いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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記者座談会 梅光は正常化に向かったのか?

梅光学院中学校・高等学校の校舎(下関市)

教員の雇い止めには拍車

 下関市にある梅光学院(幼、中高、大学)では、昨年度末で中・高、大学ともに大量に教師らの首切りをおこなったことをきっかけに、現経営陣の「財政赤字の解消」を掲げた「改革」に対して、生徒・学生、教師、保護者、同窓生らが学院の正常化を求める運動を展開してきた。このもとで学内の問題を隠蔽するかのように恣意的な解雇や体制変更があいつぎ、教育機関として体をなさない状況がさらに深まっている。生徒や学生たちがあたりまえに学ぶことができない環境になっていることを誰もが心配し、下関市で140年にわたって伝統ある教育機関としての地位を築いてきた梅光学院の正常化を求める世論はますます強いものになっている。1年をへてどうなっているのか、取材にかかわってきた記者たちで論議した。

 学生かき集め学習環境は貧弱 子ども学部の学生が署名提出

  梅光の問題が表面化したきっかけは、昨年度末で中高のベテラン教師が14人、大学で11人が辞職に追い込まれたり、解雇されたことだった。その辞めさせ方があまりにもひどいと、かつての梅光を知る下関市民に衝撃を与えた。中高の生徒が真っ先に動き始め、慕っていた先生の解雇を止めようと署名運動をし、大学では文学部の矢本准教授の雇い止めに対して学生たちが署名を集めるなど行動に踏み出した。梅光学院始まって以来の大リストラに、同窓生や保護者らも危機感を抱き、「梅光の未来を考える会」を設立して経営陣の退陣と学院の正常化を求める署名運動を展開した。しかし、経営陣はその声に耳を傾けることもなく、多くの教師が学院を去った。


 しかし「改革」した結果ベテラン教員が多数いなくなり、県内外でブレインアカデミーが非正規教員をかき集めるなどして何とか今年度をスタートしたが、中高にせよ大学にせよ、薄氷を踏むような体制で年度当初からミスや混乱が続き、今ですら落ち着いて勉学に励む環境ではないといわれている。それなのに今年度末でさらに教職員を雇い止めするという。


  大学では子ども学部の30代の若手教員に対して1月半ばに雇い止めが通告された。学生の授業評価も高く、信頼の厚い教員だったようで、学生も教員らも継続雇用を当然視していた存在だった。それが「積極的ではない」という理由で雇い止めになり、かわりに公募で50代の教員が雇われることになった。それを知った子ども学部の学生有志が契約更新を求める署名をとりくみ、7日に樋口学長に宛てて提出した。事前に4年生が学部長に嘆願書を出す動きもあったようだ。


 学生有志から届いた文書によると、1月25日から2月1日までのわずか8日間で225人の署名が集まったそうだ。「学生の悩みや思いに耳を傾け、親身になって相談に乗ってくださり、教諭や保育士を目指す学生たちへの教育や指導も丁寧にしてくださるため、学生からの信頼度や人気も高く、今後もこの大学で教鞭をとり続けてくださると信じていた」と記している。続けて指導を受けることは、学生が本来持っている安心できる環境で質の高い教育を受ける権利であること、後輩たちのためにも将来にわたって梅光学院に残ってほしい、という強い願いを記している。この要望に対する回答を、2月10日午後5時までに全学集会を開催するか、学内全掲示板とポータルサイトに掲示するかのいずれかの形で示すことを求めている。学生たちの切実な思いに大学側がどのような対応をするか注目されている。


  この教員は3年生のゼミも持っていた。卒論のテーマを定め、これから準備していくという時点で担当教員がいなくなり、かわりに来るのは専門分野の違う教員だ。ゼミがどうなるかも知らされず、放り出された状態で年度末を迎えている学生たちの不安ははかりしれないものがある。


 子ども学部では、公立小学校の教師をめざす学生の就職活動にもっともかかわっていた教員も今年度末での雇い止めが決まっており、公立保育園・幼稚園の窓口になってきた教員2人を含む3人に来年度いっぱいでの雇い止めが通告されている。昨年、教員らの反対を押し切って子ども学部の定員を拡大したばかりだが、今度はつぶすつもりなのかと思うほど、中核を担っている教員を首にしようとしている。


  学院全体で今わかっているだけでも、大学では子ども学部の教員2人、文学部の教員3人の計5人、職員ではアドミッションセンターの20代と50代の職員2人と秘書が1人、今年度いっぱいで雇い止めになるようだ。中高では10月から休職していた校長が2月末で退職届けを出しており、今でも校長不在という異常事態だが、教頭も他校に就職するために3月末で退職するし、社会科の教員も雇い止めなどで2人退職するという。具体的に考えたとき、来年度の学校運営が成り立つのか心配になる。


