山口県漁協には当事者適格なし
中国電力の上関原発建設計画にともなう漁業補償金の受けとりを迫る山口県漁協本店(森友信組合長)の不当な行為に対して、補償金の受けとりを拒否する上関町祝島の漁師2人が祝島島民を代表して山口地裁岩国支部(佐野義孝裁判長)に申し立てた仮処分に対し、同支部は21日、祝島の2人の漁師の申し立てを認める決定を出した。漁業補償金の受けとりを画策した山口県漁協本店の企みは失敗した。
今回の仮処分申し立ての発端は5月10日の山口県漁協祝島支店の組合員集会にある。この組合員集会は通常の決算報告をするためのもので、本来県漁協本店の関係者が出席する性質のものではない。ところが事前の会合で山戸貞夫氏が「本店にいろいろ質問したいことがある」と主張したことで、異例なことに本店の仁保宣誠(専務理事)、原田博之(参事)、村田則嗣(監事)の3人が出席して開催された。
組合員集会では、事前に組合員に文書で通知された2つの議題についての審議が終了した。1つは決算について、2つ目は赤字についてで、組合員が1人当り12万4000円負担するというものだった。2つの議題が採択されたあとで1人の漁師が、県漁協本店の関係者から促されて修正案を文書で提案した。要旨は「赤字を個人に負担させるのは重すぎる。原発の漁業補償金から出せば個人も助かるし、漁協運営もうまくいく。そのための総会の部会を開催してほしい」というものだった。個人の負担金の支払い期限は7月末日となっており、それまでに総会の部会を開催して補償金を赤字の補てんにあてることを求めた。
しかし、この赤字の個人負担分を支払うために原発の漁業補償金を受けとるという修正案は、原発建設を阻止するために漁業補償金の受けとりを拒否してきた組合員の激しい反発にあい、採決できなかった。県漁協幹部たちが粘って採決させようとしたものの、最終的には時間切れで幕切れとなった。この日議長を務めていた運営委員長の恵比須利宏氏は、「組合員集会の混乱を招いた」責任をとってその場で運営委員長を辞任することを表明した。
祝島の組合員は、これで修正案に示されていた「赤字を原発の補償金で穴埋めする」件はなくなったものととらえていた。ところが6月14日、「書面議決書」なるものが、恵比須利宏運営委員長・組合員集会議長名で正組合員に配布された。要旨は修正案の審議は継続審議となっているため、書面議決をおこなうというものだった。
ちなみに恵比須利宏氏は組合員集会当日、運営委員長辞任を表明しており、議長の任も集会終了をもって解かれている。同氏は「書面議決書の内容については関知していない。本店あるいは中国電力がかかわって作成したものと推測する」と述べていた。
「書面議決書」は無効であるとして、祝島の漁師2人が代表者となって7月4日に山口地裁岩国支部に対して、「書面議決書」の開票禁止を求めて仮処分を申し立てた。申し立ての相手は県漁協の森友信組合長と恵比須利宏議長。
岩国支部の決定では、恵比須氏に対しては、「集会の散会によって恵比須氏は議長ではなくなり、修正案は廃案になった」とし、書面議決書による採決を違法・無効とした。そのうえで書面議決書の開票を禁じた。また県漁協については「当事者適格がない」との判断を出した。恵比須氏は「裁判所の指示がありしだい一刻も早く書面決議書は破棄したい」と裁判所の決定に従うことを明らかにしている。
祝島の漁業権問題については、祝島が漁業補償交渉のテーブルにもついていないのに、2000年に107共同漁業権管理委員会(関係8漁協で構成)の多数決によって「妥結」し、中電が125億円を管理委員会に振り込んで今日に至っている。祝島はその後も受け取りを拒み続け、他の関係7漁協が決めた配分額10億8000万円は宙に浮いていた(法務局へ供託)。これが10年を経過すると国庫へ没収され、祝島は受領しなかった=漁業権は生き続けている=漁業権交渉は振り出しに戻るとなった際に、山口県漁協が祝島の断りもなく法務局から供託金を引き出し、勝手にに「管理」している状態が続いている。当事者適格のない者が当事者の了解もなく供託金を引き出し、これを受け取らせることによって漁業補償交渉を妥結に持ち込むという変則的なやり方である。
既に「漁業補償交渉の妥結」から17年が経過した。当事者の了解もなく結んだ「契約」が無効であることも当然だが、17年も宙に浮いてきたものの有効性を争っていること自体に疑問がある。当事者適格のない県漁協が当事者の意志に反して10億8000万円を握りしめている状況を解決すること、受取人が受領を巨費しているカネを国庫に没収させて漁業権消滅補償を無効化させることが求められている。