下関の彦島西山地区は三井東圧、三井化学、彦島(三井)製錬など、三井資本の80年にわたる牙城であるが、三井金属の子会社MCSが工場閉鎖を発表した。ピーク時に3000人いた労働者をリーマン・ショックを口実に大量に首切りし、円高を契機に残った500人余の労働者を放り出そうとしている。これは直接に首を切られる労働者を路頭に迷わせるだけではなく、下関であふれる失業者全体の就労条件を悪化させ、就労労働者の地位を悪化させる。さらに西山地区の商店や学校をはじめ地域コミュニティー崩壊と下関全体の地域崩壊の問題としてあらわれている。
企業が撤退するといえば仕方がないというわけにはいかない。MCSは三井金属の子会社であり、液晶パネル部品の製造で世界シェアの五割を独占し、ボロもうけをした。そのもうけは、親会社が吸い上げて巨額な内部留保となり、金融機関や外資が占める株主が高配当で吸い上げてきた。これは、これまでの蓄えをみな吐き出して万策尽き果てたという中小企業の倒産ではない。もっともうけるために資本をよそに振り向けるためで、労働者や地域の市民のことなど知ったことではないというものである。
別会社にしたのは、はじめからパッともうけてパッと逃げることを想定したものであり、解雇するために正社員は少数で、期間労働者や派遣労働者を主力とした。三井資本は官営三池炭坑を民営化・払い下げで手に入れ、囚人や強制連行の朝鮮人、中国人労働者などを残酷に搾取して肥え太り、60年代、石油がもうかるとなったら暴力的に閉山して労働者を放り出した。夕張市を食いつぶしたのも三井資本であるが、MCS閉鎖はそういう手法の継承である。
三井の資本蓄積の根拠はこの地域の労働者の労働である。さらに商店や学校その他の地域が形成されたことによって企業経営が成り立ってきた。MCSのために市政は市民の税金から補助金四億円を出し渋滞解消のために海岸道路をつくってやった。社会的な恩恵はもらうが、社会的な責任は果たさない。三井という日本を代表する財閥企業が、自分の損得だけで社会的責任がないのが、日本が荒廃しつぶれるゆえんである。
中尾市政は再就職のあっせんをやるといっているが、いくらあっせんしても市内に就職口がない。やるべきことは三井資本に対していかに雇用を守るようにさせるか、また市内全体でもどう仕事をつくり雇用をつくるかである。問題はMCSの労働者だけの問題ではなく、下関全体、県全体、国全体に共通の問題としてあらわれている。したがって、身勝手な撤退をやめさせ、雇用を守り、社会的な責任を果たさせるため、三井資本と中尾市政に迫る労働者全体、市民全体の世論と運動が求められている。 那須三八郎