中東での指導権行使から後退 無謀な言動の背景に何が
トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことに抗議して、国連総会(193カ国)は21日の緊急特別会合で、首都認定の撤回を求める決議案を128カ国の賛成多数で採択した。第2次大戦後、アメリカは世界最大の核軍事力とドルを基軸にした「国際通貨制度」をもとに、国連を道具にして世界に覇を求めてきたが、いまやその孤立は際だったものとなり、指揮棒はさびついてしまっていることを鮮やかに示した。
これに先だって18日の国連安全保障理事会では、エルサレムの首都認定は無効であるとして、トランプ政府に撤回を求める決議案をエジプトが提案した。アメリカの拒否権で廃案になったものの、それ以外の全14理事国が賛成し、安保理でアメリカが孤立する事態が生まれた。
すると、イスラム協力機構(57カ国・1機構)を代表するトルコと、アラブ連盟(21カ国・1機構)を代表するイエメンがただちに緊急特別会合の開催を求めた。国連総会では安保理のような拒否権は行使できない。決議案は、エルサレムの地位を変更するいかなる主張も法的に無効であり、撤回されねばならないこと、エルサレムに大使館を置かないようすべての国に要請すること、パレスチナとイスラエルの二国家共存を脅かす動きの転換を求めること、が内容だった。
これに対してトランプは20日、「アメリカから何億㌦、何十億㌦も受けとっておいて、われわれに反対票を投じる国がある。アメリカに反対するならしたらいい。われわれは多額の節約ができる」と経済援助うち切りをちらつかせた。また、米国連大使ヘイリーは「緊急会合でアメリカに反対した国の名前を大統領に報告しますよ」といった。これはアメリカから毎年13億㌦(約1470億円)の軍事援助を受けているエジプトや、アラブ諸国はじめ世界各国への露骨な脅しだったが、それが逆に「米ドルで民主的な自由意思を買うことはできない」(トルコ・エルドアン大統領)と、各国の反発を強めさせた。
その結果、決議案に賛成した国が128カ国と大多数になり、反対は9カ国、棄権35カ国、欠席21カ国となった。
アメリカを支持して反対に回ったのはわずか8カ国である。マーシャル諸島(人口6万人)、ミクロネシア(同10万人)、パラオ(同2万人)の3国は、いずれも戦後はアメリカの信託統治領であり、その後「独立」と見せかけてアメリカと自由連合盟約を結ばせ、安全保障と外交上の主な権限はアメリカ政府が握り、歳入の多くもアメリカに依存している。これらの主権を奪っている国にいうことを聞かせたにすぎない。棄権や欠席した国を見てみると、アメリカが軍事基地を置いたり、通貨や貿易、経済援助などで従属関係を強いているカリブ海や南太平洋、アフリカの小国・貧困国が多い。
中東アラブ地域では、イスラエルを除いてすべての国が賛成で一致した。ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3つの宗教の聖地があるエルサレムをめぐって、第1次中東戦争で西エルサレムを武力占領し、第3次中東戦争で東エルサレムを武力占領するという国際法違反をやり、その後もパレスチナ人の故郷を奪い、反抗する者は銃殺したりミサイルを投げつけたりと好き放題をやってきたのは、アメリカに支援されたイスラエルである。「エルサレムをイスラエルの首都に認定する」ということは、パレスチナ国家の抹殺を意図する野蛮なやり方を容認せよということであり、そんなことをアラブ世界も国際社会も認めるわけがない。「二国家共存」を前提に、当事者間の平和交渉で解決する以外にどうしようもないのである。
変化しつつある力関係
今回の国連総会ではっきりしたことは、アメリカの指導力の劇的な低下と国際的孤立だった。
そもそも国連は第2次世界大戦の最中に構想し、戦勝国である米英仏ソ中が招請したサンフランシスコ会議で1945年10月に正式に発足したものだ。それは戦後、核軍事力と基軸通貨ドルによって圧倒的に優位な力を持つアメリカが、ソ連と対抗しつつ、世界各国に侵略し支配するための道具として機能してきた。
近年で見ても、1980年にはソ連のアフガニスタン侵攻に対して、国連の緊急特別会合を開かせてソ連撤退決議を採択させ(賛成104、反対18)、ソ連に対する経済制裁や反政府勢力への武器援助を実行した。1991年のイラクのクウェート侵攻のさいにも、2001年のニューヨーク・テロ事件(アフガニスタンへの攻撃)のさいにも、国連安保理決議にもとづいて各国に軍隊を出させ、多国籍軍を投入するというのがアメリカの常套手段だった。そのアメリカがいまや国連総会で孤立し、イスラエルに対する政策の変更を世界の加盟国から突きつけられている。
今年は国連で、122カ国の賛成によって核兵器禁止条約が採択された年でもある。アメリカをはじめとする核保有国や、対米従属の日本政府は不参加を決め込んだが、ASEAN諸国を筆頭に多くの国々は明確に意志を表明した。そして同条約のために尽力したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン。世界101カ国のNGOが参加)がノーベル平和賞を受賞した。授賞式で被爆者が、非戦闘員を焼き殺した原爆を「戦争を終わらせた良い爆弾」といってきた者に対して鋭い追及をおこなったことは、強い印象を残した。それは、核兵器廃絶と世界平和を求める世論がもはや押しとどめられないほど広がっていることを示すとともに、戦後のパクス・アメリカーナ(アメリカの一極支配)が終焉を迎え、国際的力関係に大きな変化が起こっていることを、今回の出来事とともに浮き彫りにしている。
今回のエルサレム首都認定を巡って疑問なのは、トランプなりアメリカ政府は何をしたかったのか? ということだ。「国内のキリスト教福音派にいい顔をしたかっただけ」という見方もあるが、そこに踏み込めば世界中から総反発を食らうことがわからないほど中東政策に無理解なのか? 等々、無謀きわまりない言動の背景に何があるのか考えさせるものがある。
今年3月にトランプが発表した2018年の予算教書は、対外援助の予算を3割近くも削減している。今回の国連決議にさいして、トランプやヘイリーが「アメリカは他国に利用されることにうんざりしている。これ以上、利用されない」といったり、国連の通常予算の22%を負担していることに不満をのべていた。それは決議に賛成する国への脅しであると同時に、巨額の対外援助を減らす口実に、今回の決議を持ち出したという別の側面からの見方もできる。
また、今回のエルサレム首都認定で、結果としてアメリカは中東和平の仲介者としての役割を当事者から拒絶されてしまった。パレスチナ自治政府のアッバス議長は「アメリカはもはや公平な仲介者ではない」と非難し、米副大統領ペンスとの会談を拒否した。その空白をついて、ロシアがパレスチナとイスラエルの首脳会談をロシアで開くことを提案した。シリアに目を向けてみると、ここでもアメリカによるアサド政府転覆策動は失敗し、国連によるアサド退陣を前提とした和平協議も頓挫するなか、ロシアが主導して「シリア国民対話会議」をロシア国内のソチで開く動きが生まれており、復興特需にもロシアや中国が色めき立っている。
アメリカは国内で資本主義の末期的症状があらわれ、統治が揺らいでいるなかで、中東に対して米国製兵器を売りつけることには関心があるが、政治的リーダーシップの行使からは引きつつあるという現実があらわれている。それは矛盾の緩和を意味するものではなく、中東をめぐる争奪をより激化させ、戦争を引き寄せる危険性をはらんでいる。