  今回は学院に協力的だった教職員も雇い止めになったという。理由なく切られるため大学内は戦戦恐恐という空気もあるようだが、客観的に見ると、むしろ経営陣の方が学内の様子を知られることを極度に恐れていることをあらわしている。


 この間、「赤字経営」といいながら、本間理事長や只木統轄本部長らは月額100万円の法人カードを使い放題だとか、理事長が下関に来たときはグランドホテルの最上階を定宿にしているとか、役員報酬を1000万円以上に引き上げることを要求したことなど、さまざまな問題が明らかになった。とくに学院の資産30億円(現在は28億円)の半分をつぎ込んでいる運用について実態解明を求める世論が強まってきた。理事会も評議委員会も意に添わないメンバーを入れ替えて外部に経営実態が漏れない体制をつくったが、どこからか学内の様子が広まるので、本部の2階にあった総務を1階に降ろして狭い部屋に押し込めたり、中高の運動会を部外者立ち入り禁止にしたり、閉鎖的な対応が続いている。開かれた学校でみんなが安心できる教育環境が望ましいだろうに、一体何を隠したがっているのだろうかと不思議がられている。学内で疑わしい教職員を血眼になって探している様子もたびたび話題にされている。やましいことが何もない以上、堂堂としていればよいのだ。何をそんなに警戒しているのかと逆に関心を呼ぶものだ。

 紙おむつすら買わない 保育士めざす実習

  本間理事長や只木統轄本部長、中野学院長、樋口学長ら経営陣が自慢しているのは、大学入学者の「V字回復」だ。少子化のもとで、私学にとって学生数の確保が死活問題であるのは間違いない。しかし梅光の場合、問題なのは学生をかき集めておいて学ぶ環境は驚くほど粗末なことだ。人事にもその姿勢が出ているが、故・佐藤泰正氏が常常いってきた「一人一人を大切にする」梅光の教育を否定して、学生=金ないしはモノとしか見ない傾向が顕在化している。


 A 保育士をめざす学生は、おむつ替えや沐浴の実習などをするが、練習に使う紙おむつは使い回しでベロンベロンだと嘆いていた。昨年頃、非常勤講師が「紙おむつを買ってくれ」と頼んだら断られたようだ。その話を漏れ聞いた学生が購入の要望をあげると、逆に非常勤講師が叱られたという。沐浴の練習も給湯器の湯が出ないから、冷たい水を使っている。赤ちゃんの沐浴を冷たい水でするのか? 離乳食をつくる練習をしようと調理室に行けば、ホコリをかぶっている鍋等を洗おうにも洗剤はなく、タオルはカピカピになって不衛生きわまりない状態。「保育士になりたい」と志して梅光を選んで入学したのに、基本的なことを学ぶことができない。


  最近ではピアノが3台なくなって、気づいた学生たちのあいだで「売られたようだ」と話題になっている。それも試験の直前で、家や下宿先にピアノを持っていない学生が練習に使う時期だ。「電子ピアノを入れる」という説明があったものの、コンセントがなく、今になって工事が始まっているという。ピアノは調律さえすればいくらでも使えるし、幼稚園・保育園ではピアノを使うところが多いのに、なぜ電子ピアノをわざわざ買うのか? との疑問を学生たちは持っている。


 A 「学生生活充実度2年連続NO1」の横断幕を掲げているけれど「どこで調査したのか?」というのが学生の実感だ。まともに学べないうえに、頼りにしていた教員が次次にいなくなる。卒論も就職も不安ばかりだ。子ども学部の場合、幼稚園教諭、保育士、小学校教師の3つの免許が取得できることを売りにしているが、カリキュラム上、現1年生は3免許を取得することは不可能だといわれている。入学当初は「介護士の資格がとれる」という話だったのに、いざとろうとすると「開講していない」といわれた学生もいたりと、学費を払っている親たちが知ったら詐欺だと思うのではないか。


  ANAエアラインスクールとの提携や東京アカデミーの公務員講座、教員養成講座など、民間業者との提携を売り出しているが、この契約のために学生たちに講座に参加するようハッパを掛けるという本末転倒な状況も生まれている。
 「成績がよければ受講料を安くする」などするから、よけいでも金がかかるようだ。派手にこうした提携を売り出しているが、それが逆に「この学校は自分の大学で教育ができないのだろうか」という印象を深めるものにもなっている。

