下関市大和町にある下関漁港市場で15日、以東底引き網漁業(沖合底引き網漁業)の解禁にあたり、漁船7組(14隻)の出港式がおこなわれた。式には、乗組員の家族や親族、会社・市場関係者や行政関係者などが参加し、みなに見送られながら14隻の漁船が一斉に出港した。
以東底引き網漁は8月16日の解禁から、来年の5月末までの約9カ月間が漁期となる。この間、船団は下関港から10時間かけて航行し、対馬近辺の海域で漁をおこなう。海底で網を2時間引き、網を船へ引き上げて魚の選別を2つの船で交代しておこなう。1日中これをくり返し、網を引くあいだや選別が休みのあいだに睡眠もとりながら、4~5日間漁をおこなってから下関へ帰港して水揚げし、また漁場へと戻っていく。暑い夏の時期も寒い冬の時期も、厳しい海の上でくり返し漁をおこなう。
式では関係者らの挨拶や鏡割り、散餅(さんぺい)式などがおこなわれた。その後インドネシアから来ている実習生約40人が登壇して紹介を受け、代表者が挨拶した。「外国人漁業実習生受入事業」のとりくみは、平成20年から始まった。乗組員の高齢化が進むなか、船の上での作業に必要不可欠な若い力として、インドネシア人実習生たちが果たしている役割は大きく、ベテラン船員に鍛えられながら懸命に役割を担っている。その実習生らは式が終わった後、出港を間近に控えるなか、1期生、2期生、3期生それぞれが円陣を組み、お互いに激励しあい、かけ声をかけていた。
出港を控える乗組員たちは、束の間の休暇を終え、家族らとの別れを惜しんでいるようだった。船へ差し入れを持ってくる家族もおり、どの漁船の前にもこれから始まる長い漁期に向かう乗組員たちの激励に訪れた人たちが集まっていた。
いよいよ出港のときを迎えると、船にくくりつけられたカラーテープを家族らが岸で持ち、大漁旗を掲げる漁船の上では威勢良く爆竹も鳴らされ、一組ずつ岸から船が離れていった。漁船は湾内を1周してパレードのように連なって出港していき、乗組員らは見送る人人に応えて手を振っていた。普段は商売敵でもある漁船同士だが、出港していく漁船の汽笛に次の出港を控える他の漁船が汽笛で応えていた。最後の1組が出港していくまで、岸壁では大勢の人人が手を振った。
以東底引き網漁業は現在の下関漁港市場における主力漁種といえる。とれる魚は全国水揚げ日本一を誇るアンコウやノドグロといった高級魚からタイ、イカ、アナゴ、カレイ類など、多種多様な魚を水揚げし、全国各地で消費されている。
以東底引きが水揚げする時期と、そうでない禁漁期とでは市場の活気も段違いだ。「以東」がとってきた魚を市場で荷捌きし、競り、仲買を通じて各地へ流通したり、地元消費などしていくなかで、付随する産業が成り立っているからだ。従って、盆明けの出港式は多くの市場、水産業関係者らにとっても一つのスタートラインで、みんなが今期の稼ぎに期待を込めてこの日を迎える。そして、厳しい航海を乗り越え、最前線で魚を獲ってくる以東底引き船団の安全を願って送り出す。出港を見送る市場関係者は「ここの市場は以東の水揚げが主力。これから賑やかになる」と豊漁を期待していた。