過剰ノルマと経費削減 労働者は長期に疑問
国内鉄鋼3位の神戸製鋼で発覚した品質に関するデータの改ざんが国際的な問題となっている。当初発覚したアルミ・銅製品から、本業である鉄鋼製品でもおこなわれていたことが明らかになり、納入先は200社から500社へと膨らんだ。米司法省が情報開示を要求し、欧州航空安全機関(EASA)が神鋼製品の使用を控えるよう勧告をおこなうなど、影響は広がり続けている。日本工業規格(JIS)をめぐる法令違反まで出てきて、「神戸製鋼は大丈夫なのか」という声が強まっている。
ミス隠蔽体質つくった能力給導入
下関市には神戸製鋼のなかでも比較的長い歴史を持つ長府製造所があり、長府の町でも、関連する企業のなかでも「大丈夫なのか」という声は強まっている。問題が発表された直後、長府製造所自体はあまり深刻な受け止めはしていなかった様子で、拍子抜けした人人もいた。しかしその後、社内調査の段階でも管理職も含めてデータ改ざんを隠蔽していたことが、再び内部通報で明らかになり、現在は従業員に飲みに出ることは禁止するなどの対応となっている。
日産に続き、「物づくり」を強みとしてきたはずの日本企業の生産現場の劣化があいついで発覚している。神戸製鋼の生産現場を知る人人は、それが長年おこなわれてきたものであり、現場の人間の多くが疑問に思ってきたことを語っている。
ある男性は、「大手が同じ製品の生産を始め、競争が激しくなるなかで神鋼は短納期を売りにしてきた。現場はノルマとコスト削減に追い立てられて、品質どころでないのが実際だ」と話した。ノルマは取引先の納期によっても変わるが、おおむね機械が止まることなく動いて生産できる目一杯の数量を基本に設定されているため、途中でミスが出ると遅れが出る。人間がかかわる「ものづくり」で、ミスがないというのはあり得ないが、ミスで機械を止めれば、「なぜ○○分も機械が止まっているのか」と注意される。ミスが出れば始末書で、能力給が下げられることも、ノルマ達成を第一にする方向に拍車をかけてきたという。
現場に入って何十年も経験を積んだベテランと2、3年の若手の技術はまったく違うが、最初から「どこかで手抜きしなければ間に合わない工程」が組まれ、ベテランも若手も同じように「いい製品を早く」と要求される。一方で遅れをとり戻そうと残業をしすぎると、それも降格の要因になり、給料や残業代の減額につながってくる。「とにかく出荷に間に合うように仕事を流すしかなく、2週間かかる検査の結果が出る前に取引先に発送し、慌てて引きとったケースや、今回問題になっているように、不良品で落としていたなかから、ましな分を抜いて差し替えることもあった」という話は、関係しただれもが口にしている。数年前に発覚したチャートの書き換えも、こうしたなかであたりまえのようにやられていたという。
ある男性は、「昔は工場全体が一体になって仕事をし、どこかが遅れれば他部署から応援に行ったりしていた。だが、能力給を導入するころから、評価がしにくいからか、部署ごとにきっちりわけて、その部署だけでノルマを達成しないといけなくなった。他部署との競争になるから、中間管理職はよけいに自分の部下にひどく当たるし、ミスも何とか隠してしまおうという意思が働く。以前はみんなでやっていた花見などもできなくなってしまった」と話す。
また「コストダウン」と「安全第一」という相反するスローガンの下、例えば金属を熱で処理すると炭化するため酸につけて綺麗にするが、酸の量を削減するよう指示が出る。量を減らせば温度管理などさらに技術が必要になるためミスも出やすくなる。「必要な薬品をまともに使わないでいい製品ができるはずがない。そういうことをするのは結局人を騙しているようなもの」という関係者もいた。
「こんな状態でいい製品ができるはずがない」と現場の大半が思っているが、労働組合に相談すれば会社に通じ、減給になるため黙って見ているしかない現状があるようだ。「内部告発が出たのも当然だ」というのが現場を知る人の実感だ。今回の神鋼の騒動が業界再編なども含む動きとなる可能性も出ているが、日本の生産現場に共通した問題として、「いい製品をつくって届けるという職人の誇りを神鋼の社員も含めてとり戻さないといけない」という問題意識が語られている。