 混乱は大学改革の産物 文科省天下り

  なぜこれほど学生、生徒や大学・中高の教員ら、保護者や同窓生らが意見しても聞く耳なく暴走できるのか。背景には教授会の権限を弱め、理事会・学長への権限集中を図る文科省の動きがあり、実は梅光だけでなく全国の私立大学でも似たような事件が頻発している。「ガバナンス強化」などといいながら、逆にチェック機関の無力化や、気に入った人物中心の統治などがはびこるようになり、理事会のいいなりになって意見しない、理事会にとり入るなど、大学の自由な雰囲気を破壊する事態が進行している状況を危惧する大学人も少なくない。これは国立大学で先行してきたものでもある。


 文科省天下りの本間理事長らが、こうした動きを知ったうえで梅光学院に乗り込んで来て、もともと家父長的校風で理事会権限の強かった梅光で「改革」を進め、経営陣の権限を利用して現在のような混乱状況をもたらしたともいえる。最近、文科省が組織ぐるみで天下り先を斡旋していたことがとり沙汰されている。OBが月2日の勤務で大手保険会社から年収1000万円を得ていたとか、早稲田大学に天下った人物が1400万円の契約だったなどなど、今更ながら驚いたように報じられるが、月4日ほど梅光学院に来て報酬を得ていく本間理事長とそっくりだ。理事会を内部の教職員ばかりにしてしまったので、いくら報酬を得ているのか、1000万円以上に引き上げる案が通ったのか、教職員も含めて知りようのない状態になっているが…。


 D 「中高が毎年1億円の赤字を出している」という理由で「改革」を始めたが、むしろ資産は減り、赤字も拡大している。10年の長期運用に回している13億円とも17億円ともいわれる金も現時点でどれだけの損失を出しているのか明らかにするべきだろう。28億円のうち動かせる金は半分の15億円程度だという。仮に毎年1億円以上の赤字が出続けたとき、梅光学院の存続は時間の問題になってくる。今年の新年会の場では、実質機能していなかった教職員会を解散して、300万円ほどの積立金のうち一定額を返却し、残りを学院に寄付する提案もあったという。金に困っているのか? と思わせている。仮に梅光が本当に行き詰まったとき、本間理事長なり只木統轄本部長なりが最後まで責任を持って梅光に残るだろうか。
  この間、同窓生や父母、学生だけでなく市民を巻き込む形で、140年にわたって培ってきた梅光の教育を子どもたちのために守ろうという運動が広がってきた。昨年度は「文学部の問題だ」と思っていた学生たちも、「大学全体で考えなければ」と連携をとりつつ動き始めている。今の大学なり中高の現状をおおいに父母や市民に知らせ、世論を強めていくことが求められている。


  梅光の混乱状況は文科省天下り問題や大学改革の産物であって、決して梅光に限った特別なものでもない。全国の私学や国公立でも似たような問題が起こっている。しかし、余りにも酷すぎる。佐藤元学院長や歴代の教員たちが聞いたら嘆くのはあたりまえだ。仏作って魂入れずといったら宗教的に違うのかもしれないが、その逆で魂が抜かれていくような事態にも見える。女子教育とかかわって歴史的な伝統も蓄積してきた教育機関が、これほど横暴によそ者に踏みにじられて良いのだろうか。30億円の現金資産の心配もさることながら、教育機関として変質してしまうことの損失の方が甚大だ。少なくとも、中高、大学にしても子どもたちや学生たちが置かれている状況はかわいそうの一言に尽きる。教員がモノ扱いされてコロコロ首を切られるような状況は改めさせないと、安心して勉学に励むことができない。


  理事長が月4~5日で報酬を得ている実態についても「ここにもいるよ! 天下り!」といって全市的に周知するとか、そのもとで学生や生徒たちがどのような難儀を強いられているかを世間に訴えることも必要ではないか。メディアも踏み込んでとりあげないが、大学改革の最たる例として下関で起きている実態を全国に発信することが重要だ。宗教的には「オンヌリの乗っとり」とかさまざまな背景もあるのかもしれないが、間違いなく梅光が別物にされようとしている。そして、気付いた時には現金資産もスッカラカンになっていた――というオチすら想定される。大学や教育機関は学問探究や子どもの教育が中心的な仕事であって、もうけるためにあるのではない。いくら少子化とはいえ、そこをはき違えたなら経営も成り立たない。その存在意義や教育理念をはっきりさせて正常化の力を発動することが求められている。

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