最近は小池百合子の都民ファーストといい、トランプのアメリカ・ファースト=米国第一といい、「○○ファースト」という言葉が氾濫している。せめて日本人に向けたスローガンなら、「○○第一!」「 ○○優先!」 と叫んでほしいのに、なんだかその方が格好良いような調子で、我が町の市長選候補までが真似して市民ファーストなどといっている。企業ならコンプライアンス(法令順守)とかコンセンサス(合意)、マスタープラン(基本計画)といった単語が飛び交うようになり、選挙になるとマニフェスト(政権公約)とかアジェンダ(検討課題)といって政治家がいちいち英単語をひけらかす。「僕、単語をたくさん知ってるぞ」自慢をするくらいなら、単語だけでなく文法も含めてすべて英語で演説すればいいのにと思ってしまう。素直に日本語で伝えれば済むものなのに、脳みそのなかに英語が浸透して単語だけを置き換え、文法は日本語なのに単語は英語という中途半端な話法が横行する。無意識に使っているカタカナ語も多い。
アメリカではトランプが大統領に就任して、目下、どのような経済政策なり軍事、外交を展開するのかに注目が集まっている。就任演説ではまさにアメリカ・ファースト=米国第一を叫んだ。そして早早に「アメリカはTPPから離脱し、永久に参加しない」と明記した大統領令に署名した。アメリカから恫喝され、その求めに従って自民党政府は選挙公約までほごにしてTPP参加を決め、昨年末には一番乗りで国会承認までごり押ししたが、当のアメリカが永久不参加を決めたのである。ところが、なおも「トランプ氏も自由で公正な貿易の重要性は認識していると考えており、TPPが持つ戦略的、経済的意義について腰を据えて理解を求めたい」と安倍晋三がとぼけた言動をくり返している。そのために金庫番の麻生太郎を連れて訪米するそうである。
日本の政財界は戦後70年以上にわたって、世界でもっとも従順に米国第一を実践してきた。TPPに限らず、原発政策、沖縄をはじめとした米軍基地問題、安保法制による海外への武力参戦、自衛隊の米軍下請化、郵政民営化や異次元の金融緩和、米国債の大量購入など、どの政策もそうだった。トランプに叱られて飛び上がったトヨタの姿が象徴的だったが、日本第一などおくびにも出せない者たちが、みな民族的利益を売り渡して今日のような荒廃した社会をもたらした。
そのアメリカはいつの時代も米国第一でやってきたし、なにをいまさらアメリカ・ファーストというのだろうか。 吉田充春