追い込んだ某社の、人を人とも思わないブラック企業の実態がとり上げられている。低賃金や低待遇に苦しめられている人人が大勢いるこの日本の労働社会で、僕らの国が優先的にとりくまなければならないのは大企業の利益をあげるためのTPPの締結ではない。日本のみならず環太平洋地域のすべての労働者の生活や安全を保障するための様様な規制が撤廃されてしまう恐れのあるTPPは何としてでも阻止しよう。この国を利益追求ではなく、生命を重んじる、思いやりのある社会に変えていくためにTPPに反対する」と力強く語った。
日本協同組合学会会長で龍谷大学の石田正昭教授は、学会総会でTPP反対声明を決議したことを明かし、「TPPへの賛否はあっても安倍政府の批准の進め方には全員賛成できないという結論だ。学会が反対する理由の1つは、このTPPが人人の暮らしと命を脅かす、2つめは、生協、労協、農協などさまざまな協同組合の組織と企業に重大な脅威を与える。3つ目は、日本が加害者になって途上国の人人の暮らしと生命を脅かすことへの危惧だ。TPPだけでなく、金融緩和、財政出動、TPPをはじめ年金、健康保険を締め付ける民間投資の拡大が国民を苦しめている。生活を脅かし、景気回復をますます遠ざけるアベノミクスに皆さんとともに反対していきたい」とのべた。
米多国籍企業の支配と対決 世界の運動と連帯し
エコノミストの植草一秀氏は、TPPは「強欲な巨大資本ハゲタカのための条約」と強調。「このハゲタカ企業は、1980年代以降、日本を経済植民地にするためにあらゆる手を尽くしてきた。TPPの最大の標的は日本だ。日本の農業を、農家の農業からハゲタカ企業の農業に変える。すべての人に基本的な医療を保障する医療制度から富裕層だけの医療制度に変える。規制や基準の緩和によって食の安心・安全が壊される。労働規制の撤廃によって“1億総非正規化”となることは疑いない。共済事業が破壊され、労組、農協、生協は解体。さらに日本の郵政マネー、GPIFの年金マネー、企業の内部留保、政府の外貨準備など合計約1000兆円がハゲタカによって持ち去られる内容を秘めている」と指摘した。
さらに「協定文の6300㌻は非常に内容がわかりにくく曖昧だ。そして、4年間の秘密保持義務によって交渉過程が明らかにされず、レーダーに映らないステルス爆撃機のような実態だ。それにはISD条項という核弾頭が積まれ、それにより日本のさまざまな規制が強制的に変えられてしまう。かつて沖縄は、日本から切り離され、銃剣とブルドーザーで蹂躙されてきたが、これからの日本は安倍晋三とISDによって蹂躙されていくことになる。かつて稲田防衛大臣は“TPPは日本文明の墓場行きのバス”といったが、もっと正確に言えばTPPは無限地獄、灼熱地獄行きのバスだ。そんなバスに全国民を乗り込ませ、行き先も告げずに無断で発車させることなど絶対に許すことはできない。多くの市民が連帯して阻止し、安倍暴政を打倒するために力を尽くしていきたい」と決意を表明した。
福島県安達地方の農業者は、本宮市や二本松市でTPP反対の15㌔の軽トラパレードを実施したことをのべた。「先月、輸入米事件が発覚したが、米価暴落の原因は輸入米調整金にあったと怒りがこみ上げる。輸入米は業務用に流れているようだが、福島のコメは原発事故の影響で業務用向けが急増した。福島のコメは原発事故と輸入米の裏取引という無責任な政府の政策によって二重に苦しめられている。必要なときに安心・安全な食料を供給するのが私たち農民の仕事であり、それを保障するのが国の責任だ。農民自身の問題でもあり、国民全体の命運を握っている」と力強くのべた。
昨年10月以降、TPPの交渉テキストの分析にかかわってきたアジア太平洋資料センター事務局長の内田聖子氏は、「昨日の国会答弁で政府与党は、テキスト分析結果でも明らかになっている国民皆保険制度や食の安全崩壊など危険性は一切無視し、“日本は経済成長する…”等等の説明に終始していた。日本をどこに持っていこうとしているのかと怒りがこみ上げる」とのべた。
そして「アメリカでは、反対する人人が大統領選直後に議会承認されないように大きな運動に動いている。知識層の間でもISD条項が問題視され、主権が脅かされ、国が企業から訴えられる危険性を指摘する人が多い。それはそのまま日本にとっても大きな危惧になっているが、日本政府は“日本が企業から訴えられることはない”と平然と嘘をいっている。他の加盟国でも、反対運動が盛り上がり、承認が先送りになっている。カナダやオーストラリアなどでは署名後、国民への説明やパブリックコメントがおこなわれているが、日本は妥結後、一度も市民が自由に参加できる説明会もコメントの募集もされていない。民主的手続きの観点から見ても異常と言わざるを得ない。日本の批准を阻止しても、アメリカやグローバル企業は別の形で私たちの生活を脅かしてくる。これからも継続した運動が必要だ」と腰を据えた運動の継続を訴えた。
集会アピールの決議後、呼びかけ人を代表して山田正彦元農水大臣が閉会の挨拶で登壇し「TPPを含め日本で問題になっている戦争法案による南スーダン派遣、辺野古問題など様様な問題の根っこにあるのは、まさにアメリカの多国籍企業、軍産複合体による世界支配それだけだ。アメリカ国民も各国の国民もこの徹底的な格差社会に対するたたかいに立ち上がっている。日本でも、安倍政府はTPPの11月8日までの強行採決を目指しているが、これを阻止するために力をあわせて頑張ろう」と語気を強めた。
その後、集会参加者はトラクターを先頭に、「TPPの批准阻止」「暮らしを守ろう」とスローガンを連呼しながら銀座までの約3㌔のデモ行進をおこない、市民にTPPの内容を訴えた。