森友学園への国有地払い下げをめぐる財務省・国交省の値引きについて、国会の要請を受けて値引きの適正性を調べていた会計検査院(河戸光彦院長)が調査結果を発表した。8億円超の値引き額については「算定方法には十分な根拠が確認できない」とし、独自に試算したところ、実際には3~7割程度だった可能性を指摘した。一方、適正価格については「条件を示す資料はなく、詳細な内容を確認できない」「検証が十分におこなえない」とするのみで、調査としては不徹底なものとなったが、「適正な取引」としてきた政府は拠り所を失うこととなった。
会計検査院は、国の収入支出の決算に対するチェック機関で、憲法上、内閣に対して独立した地位を持ち、独自に国の会計経理を監督・適正化する権限があり、国に重大な損害を与えたと認めた場合は懲戒処分や賠償を要求できる。これまで安倍首相は、国会で追及される度に記録文書も、関係者の証人喚問にも応じず、「審査は会計検査院がやることだ」と説明責任を棚上げにしてきた。
調査では、国が1万9520㌧と認定した地中のゴミの量は、推計の理由とされた混入率や深さに十分な根拠が確認できなかった。そのため検査院は、国交省が用いたデータをもとに混入率や深さを算定し直してゴミの量を独自に試算した。その結果、少ない場合だと6196㌧、多くなる場合でも1万3927㌧となり、国の算出結果を3~7割ほど下回った。
国有地を9割(8億2000万円)値引きし、別途補助金までを与え、タダ同然で森友学園に払い下げていた事実について、麻生財務大臣をはじめ佐川理財局長(現・国税庁長官)は「適正な取引」といいはるだけで算出根拠は何一つ示してこなかった。財務省に依頼されて値引き額を算出した大阪航空局(国交省)は、全敷地の約6割を対象に、校舎の基礎杭を打つ場所では9・9㍍、その他の場所は3・8㍍まで地下からダンプカー4000台分を運び出した計算で見積もった。ところが国交省も財務省も、その8億円分のゴミの存在や、場所すら確認しておらず、森友学園側からの申し出を丸呑みして算定していたことが発覚している。近畿財務局理財局長も「撤去されたかどうかは、契約上も確認をおこなう必要はなく、詳細は承知してない」と開き直ってきた。
大阪航空局は2009年段階の調査で、この土地の地下に埋設ゴミが存在することを認識しており、土地を貸し付けた森友学園に地下3㍍までのゴミの撤去・土壌汚染除去費用として1億3176万円を支払っている。そのうちのゴミの撤去費は約8632万円だった。ところが、その後、森友学園が「新たな埋設物が見つかった」と申し出て、校舎などを立てる区域では新たに80㌢掘り下げるために8億2000万円の値引きを査定している。80㌢の深さから、3㍍掘ったときの10倍のゴミが出てくるという、だれがどう考えても不思議な算出結果だが、国交省は「適正」といい張り、交渉記録や算出根拠、現場確認の有無については「記憶がない」「記録は廃棄した」とし、検証不能を装ってきた。
会計検査院は、「大阪航空局が確認したとする工事写真は性格に3・8㍍を指し示す状況が写っていない」「ゴミが出なかった場所を混入率の平均から外しており、合理性がない」と指摘。また、「残された文書では、学園側との具体的なやり取りが確認できず、検証を十分おこなえない」とし、文書管理のあり方に改善を求めた。
国有地売買については、大阪地検に拘留されている籠池前理事長が近畿財務局との交渉を録音した音声データを公開しており、財務省側が「いくらなら買えますか?」とお伺いを立て、値引き手法と売却にいたる手順をレクチャーしていたことが明らかになっている。いくら「廃棄した」とはいえ、「訴訟を起こされる可能性」まで視野に入れていた国側にデータが残っていないとは考えにくく、会計検査院が示した不徹底な調査結果は、証拠を隠蔽する国側への配慮を印象づけている。
ただ、適正な取引でなかったことが確定したことにより、安倍政府には説明が求められる。売却の決裁権を持っていた佐川前理財局長や迫田元理財局長をはじめ、名誉校長として土地取引に関与していた安倍昭恵などを国会招致し、証人喚問にかけることでしか全容解明はできない。